ツインクラス・オンライン

秋月愁

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2:作戦と実践

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 次の日のログイン時の事。

ゼクロスとエリシャは、中央公園のそえ付けのベンチで、揃って座り、狩りの作戦を立てていた。

「とりあえず、俺が斬り込んでターゲットを取るから、弓で横合いから、そのモンスターを狙って欲しい。命中が大幅に上がる弓スキル「エイムショット」は持ってるよね?」

確認するように問うゼクロス。彼がリアルで調べた所では「エイムショット」はレンジャーLV1からでも使える強引なまでに目標に命中補正のかかるスキルのはずだ。

「持ってはいるけど、私、そんなにSP高くないわよ?SPが切れたらどうするの?」

「その時は普通の弓攻撃でいい。だけど、このゲームは、LVUPと同時にHP、SP、MPが満タンになるシステムだ。普通に当てる自信がなければ、少しくらいは、待機していてくれていいよ。その代わり、LVUPしたら、また頑張ってもらうからね」

ゼクロスの解説に、エリシャは「分かったわ」と頷き返して、狩りの作戦はまとまった。

ゼクロスとエリシャは、冒険者プレイヤー達でにぎわいをみせる大通りを経てセルフィの街の南門をくぐる。この先も平原だが、北門が初心者用の草原なのにくらべて、一段高いLVのモンスターが出ると、ゼクロスはリアルで調べていた。こうして、二人のPTを組んでの狩りは、始まった。

                    ☆

「スイッチ、レンジャーLV5」

エリシャが平素な服のマーチャントから、ショートボウと矢筒を着けたレザーアーマーのレンジャー姿に「スイッチ」する。流れるような銀髪の美人アバターが、狩人の姿になったのは、自らも金髪で美形のゼクロスから見ても、なかなか絵になると思われた。

そして、この日差しの強い平原MAPでは、オーク、ウルフ、リザードマンなどが出没する。アクティブはオークとウルフなので、まず、ゼクロスが「スラッシュ」を使い、近くのオークにショートソードで斬りかかる。

ズシャッ!

その斬撃はオークのHPを半分近く持っていくが、致命打にはまだ遠く、オークの長剣での反撃で、ゼクロスのHPの2割が減らされる。

「いくわよ!」

そこに、エリシャが「エイムショット」を使い、ショートボウで鉄の矢を射かける。「エイムショット」は命中こそ大幅に上がるが、威力は通常攻撃と大差ない。矢は曲がるように命中したが、オークのHPの2割を減らすのがやっとである。

ゼクロスは、ここでパラディンLV5で覚えた「クロススラッシュ」で止めに入る。文字通りの十字斬りで、単純に「スラッシュ」の2回攻撃スキルである。この斬撃スキルで、オークのHPは0になり、黒くなってかき消えた。

「さすがに一段上の狩場は、少し歯ごたえがある、かな」

そういいつつ、受けたダメージは、ゼクロスが「ヒール」の魔法で回復した。こういったゼクロス得意の「アクティブ狩り」が功を奏して、二人は順調にそのLVを上げていった。そして、LVUPでHP等が全快するので、ポーションの消費もほとんど、無い。

しかし、ふとしたトラブルはどこにでもあるもので、だれかが戦ったあとのリザードマンが、本来の出現位置の川べりではなく、平原をうろつき、アクティブ状態になっていたそれは、無防備なエリシャに曲刀で斬りかかった。

「きゃっ!」

リザードマンの斬撃で、エリシャのHPが半分、削れる。

「このっ!」

ゼクロスは素早くリザードマンにタックルをかまして、ターゲットを取るが、リザードマンは、ここでの最強のモンスターでもあった。

ゼクロスはリザードマンとスキルで激しく斬り合うが、LV的にどうにも分が悪い。エリシャもポーションでHPを回復して「エイムショット」で射かけるが、これはほとんどダメージ的に効いていない。

リザードマンのHPバーもあとわずかなのだが、ゼクロスのHPも残り2割を切っており、かなりまずい状態である。

(こうなったら、あれをやるか…)

ゼクロスは、戦闘中に「パラディン」から「ホーリーナイト」にスイッチした。燐光がゼクロスを包み、一時的に無敵状態となり、ホーリーナイトになるとクラススイッチ効果でHP、SP、MPが満タンになる。

LV的にはまだ低い「ホーリーナイト」のゼクロスであったが、瀕死のリザードマンに対して、こちらは全て全快状態。ショートソードで「スラッシュ」のスキルを数発決めると、リザードマンのHPは0になって、黒くなってかき消えた。強力な敵を倒した事により、LVも上がり、ゼクロスもエリシャもHP等が全快した。

                    ☆

「「スイッチシステム」を使ってHPを全快にして戦うなんて、聞いた事ないわ。さすがゼクロスね」

エリシャの賞賛は、ゼクロスにはこそばゆく思えたようで、

「いや、ただの小細工だよ。褒められるほどのことじゃない」と謙遜した。

この戦いで、ゼクロスはパラディンLV10、ホーリーナイトLV5となり、エリシャのほうも、レンジャーのLVが9になった。GPも大量に入り、この日は大戦果であった。二人は意気揚々とセルフィの街に帰還した。

                    ☆

街に戻り、中央公園でログアウトする段になって、エリシャはゼクロスに不意打ち気味に頬にキスをした。そして、いたってにこやかに微笑むと、ゼクロスに礼を言う。

「ゼクロス、今日はありがとうね。カッコ良かったわよ」

と告げて、言うだけ言うと、そそくさとログアウトしていった。

ゼクロスは、何が起こったか理解するのに多少の時間を要したが、状況を把握すると、小さくガッツポーズした。

そして、ゼクロス自身も少し遅れてログアウト。この日は、彼にとって少し特別な日となった。




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