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第十五話

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 勇者とアンリエッタはとても美味しそうな食事に毒が入っていないか魔法で調べたのちに、その食事に口をつけてしまった。

 我慢が出来なかったのだ。

 これが敵の油断させる作戦だとしても。

 その匂いが、香ばしい匂いが自分達の腹から壮絶な音を発生させる。

 そして勇者とアンリエッタはかぶりついた。

 かぶりついてからは至高の時間が二人に訪れていた。

 口の中をほろほろと崩れる肉。

 甘辛く煮つけられたじゃがいもと旬の野菜達はこれまで食べてきた野菜の中で最も美味しかった。

 包み揚げは、さくっと噛んだ瞬間に口いっぱいに肉汁が溢れる。

 あぁ。

 美味い。

 そしてあっという間に、机いっぱいに並べられていた料理は全て二人の胃袋の中へと納まった。

 それを食べ終えたのを見計らって、混沌の闇は二人に一杯のお茶を出してから席に着き、そしてにやりと笑みを浮かべると言った。

「さぁ、話をしようか。」

 相手の胃袋は掴んだ。

 後は話をするだけだと混沌の闇が笑ったのだが、それに勇者もアンリエッタも背筋が寒くなり思わず腰の剣に手を伸ばした。

「我は戦う気はない。」

「なん・・・だと?」

 混沌の闇は、静かに勇者を見ると言った。

「我は、今、人間の可能性に感動している。」

「なっ?!」

「勇者、お前は言ったな。人は愛を育み世界に光をもたらすと。」

「覚えていたのか・・・。」

 勇者はその事に驚いたのか、ほだされたのか、剣から手を放すと席に着き、アンリエッタもそれに倣った。

 混沌の闇は、自分のお茶を一口飲むと言った。

「人間自体に愛着を感じたわけではない。だが、我が子ワイアットは、可愛くて仕方がない。おそらくだが、これがお前の言っていた愛なのだろう?」

 勇者は内心かなり動揺していた。

 これは本当に混沌の闇なのか?

「お前が、育てていると言う異形の子か?」

 混沌の闇は静かに言った。

「異形とは姿形の事なのだろう。あれは見た目が少し違うだけで普通の人間だ。なのに、何故お前ら人間はあいつを捨てたのだろうな。」

 その言葉に勇者の瞳が歪む。

「なん・・・だと?」

「人は愛を育むと言ったが、あいつへは誰も愛なんて育んでいなかった。」

 その言葉に勇者の心の中がざわついた。

 異形が、普通の人間?

 教会では異形の姿をしたものは悪魔の御使いとして扱われる。

 自分もそう思って生きてきた。

 だが、混沌の闇がそれを普通の人間だと言う。

「なぁ勇者よ。我は人ではないが、ワイアットを愛し、育みたい。ダメだろうか。」

 お前がそれを言うのか?

 世界を闇で包もうとしていたお前が!

 人間をごみクズのように扱っていたお前が!

 だがそう思うと同時に勇者の心は揺れる。

 混沌の闇は、おそらくは人の手では滅せぬのであろう。

 ならば、ここで混沌の闇を否定してまた世界を闇で包まれてしまったら・・・。

 混沌の闇を自分が倒せたのは、運が良かったのだ。

 もう一度戦って、絶対に勝てると言う自信が勇者にはなかった。

 勇者の揺れる心を見透かすように、混沌の闇は口を開く。

 
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