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十話 夜に駆ける
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太陽が沈み、夜が訪れる。
空を見上げると、美しい満月が輝く。雲一つない空には星々がきらめいて見えた。
アンダーソン家は取り潰しとなった。両親は処刑されることが決められ、ステファニーとラナは修道院に入れられることが決められたそうだ。
私はその後の取り調べでも無罪であることが確定されたが、アンダーソン家の娘であることに違いはない。
貴族階級は剥奪され庶民へと落とされることとなった。
祖父母は自分達の元へ籍を移し貴族として生きればいいと言ってくれたけれど、私は罪人の血が流れているのだ。祖父母にもこれ以上迷惑を掛けたくなかった。
第一王子殿下も恩赦として貴族籍を残す道も示して下さったけれど、私はそれもお断りした。
春の風が夜の闇の中を吹き抜けていく。
私は大きく息を吸い込んだ。緑の匂いが胸いっぱいに広がっていく。
リックとは婚約を破棄しておいて良かった。彼にこれ以上迷惑を掛けることは出来ない。
私の身がどうなるのか決められるまでの間に、リックから再度婚約の申し出があったけれど、私はそれを断った。罪人の血の流れる私と結婚して彼が幸せになれるわけがない。
リックにはたくさんのものをもらった。
笑顔や、信じてもいいのだという気持ち、楽しい思い出。
リックと一緒に過ごした日々は私の中で一生の宝物になる。だから、もう彼を自由にしてあげなければいけない。
彼には貴族として、これから輝かしい日々が待って居るはずなのだから。
「さぁ、行こう。」
荷物は鞄一つだけ。
けれどそれで良かった。やっと私は自由を得たのだ。
隣にリックがいない事は寂しいけれど、私はやっと私の人生をスタートすることが出来るのだ。
「シェリー。遅かったね。待ちくたびれたんだけど。」
「え?」
屋敷の門をくぐり、いざ出立だと思った矢先、私の目の前に立つリックの姿に私は足を止めた。
リックは私の方を見ると、手を差し出してきた。
「荷物持つよ。ほら、貸して。」
「え?」
リックは当たり前のように私の鞄を持つと、もう片方の手で私の手を握った。
「さ、行こうか。」
意味が分からなかった。何故彼がここにいるのかも、彼の言葉の意味も。
「なん・・・で・・・?」
困惑する私に、リックはいつもの笑顔を浮かべて言った。
「いつもさ、シェリーはどこか遠くを見ていてさ。僕には君の視線の先に何があるか見えなくて、何を見ているのだろうって気になって・・時には妬いたりもしてさ・・いつか君が話してくれるだろうって思っていたけど。」
「え?」
「もうさ、教えてもらうのを待つのは止めることにする。一緒に見に行けばいいんだって気づいたんだ。」
リックはそう言うと、私を抱きしめた。
夜の風が吹き抜ける。
「で・・でも、家族は・・貴方は貴族だし・・・」
「あー。家族は説得した。貴族ではあったけれど僕は次男だしさ。大丈夫だよ。」
動揺する私の背中をリックはぽんぽんと優しく叩く。
「シェリーはいつも一人で何でも決めるだろ?だからさ、僕も勝手に決めることにしたんだ。もう、シェリーから離れる気はないよ。」
「だけどっ!」
「シェリー。もう僕は決めたんだよ。」
「リック。」
リックはゆっくりと私の目の前に跪き、そして指輪を取り出すと私の薬指へとはめる。
「結婚しよう。シェリー。これからずっと一緒にいよう。」
きらきらときらめく指輪。
ずっとリックはいつか私を裏切るのだと、信じてはだめだと自分にいいきかせていた。けれど、心はどんどんとリックに惹かれていった。
だから好きだと思いは伝えた。
けれど、だからといって運命は優しくないのだ。アンダーソン家に生まれ、私だけが貴族社会で生きられるはずはないとリックを諦めたつもりだった。
けれど、自分に言い訳をして、諦めの良い振りをしたけれど。
貴方の手を、離したいわけがなかった。
「・・・もう、離してあげられないわよ?」
ぎゅっと貴方の手を握る。
そしたらぎゅっと握り返されて、笑ってしまう。
「僕も離す気はないよ。愛しているシェリー。結婚の返事は?」
「・・・大好きよ。愛しているわ。・・リック・・・もちろんよ。」
リックは大きくガッツポーズをすると、私の手を引いて駆けだした。
「ちょっとリック!早いわ!」
「馬車を待たせているんだ!ははっ!行こう!シェリー!」
暗闇の中を歩いていくのが、不安だったはずなのに、今ではそんな不安はどこにもない。
繋いだ手がとても温かった。
二人の影が、夜に駆け出していく。
★★★★
最後まで読んで下さりありがとうございました。
夜に駆ける二人が幸せでありますように。
作者 かのん
空を見上げると、美しい満月が輝く。雲一つない空には星々がきらめいて見えた。
アンダーソン家は取り潰しとなった。両親は処刑されることが決められ、ステファニーとラナは修道院に入れられることが決められたそうだ。
私はその後の取り調べでも無罪であることが確定されたが、アンダーソン家の娘であることに違いはない。
貴族階級は剥奪され庶民へと落とされることとなった。
祖父母は自分達の元へ籍を移し貴族として生きればいいと言ってくれたけれど、私は罪人の血が流れているのだ。祖父母にもこれ以上迷惑を掛けたくなかった。
第一王子殿下も恩赦として貴族籍を残す道も示して下さったけれど、私はそれもお断りした。
春の風が夜の闇の中を吹き抜けていく。
私は大きく息を吸い込んだ。緑の匂いが胸いっぱいに広がっていく。
リックとは婚約を破棄しておいて良かった。彼にこれ以上迷惑を掛けることは出来ない。
私の身がどうなるのか決められるまでの間に、リックから再度婚約の申し出があったけれど、私はそれを断った。罪人の血の流れる私と結婚して彼が幸せになれるわけがない。
リックにはたくさんのものをもらった。
笑顔や、信じてもいいのだという気持ち、楽しい思い出。
リックと一緒に過ごした日々は私の中で一生の宝物になる。だから、もう彼を自由にしてあげなければいけない。
彼には貴族として、これから輝かしい日々が待って居るはずなのだから。
「さぁ、行こう。」
荷物は鞄一つだけ。
けれどそれで良かった。やっと私は自由を得たのだ。
隣にリックがいない事は寂しいけれど、私はやっと私の人生をスタートすることが出来るのだ。
「シェリー。遅かったね。待ちくたびれたんだけど。」
「え?」
屋敷の門をくぐり、いざ出立だと思った矢先、私の目の前に立つリックの姿に私は足を止めた。
リックは私の方を見ると、手を差し出してきた。
「荷物持つよ。ほら、貸して。」
「え?」
リックは当たり前のように私の鞄を持つと、もう片方の手で私の手を握った。
「さ、行こうか。」
意味が分からなかった。何故彼がここにいるのかも、彼の言葉の意味も。
「なん・・・で・・・?」
困惑する私に、リックはいつもの笑顔を浮かべて言った。
「いつもさ、シェリーはどこか遠くを見ていてさ。僕には君の視線の先に何があるか見えなくて、何を見ているのだろうって気になって・・時には妬いたりもしてさ・・いつか君が話してくれるだろうって思っていたけど。」
「え?」
「もうさ、教えてもらうのを待つのは止めることにする。一緒に見に行けばいいんだって気づいたんだ。」
リックはそう言うと、私を抱きしめた。
夜の風が吹き抜ける。
「で・・でも、家族は・・貴方は貴族だし・・・」
「あー。家族は説得した。貴族ではあったけれど僕は次男だしさ。大丈夫だよ。」
動揺する私の背中をリックはぽんぽんと優しく叩く。
「シェリーはいつも一人で何でも決めるだろ?だからさ、僕も勝手に決めることにしたんだ。もう、シェリーから離れる気はないよ。」
「だけどっ!」
「シェリー。もう僕は決めたんだよ。」
「リック。」
リックはゆっくりと私の目の前に跪き、そして指輪を取り出すと私の薬指へとはめる。
「結婚しよう。シェリー。これからずっと一緒にいよう。」
きらきらときらめく指輪。
ずっとリックはいつか私を裏切るのだと、信じてはだめだと自分にいいきかせていた。けれど、心はどんどんとリックに惹かれていった。
だから好きだと思いは伝えた。
けれど、だからといって運命は優しくないのだ。アンダーソン家に生まれ、私だけが貴族社会で生きられるはずはないとリックを諦めたつもりだった。
けれど、自分に言い訳をして、諦めの良い振りをしたけれど。
貴方の手を、離したいわけがなかった。
「・・・もう、離してあげられないわよ?」
ぎゅっと貴方の手を握る。
そしたらぎゅっと握り返されて、笑ってしまう。
「僕も離す気はないよ。愛しているシェリー。結婚の返事は?」
「・・・大好きよ。愛しているわ。・・リック・・・もちろんよ。」
リックは大きくガッツポーズをすると、私の手を引いて駆けだした。
「ちょっとリック!早いわ!」
「馬車を待たせているんだ!ははっ!行こう!シェリー!」
暗闇の中を歩いていくのが、不安だったはずなのに、今ではそんな不安はどこにもない。
繋いだ手がとても温かった。
二人の影が、夜に駆け出していく。
★★★★
最後まで読んで下さりありがとうございました。
夜に駆ける二人が幸せでありますように。
作者 かのん
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