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二話 私を裏切る婚約者

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 十二歳になった私の育ってきた環境に、私の母方の祖父母が気づいた時はかなりごたついた。祖父母は鬼神の如く顔を歪ませ、ありとあらゆる罵詈雑言を並べ立てて、私の両親を怒鳴りつけた。

 その時の私はやせ細って、妹の半分の体重しかなかった。そして私は両親と引き離され、祖父母らと共に暮らすようになった。

 祖父母は私をとても大切にしてくれた。欲しいと言ってもいないのに、たくさんの宝石、たくさんのドレス、たくさんの美味しいお菓子で私の世界を色づけて行った。

 そんな祖父母を不安にさせるわけにもいかず、天啓については調べられぬまま、もうこのままでいいかと諦めた。

 そして過剰なほどに私に甘い祖父母と暮らすうちに、なるほどと私は理解した。

 夢の中で見た傲慢な私を作ったのは、祖父母だったのだ。愛されなかった私を哀れに思い、物を有り余るほど与えた結果、傲慢で我儘な私が出来上がったのだろう。

「シェリー。本当にごめんなさいね。でも、きっと貴方はこれから幸せになるわ。」

「シェリーを大切にしてくれる婚約者も決めたからね。大丈夫。きっと幸せになるさ。」

 物語はどんどんと進んで行く。

 私を未来で裏切り、婚約破棄を舞踏会の最中に告げる婚約者に、今日、出会うのだ。

 どうせ私を愛してもくれない婚約者に何故会わなければならないのだろう。

 そうは思いながらも、私を幸せにしようとする祖父母に反論するわけにもいかず、私は運命に流されるだけ。

 私の婚約者様の名前は、リック・ローレン様。銀色の髪に翡翠の瞳をした優しい雰囲気の少年だった。何てかわいそうな人なのだろうと、私は思った。

 私と言う婚約者を押し付けられ、自由に恋愛することができなくなる哀れな人。

「初めまして。僕はリック。これからよろしくね。」

「シェリーです。よろしくお願いいたします。」

 どうせ婚約破棄されるのだから仲良くなる必要もないだろう。私は二人で遊んでいらっしゃいと言われても、そういう考えがあるので小さくため息をつくしかなかった。

 庭を二人で歩きながら、ふと、遠くを見つめ、どこかへと駆けだしたくなる。どこか遠くに逃げられたらどれほど幸せだろうか。

 断頭台で首を切られる私には、絶対に行くことのできない場所。

 そう考えていると、ふいに手をぎゅっと握られた。振り向き、手を見てから顔を上げてリックを見つめる。

 リックはにっこりと白い歯を見せて笑って言った。

「こっちに来て。綺麗な花を見つけたよ!」

 綺麗な笑顔だなと思った。祖父母が私に向ける笑顔や視線は罪悪感から来るものばかりなので、こうした純粋な笑顔を見るのは初めてだ。

 いつか、私を裏切るのに。

 私は、それからリックに笑顔を向けられるたびに泣きそうなくらい悲しくなった。どうせ私を裏切るのに、優しい振りをしないで。

 笑顔を向けないで。

 そう思うのに、リックの優しい手を振り払えない自分がいた。







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