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第十三話

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 混沌の闇は、鼻をピクリと動かすと眉間にしわを寄せた。

「久しぶりに嫌な感じがするな。」

「だぁ?」

 ワイアットを混沌の闇は抱き上げると、やはりこの前の聖騎士を家に上げたのがいけなかったなと一人反省していた。

 おそらくだが、教会に自分の存在がばれたのであろう。

 そうなれば、あの男がやってくるのも時間の問題である。

 混沌の闇はワイアットを高い高いしながら上空十メートルほどまで投げながら思った。

 逃げるべきか、それとも対話してみるべきか。

 はっきり言ってしまえば、逃げるだけならば勇者であろうとも人間であるあの男に捕まるとは思わなかった。

 だがあの男の執念深さを身をもって知っている混沌の闇は、逃げたとしてあの男がおってくる度に逃げてはワイアットを安心して子育て出来ないではないかと思ってしまう。

「ヤルか。」

「だ?」

 ワイアットのきらきらとした瞳にじっと見つめられた混沌の闇は、にっこりと笑みを浮かべると言った。

「冗談だ。冗談だぞ。」

「う?」

 混沌の闇はそう言うと小さくため息を漏らした。

「取りあえず、こちらに悪意はないと話でもしてみるか。」

 そう言えばと混沌の闇は思う。

 あの男と出会ってからもう何年にもなるが、あの男との会話はいつだって血なまぐさい場でしかなかった。

 よし、と混沌の闇は息をつくと言った。

「恐らく、数日後に来るだろうからな。ご馳走でもしてやるか。」

「わぁー!」

 混沌の闇のまねをよくするようになっているワイアットは楽しそうに両手を上げてきゃっきゃと笑ったのであった。



 家へ招かれることになるとは露程も思っていないアンリエッタと勇者は、馬を走らせていた。

 勇者の表情は厳しいく、アンリエッタは勇者から”混沌の闇”の存在について話を聞いて背筋が寒くなった。

 あれは人間ではなかったのか。

 異形であろうと我が子を可愛がる姿は人間そのものであり、それがアンリエッタの恐怖を掻きたてた。

「あ、あの勇者殿。本当に混沌の闇なのでしょうか?」

「俺にそっくりだったのだろう?あいつの考えそうなことだ。まず間違いなく混沌の闇だろう。」

「で、ですが、本当に親子のようだったのですよ?まぁ、かなりおかしくはありましたけど。」

 勇者はそれをはなで笑うと言った。

「混沌の闇が子育て。っふ。冗談も休み休み言え。」

「本当ですよ!子どもの名前はワイアットと言うらしいです。異形の子ですが、その力の強さや運動神経の良さなどは人間離れしているかと思います。」

「っは。恐らくどこぞで人間の子を拾ったのだろう。とにかく会えば分かるだろう。」

 それ以上勇者は何も話さなかったのでその日の夕方には、あの家へとたどり着くことが出来たのであった。
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