ツインクラス・オンライン

１：事の始まり

　ゲーム好きの高校生、闇雲玄人は、幼馴染の明神理香に、VRMMO「ツインクラス・オンライン」に誘われた。

理香曰く「何か上手くいかないから助けてよ。玄人、ゲームは得意でしょ？」とのこと。

童顔でポニーテイルの理香は、勝気で強引だが、ゲームにおいては素人同然であったので、リアルで世話になっている玄人はこれに応じて、この幼馴染をヘルプする形でこのゲームをプレイする事にした。

下校がてら、ゲーム店に寄ってソフトを購入。VRヘッドセットは持っているので、自宅に帰るとゲーム関連の物で雑然とした自室でヘッドセットにソフトを差して、被るとキャラメイクに入った。

「どうせやるなら美形がいいよな…」

そう思い、クセのある金髪に碧眼の、ハンサムで長身、それでいて引き締まった体つきのアバターの見た目を作成した。ネームは「エグゼクロス」とした。

「なるほど、二つのメインクラスを設定して、スイッチできるシステムか…」

玄人はそのシステムを知ると、羅列されるクラス群から、戦士系の二つのクラスを選んだ。

「ここはホーリーナイトとパラディンだな。AGIとVITの聖騎士系で、戦闘スキルと白魔法が交互に使えるし」

そうして、アバターとクラスを決定すると、美形キャラ「エグゼクロス」として早速ゲームのスタート地点、ラストール王国の首都セルフィに降り立った。

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セルフィの中央公園は、緑豊かで水瓶を持った女性像の噴水もあり、様々ないでたちの冒険者プレイヤー達の合流場所となっていた。

理香のアバターは「エリシャ」という銀髪の女商人だとは事前に聞いていたので、合流するのにさして苦労はなかった。むしろ、合流してからが本番といえるかもしれない。

理香のアバター、エリシャは長い銀髪に、蒼い眼をした顔立ちのすっきりとした美人で、背は高くはないが、やや身体の線は細い感じだ。

「やっと来たわね、玄人。長いネームだけど、どう呼べばいいのかしら？」

「ゼクロスでいい。フルで呼ぶと長いからな」

ゼクロスはエリシャの問いにそう答えて、まず、状況を再確認することにした。

「エグゼクロス」は「ホーリーナイト」と「パラディン」の両方のクラスに行き来出来る。しかし、一度スイッチすると、３分間のクールタイムが発生する。ちなみに今は「パラディン」だ。

「エリシャ」は「マーチャント」と「レンジャー」で、弓で狩りをして、町で商売をするスタイルだということになっている。

「レンジャー」は本来は後衛クラスで「マーチャント」は商売をするクラスなので、ソロがきついのも無理はないと言える。

「エリシャ」は今「レンジャー」５LVとのことで、ゼクロスはまずそれに追い付くのを目標にした。

初期装備は、平素な服だけであったので、初期GPの1000Gで、ショートソード（200G）とレザーアーマー（200G）ラウンドシールド（150G）を武器、防具屋で購入して、初心者用のポーション（10G）もいくつか薬屋で購入した。

そして「少し狩りをしてくるから、露店で商売でもして待っててくれ」とエリシャを町に残して、北口の門をくぐって、ゼクロスは、初心者用の草原フィールドに出た。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆

初心者フィールドは昼間で、スライムやラット、ゴブリンが多数徘徊していた。ここでゼクロスが取った戦法は「アクティブ殺し」というもので、襲ってこない他のモンスターは無視して、襲ってくるものだけを相手にするというものである。これなら、不意打ちは多少受けにくくなるとの判断である。

ここのアクティブは、ゴブリンくらいだろうと予測したゼクロスは、単独のゴブリンに、ショートソードで斬りかかった。LV１なので、戦闘スキルはまだない。

ズバッ！

ゴブリンに斬りつけると、スキル無しの一撃で、そのHPの半分と少しを削る。ゴブリンも小剣で反撃するが、ゼクロスのHPを２割も削らない。二撃目を加えると、ゴブリンはあっけなく、HP0で黒くなってかき消えた。ドロップはなく、多少のEXPとGPのみが入る。

HPは、初心者ポーションで回復して、そのゴブリン狩りを３度程繰り返すと「LVUP！」とゼクロスのLVが、上がる。

「思ったより楽だな。初心者フィールドだからか？」

とりあえず、ステータスウィンドウを開いて状況確認をするゼクロス。２LVになったので斬りスキルの「スラッシュ」とHP回復魔法の「ヒール」が自動で、使用可能になっている。

「「ホーリーナイト」のLVは後で上げるとして、とりあえずパラディンだけでもLVをエリシャに合わせておくかな…」

…このゲームには、HPの他に、スキルで使う「SP」と魔法で使う「MP」があり、「スラッシュ」はSP、「ヒール」はMPとなっている。

ゼクロスは「スラッシュ」でゴブリンを狩り「ヒール」で自分のHPを回復したので、比較的無駄の少ない
狩りで、早くもパラディンのLVを５とした。

「あっけないな。やっぱり、ホーリーナイトのLVも上げておこう…」

そうして、クラスを「意識的」に「スイッチ」する。これで「ホーリーナイトLV1」になるはずだが…。

…装備は、初期装備の平素な服に戻っていた。

「えっ、これ、クラススイッチごとに装備変わるのか。…それもそうだな。スイッチした先のクラスで、付けられない装備とかも、あるだろうし…」

ゼクロスは、丸腰では戦えないので、大急ぎで街にもどり、ゴブリンから得たGPで、ショートソードとレザーアーマー、ラウンドシールドを、「ホーリーナイト」用に買い揃える羽目になった。

そして、装備を済ませて、再びゴブリン狩りをして、ホーリーナイトのLVも3として、「スラッシュ」「ヒール」も覚えると、パラディンLV5に戻し、エリシャの露店を探して、大通りで彼女と合流した。

「ごめん、待たせた」

「もう、時間かけすぎ、待たせ過ぎ。ゼクロス、あなた初心者ポーション買いなさい。戦士系なら、どのみち必要でしょう」

散々待たされた挙句に、露店の商品も売れてなかったエリシャが、ゼクロスに盛大に文句を言って、商品の初心者用ポーションを、押し付けるように彼に買わせたのは、いささか仕方のない事かも知れなかった…。

ともあれ、冒険は始まった。その方向性も、先行きも、まだ未知数なままに…。