1 / 1
婚約者がクズだと結構大変なんです。政略結婚とはままならない
しおりを挟む王立学園に通うアンバース公爵家の長女ローナ・アンバースには産まれた時から決められている婚約者がいる。
レルダ王国第一王子ジョナサン・ニア・レルダ。
レルダ王国の第一王子であり、金髪碧眼の、正真正銘の王子様である。
ローナはそんなジョナサンを、二階の小窓から眺めていた。
「まぁまぁ、なんてはしたないことでしょうか」
学園という公の場であるのにもかかわらず、ジョナサンはただいま、ガーラン男爵家令嬢のリカの膝枕で心地よさそうに昼寝をしている。
ローナは自慢の金髪の縦ロールの髪を指先でくるくるとまわしながら、菫色の瞳を伏せた。
「はぁ」
ため息をつく姿には、色気があり、同じ部屋内にいる生徒会役員たちはその姿に顔を赤らめた。
むっちりとした体つきは目の毒であり、足を彼女が組み替える度に、擦れる布の音に、誰かしらが唾を飲む。
「お嬢様、どうなさいますか?」
傍に控えていた彼女の執事は、冷ややかな視線をジョナサンに向ける。
ローナはため息をまたつくと、視線を、同じ生徒会役員であり、一つ年下の第二王子アルスへと向ける。
すると、楽しそうにアルスは笑顔でローナに言った。
「義姉上も大変ですね」
笑ってそういうあたりが性格が悪い。ローナは産まれてくる順番をこの王子達は間違えたのだろうと内心思いながら、視線をジョナサンへと戻す。
すると、恐らく二人はキスを交わし始めていた。
しかも、結構な濃厚な奴である。
「え……」
ローナは顔を引きつらせると、執事へと視線を向ける。
執事は心得たとばかりに、窓のカーテンをバッと閉めた。
見た目は飽満ボディで、色気をまき散らすローナではあるが、十六歳の少女である。
何度見ても、濃厚なキスシーンは見たいと思えるものではなかった。しかもいずれ自分にもするのかと思うと、鳥肌が立つ。
「はぁ」
ため息をつくローナに、アルスは笑みを深めると言った。
「婚約者交代しますか?」
爆弾発言に、生徒会内にいる貴族の令息、令嬢らは聞こえないふりに徹する。
ローナはその言葉に、にっこりとほほ笑みを浮かべて返事を返す。
「私の婚約者はジョナサン殿下ですので」
「それは残念」
ここ最近、本気でアルスがそう呟き始めたことにローナは気づきながらも、あえて冗談であるように言葉を返す。
出来ることなら王位争い何てものは起きない方がいい。
そう考えるものの、ローナは先ほどの濃厚なキスシーンが頭をよぎり、顔を引きつらせたくなるのをぐっと我慢した。
ローナは、何度か男爵令嬢であるリカに、分を弁えるよう伝えたものの、弁えるどころか最近では加速する一途である。
「リカ様。もう一度忠告いたします。人の婚約者にちょっかいをかけるのはおやめください」
人払いした学園の一室にてローナがそう言うと、リカはキッとローナを睨みつけて言った。
「私とジョナサンは愛し合っているんです!」
「……愛とか、そういうのはね、関係ないのよ?」
ローナだってジョナサンを愛しているわけでも結婚したいわけでもない。ただ、これは貴族としての務めである。
貴族令嬢としてうまれたからには、国のために政略結婚だってやむを得ないのである。
けれど、どうにもリカには分かってもらえない。
「私はジョナサンを愛しているの! 誰にも、邪魔はさせないわ!」
「そうだとも! 俺も、リカを愛している!」
そう言ってヒーロー登場とばかりに扉を勢いよく開けて言ったジョナサンに、ローナは頭が痛くなるのを感じながらも、美しく一礼をしながら言った。
「王国の太陽である第一王子殿下にご挨拶申し上げます」
「ふむ。ローナ。これはどういうことだ?」
ローナは顔をあげると、小首を傾げた。
「どう、とは?」
「俺の愛おしいリカをいじめるとは、お前はそんなに非常な女だったのか?」
頭がずきずきと痛みだすのを感じながらも、ローナは、いじめたわけでもないことや弁えるように伝えた事などをジョナサンに伝えるが、どうにも会話が成立しない。
「ローナ。醜い嫉妬は止めろ。お前はいずれ俺の正妃となるのだぞ?」
「え?」
その言葉に驚いたのは、ローナではなくリカである。
「正妃? ジョナサン! どういうことなの!? 何でローナ様が正妃なの!?」
「む? いや、それは決まっている事だからだが、大丈夫。リカのことも第二妃として大切にする」
「はぁぁ?! 第二? どういうことなのよ」
「むむ? 何故そこで怒る?」
どたばたと痴話げんかを始めた二人に、冷ややかな視線を向けていると、扉からもう一人。この場をややこしくする人物が現れた。
「わぁ。大変そうですね」
「む? アルス? どうした?」
「兄上。生徒会の仕事で、義姉上を迎えに来たんです」
「あぁ。そうか。ではローナ。お前は行け。俺は可愛いリカを慰めてやらなければな」
「ははっ。兄上は忙しそうですから、さぁ、義姉上、行きましょうか?」
さりげなく私の手を取り、アルスは部屋をさっさと出ると歩き始める。
そして、階段下へとローナを引き込むと、その腕の中にローナを抱きしめて言った。
「それで? ローナ。そろそろ決心決まらない? もうそろそろ、僕が限界なんだけれど」
耳元でそうアルスにささやかれ、ローナは顔を真っ赤にするとアルスを突き飛ばし、そして言った。
「私の婚約者はジョナサン殿下です。お戯れはおやめください」
「ちぇっ。まぁでも、そのうち義姉上が白旗を上げるのを、僕はいつでも待っているからね」
天使のような笑顔でアルスはそう言うと、その後は何事もなかったかのようにローナをエスコートして生徒会室へと向かう。
ローナは静かに廊下を歩きながら言った。
「それでも私は公爵家の令嬢として、自分の役目を果たさなければなりません。アルス殿下、申し訳ありませんが、お戯れは、おやめください」
はっきりとそう告げると、アルスは肩をすくめた。
「本当に、義姉上は手強い。クズなやつの婚約者なんて普通なら早々に降りたくなるものなのにね」
「それが成り立っては、政略結婚の意味がありません」
ローナはたとえ嫌であろうが、嫌悪感を抱いておろうが、自分の役目を下りるつもりはない。
「それに、ジョナサン殿下も弁えておいでです。先ほども、私を正妃とおっしゃってましたし」
「ふーん。それが、ちゃんと続くといいね」
その言葉に、顔を引きつらせた数日後に、ジョナサン殿下から第二妃となりリカを支えてくれと、言われた時にはローナは本気で殴ってやろうかと、初めて殺意を抱いたとか、なんとか。
貴族令嬢の政略結婚も、ままならない、というお話である。
6
お気に入りに追加
178
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄からの絆
岡崎 剛柔
恋愛
アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。
しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。
アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。
ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。
彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。
驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。
しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。
婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。
彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。
アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。
彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。
そして――。
婚約破棄させようと王子の婚約者を罠に嵌めるのに失敗した男爵令嬢のその後
春野こもも
恋愛
王子に婚約破棄をしてもらおうと、婚約者の侯爵令嬢を罠に嵌めようとして失敗し、実家から勘当されたうえに追放された、とある男爵令嬢のその後のお話です。
『婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~』(全2話)の男爵令嬢のその後のお話……かもしれません。ですがこの短編のみでお読みいただいてもまったく問題ありません。
コメディ色が強いので、上記短編の世界観を壊したくない方はご覧にならないほうが賢明です(>_<)
なろうラジオ大賞用に1000文字以内のルールで執筆したものです。
ふわりとお読みください。
私はざまぁされた悪役令嬢。……ってなんだか違う!
杵島 灯
恋愛
王子様から「お前と婚約破棄する!」と言われちゃいました。
彼の隣には幼馴染がちゃっかりおさまっています。
さあ、私どうしよう?
とにかく処刑を避けるためにとっさの行動に出たら、なんか変なことになっちゃった……。
小説家になろう、カクヨムにも投稿中。
信じていた全てに捨てられたわたくしが、新たな愛を受けて幸せを掴むお話
下菊みこと
恋愛
家族、友人、婚約者、その信じていた全てを奪われて、全てに捨てられた悪役令嬢に仕立て上げられた無実の少女が幸せを掴むお話。
ざまぁは添えるだけだけど過激。
主人公は結果的にめちゃくちゃ幸せになります。
ご都合主義のハッピーエンド。
精霊王様はチートで甘々なスパダリです。
小説家になろう様でも投稿しています。
性悪な友人に嘘を吹き込まれ、イケメン婚約者と婚約破棄することになりました。
ほったげな
恋愛
私は伯爵令息のマクシムと婚約した。しかし、性悪な友人のユリアが婚約者に私にいじめられたという嘘を言い、婚約破棄に……。
嫌われ王妃の一生 ~ 将来の王を導こうとしたが、王太子優秀すぎません? 〜
悠月 星花
恋愛
嫌われ王妃の一生 ~ 後妻として王妃になりましたが、王太子を亡き者にして処刑になるのはごめんです。将来の王を導こうと決心しましたが、王太子優秀すぎませんか? 〜
嫁いだ先の小国の王妃となった私リリアーナ。
陛下と夫を呼ぶが、私には見向きもせず、「処刑せよ」と無慈悲な王の声。
無視をされ続けた心は、逆らう気力もなく項垂れ、首が飛んでいく。
夢を見ていたのか、自身の部屋で姉に起こされ目を覚ます。
怖い夢をみたと姉に甘えてはいたが、現実には先の小国へ嫁ぐことは決まっており……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
そもそも通常、王家に嫁げるのは伯爵家以上の令嬢で、子爵・男爵家では門前払いのはずなんですけどね。
男爵令嬢に入れあげた時点で、この王子の廃嫡は待った無しなんですわ。
お花畑ざまぁと第二王子との攻防の続きが見たくなりましたw
次期王妃(主人公)に対する「お前は第2妃になれ」発言の元凶として、
男爵令嬢が不敬罪とか国家騒乱罪でサクッと処刑されて、
第2王子の野心(横恋慕?)も潰れる・・・ってのも有り?!(笑)
おおおおーーーー
ありですねぇ!!!!