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 朝目が覚めると、緑が歌を歌い、花々が太陽にあいさつをしていた。

 ぐっと背伸びをすれば、鳥たちが囀りながら挨拶をしてくる。

「今日もこの国は平和ねぇ。」

 国が滅びかけて、新しい王様が国を復興してから十五年が経つ。

 前の王様はそれはもう酷い王様だったらしく、なんと聖女様達を残虐非道な手口で貶めていたのだという。

 今ではそんな事はなくなり、聖女様達はこの国を守ってくれている。

 そんな聖女様の中でも最も尊敬されるのがかつて歴代最強の聖女でありそして、この国を救うために悪魔へと変わってしまったエステル・ホーリー様。

 今では悪魔だったけれどもエステル様だけは別枠として崇め奉られている。

 そして私は、そんな彼女の記憶を持つただのしがない町娘。

 曖昧ながらも、彼女の彼を思っていた気持ちを知っている私は国王陛下がこの国を豊かにし、そして聖女の力を借りながら魔物を北の山奥まで追いやり、平和を築いたことに胸が熱くなった。

 年上である国王陛下に対し、”頑張っているのね”という、何とも上から目線の気持ちを抱いてしまっている今日この頃である。

 けれど私は、彼女であって彼女ではない。

 記憶はあるけれど、曖昧であり、事細かに覚えているわけではない。

 だから彼女ではないし、年々、自分の思い出が積み重なっていくことで彼女が薄れてきているようにも感じる。

「元気かしら。」

 でもやはりそう思ってしまうのだ。

 彼女の記憶がというよりも、魂が、彼を恋しく思っているのだと思う。

「ごめんね。会わせてあげられなくて。でも、今年のエステル様の功績を祝うパレードで今日この町を通るっていうから、もしかしたら、一目見せてあげられるかも。そのくらいしか出来ないけれど、ごめんね。」

 胸に手を当ててそう言うと、心臓がどっくんと鳴った気がした。

「待っててね。さぁ、そうと決まれば準備をしよう!」

 私の髪の毛は、茶色に癖があってエステルの頃とは全く違う。

 本当にどこにでもいる町娘って感じなの。だけどね、この瞳だけは少しエステルだったころに似ているって思う。

 お父さんにもお母さんにも、貴方の瞳は誰に似たのかしらって言われるくらい。

 顔を洗って着替えを済ませて、そして少しだけお化粧をしてからパレードの通る道へと向かった。

 そこにはすでに人だかりができていて、どうにか場所を確保すると国王陛下が通る時間までをただじっと待つ。

 人々の歓声が聞こえ始め、心躍るような音楽が鳴り響いて聞こえ始めると沿道にはたくさんの人だかりがさらにできていった。

 人ごみに押されながらも、どうにか一目だけでも国王陛下を見ようと背伸びをする。

 元気にしているかしら。

 ちゃんとごはん食べているかしら。

 もう悪夢にうなされなくなったかしら。

 胸の中に、どんどんと彼女の気持ちが溢れてくる。

 その思った時だった。

「見えた!国王陛下!万歳!エステル様!万歳!」

 そう声を上げ、そして国王陛下が見えた。

「エディ…。」

 小さくそう声が漏れた。

 その瞬間に涙が溢れてくる。

 彼を見つめていたいのに、涙が邪魔で彼を見つめることが出来ない。

 エディ。頑張ったのね。

 民が誇る王様になったのね。

 あぁ。何て素敵なのだろう。かつてこの世のすべてを憎んだのに、今ではこの世のすべてが愛おしく感じる。

 貴方がいてくれたから。

 絶望の中で、貴方がいてくれたから私は悪魔から聖女へと身を戻すことが出来た。

 けれど悪魔に身を落としてしまったから聖女へ戻れたのはあの一瞬だけ。だからその後力尽きて死んでしまった。そして今世ではなんの力も持っていない。

 でもいいの。

 貴方の命を救うことが出来ただけでいいの。

「エディ。」

 この呼び名は貴方の偽名。本名で呼ぶわけにはいかないから、いつも親しみを込めて呼んでいた。

「エディー!」

 きっと周りの人からしてみたら、誰か探しているのだろうって思うのでしょうね。

 でも貴方を呼べるのはこれで最後だと思うから。だから、最後に呼ばせて。

「エディ!・・・貴方を誇りに思っているわ!」

 これで最後だ。

 昔よりも男らしく勇ましくなっている彼が見れた。きっともう二度と見る事は出来ないから胸に刻みつける。

「え?」

 彼と視線があった気がした。

 彼の口が動く。

『エステル。』

 私はその瞬間全速力で走って家へと帰った。

 心臓がばくばくと鳴り、胸が苦しくなる。

 両親が心配したけれど、今はそれどころではない。

「え?・・えぇ?・・・目が合った?いや、勘違いよね。」

 今世ではエリーと名を授かり、かつて聖女だった彼女が彼に見つかるまで、あと少し。
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