上 下
3 / 16

第三話

しおりを挟む
 赤子を抱き上げた混沌の闇は、しばらくその赤子を見つめていたが、赤子はまた泣きわめき始めた。

「何だ?あぁ、腹が減ったのか。」

 赤子は延々と泣きわめき続けており、混沌の闇はどうするか思案した。

「赤子は乳を飲むと言うが、、、さてさて、どうするか。」

 にやりと混沌の闇は体を人の子へと変化させると、人間の町へと行こうと足を進めた。

 森を抜け、しばらく進むと人の町が見えた。

 外見だけで言うならば、人が自分を混沌の闇と見ることはないだろう。

 何せ混沌の闇は、勇者の姿を模していた。

 金色の髪の毛に、青い瞳をつけ、その見てくれはまるで天使のようである。

 町についた混沌の闇はしばらくの間赤子を抱いて歩き、そして宿屋の女主人を見つけると声をかけた。

「おい。女。乳を出せ。」

 宿屋の女主人はそう言った混沌の闇を見た瞬間に眉間にしわを寄せるものの、混沌の闇の外見がいいからなのかにやりと笑みを浮かべると言った。

「はっは!わたしゃ乳は出ないよ。なんだい?そりゃああんたの兄弟か何かか?」

「あー。いや、拾った。乳はどこにいけばもらえる?」

「あんたバカだねぇ。そんなの拾ったって、あんたじゃ育てられないだろう。どれ。」

 女主人は興味からか、ぬのっきれをめくって赤子を覗き込んだ。

 次の瞬間悍ましい物を見たかのように顔を歪めると、布を触った手を自らのスカートでぬぐいながら悪態をついた。

「悪魔の子じゃないか!そんなの捨てきな!なんという子だ。」

「悪魔の子?」

 混沌の闇には、悪魔の子と普通の子との違いが分からなかった。

 どこからどう見ても、これはただの赤子だ。

 悪魔であれば角や牙が生えているだろうし、そもそも悪魔であれば赤子でも狂暴であり、こんなただ泣きわめくだけなんてことはない。

「いや、これはただの人の子だ。良く見てみろ。」

 悪魔であればもっと面白かっただろうなと思ったが、女主人は赤子を近づけようとすると悲鳴を上げた。

 それを聞きつけた幾人かの男が集まり、赤子を見た瞬間に女主人と同じような表情を浮かべる。

「そんなの捨てな!」

「教会へと連れていけ!」

「なんと悍ましい。」

「あんた、せっかくそんなにきれいな顔しているんだから、その悪魔が移ったらどうするんだい!」

「ほら、そいつをよこせ。」

 人間たちは口々にそのようなことを呟き、混沌の闇は伸びてくるその手をひらりと避けると言った。

「ここに乳が出るやつはいないのか?」

「そんな悪魔に乳をやる人間はいない!」

 同じ人間であろうにと、混沌の闇はからっぽのはずの胸の中にちりりと痛みに似た何かが走り、首を傾げた。

 乳の出る人間がいないのであればここにいても致し方がないであろう。

 ちりりとした痛みに苛立った混沌の闇は、体から闇が吹き出し、周囲の地面をじゅっと赤黒く焦がした。

 人間たちは悲鳴を上げて逃げて言ったが、腕の中にいる赤子が小さく泣いた。

「あぅぅ・・・」

 乳が欲しいのだろう。

 その声に混沌の闇は、体から噴き出した闇を消しその場から去った。

 泣き声がだんだんと小さくなり、元気良く動かしていた四肢もだんだんと力をなくし始めている。

 このままではダメだろう。

 その後他の町も回っては見たが、人の反応はどこも変わらずであった。

『化け物。』

『殺せ!』

『なんと悍ましい。』

 そんな言葉ばかりが積み重なる。

 混沌の闇は人に頼ることを諦めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

【旧版】パーティーメンバーは『チワワ』です☆ミ

こげ丸
ファンタジー
=================== ◆重要なお知らせ◆ 本作はこげ丸の処女作なのですが、本作の主人公たちをベースに、全く新しい作品を連載開始しております。 設定は一部被っておりますが全く別の作品となりますので、ご注意下さい。 また、もし混同されてご迷惑をおかけするようなら、本作を取り下げる場合がございますので、何卒ご了承お願い致します。 =================== ※第三章までで一旦作品としては完結となります。 【旧題:異世界おさんぽ放浪記 ~パーティーメンバーはチワワです~】 一人と一匹の友情と、笑いあり、涙あり、もう一回笑いあり、ちょこっと恋あり の異世界冒険譚です☆ 過酷な異世界ではありますが、一人と一匹は逞しく楽しく過ごしているようですよ♪ そんなユウト(主人公)とパズ(チワワ)と一緒に『異世界レムリアス』を楽しんでみませんか?(*'▽') 今、一人と一匹のちょっと変わった冒険の旅が始まる! ※王道バトルファンタジーものです ※全体的に「ほのぼの」としているので楽しく読んで頂けるかと思っています ※でも、時々シリアスモードになりますのでご了承を… === こげ丸 ===

チートも何も貰えなかったので、知力と努力だけで生き抜きたいと思います

あーる
ファンタジー
何の準備も無しに突然異世界に送り込まれてしまった山西シュウ。 チートスキルを貰えないどころか、異世界の言語さえも分からないところからのスタート。 さらに、次々と強大な敵が彼に襲い掛かる! 仕方ない、自前の知力の高さ一つで成り上がってやろうじゃないか!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

完全無欠少女と振り回される世界~誰かこいつを止めてくれ!!~

黒うさぎ
ファンタジー
文武両道、才色兼備。容姿、才能、家柄などあらゆる物事に恵まれて産まれた少女、ミエリィ。だが決して己の恵まれた環境に驕ることなく、ミエリィは天真爛漫に成長した。それはもう他の追随を許さないほど圧倒的なくらいに……。 「まあ!こんなに楽にお着替えできたわ!」 「我の黒炎は早着替えの魔法ではない!というか人のマントを躊躇なく燃やすな!」 ストーカーや変態など個性豊かな人々に囲まれながらミエリィは己の道を行く! これは貴族も平民も善人も悪人も動物も魔物も、ありとあらゆる存在を振り回して生きていく、1人の少女の物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿してます。

処理中です...