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VRMMOでの面影の恋
しおりを挟む「もう、見舞いにはこなくていいわ。醜い所は見せたくないの」
調度品の少ない白い病室で、黒い長髪の、病で痩せこけた彼女は言った。
「何を言っているんだ!君は醜くなんてない。病気が全部、悪いんだ!」
「その病気が、貴方の中の私との綺麗な思い出まで侵食する前に、私の前からいなくなってって言っているのよ!」
…そして、何も言えずに引き下がった俺に、後日、彼女が病で逝ってしまったとの知らせが入った…。
#
恋人を、病で失った俺は、高校生で休みの時期でもあったので、引きこもり気味に、VRMMOに没入した。
アバターを、わざとごつい、いかつい金髪の傭兵のクラスにして、大剣を使って、半ば八つ当たり気味にモンスターを狩りまわった。
そのアバター、傭兵の「ゼイギル」ではほぼソロで動いていた。戦士での、回復も支援も無しのソロプレイは、死に戻りも多かったが、彼女の事を吹っ切るには、それでもまだ足りなかった。一週間もそうして、気付くと、ゼイギルのLVは30を数えていた。
ゲーム内の首都を散策していると、色々なものが目に入る。茶色い建物の酒場、白い十字架のある教会、噴水のある公園、大通りに並ぶ露店の列。
そこで俺は、露店を見て回る事にした。欲しいもの等ない、意味もない暇潰し…。のはずだった。
その露店商の女性のアバターを見るまでは。
#
俺は言葉を失った。その露店商の女性アバターが、病で逝った彼女に瓜二つであったからだ。
長い黒髪、憂いを帯びた瞳、清楚で可憐な容姿。
「あの、何か、御用でしょうか?」
…その子がおずおずと尋ねてくる。どうやら見入ってしまっていたようだ。一応、俺は正気を取り戻すと、ごまかすように、彼女に一つ質問する。
「初期の服装だが、このゲーム、始めたばかりかい?」
「…はい。生産職のソロです。どうかしましたか?」
「なら、合成アイテムが必要だろう。俺の倉庫に薬草が山ほどある。困ったら言ってくれ」
…そういってなし崩しにFLを交換する。この子は逝ってしまった彼女とは違うと分かっているのに、自分でもよく分からないままに、そうしていた。
生産職の子のアバター名は「ミリア」容姿から、長い髪を手で梳く仕草まで、その時の俺には瓜二つに思えた。
八つ当たり気味の狩りで、倉庫には戦利品の合成アイテムが大量に余っていたのは事実なので、ミリアの負担にならないように、少しずつ、合成アイテムを買い取ってもらった。
最初は、無料でいいと言ったのだが「私は物乞いではありませんから」ときつめに言われたので、相場の二割で買い取ってもらう事となった。
#
そんなある日。いつものように、戦利品をミリアに買い取ってもらっていると。ミリアがある質問を投げかけて来た。
「何で、私によくしてくれるんですか?」
…まさか、逝った彼女に瓜二つだから、とはとても言えないので、俺はこう切り返す。
「何、生産職のソロはきついって相場が決まっているからな。後はただの気まぐれだ」
「本当に、それだけですか?」
ミリアがさらに聞いてくる。ごまかし切れずに、俺は少しだけ本音を混ぜる事にした。
「何、知りあいに似たような人がいたからな。今はもう、いないが」
「そうですか。それは、立ち入った事を聞いてすみません」
…本当は「似たような」どころではないのだが、ミリアはそれで納得したようだ。
#
ともあれ、ミリアのクラス「アルケミスト」は、合成の成功率は低いが、成功すれば上質のものができ、EXPも入るクラスなので、この豊富な材料でポーションその他を次々と作り、LVを上げて、露店に様々な商品を並べるようになった。
彼女も態度を軟化させて、次第に俺になつくようになった…。成り行きで、そんなつもりではなかったのだが…。
俺は「これはゲームで、ミリアは似ているだけの違う人だ」と分かっていても、言葉を交わすうちに、俺は次第にミリアに惹かれるようになっていった。
彼女は、様々な商品を売りながらFLを増やして、彼らにも支えられながら、念願の店を持つに至った。
嬉しそうにしていたミリアであり、開店時等は、FLの皆で祝福したものであったが、ある日を境に、俺に対して、急に態度がおかしくなった。
「なあ、最近何か変な感じがするのは、俺だけか?」
ミリアに聞くと、彼女はどこからか噂で俺のリアルを知ったらしく、こう言った。
「私が、貴方の病気で居なくなった恋人にそっくりだから、良くしてくれていたんですか?あなたの親切も、優しい気持ちも、全部その人に対するもので、私に向けての物ではなかったのですか?答えて!」
俺は、心臓をえぐられるような胸の痛みを受けた。俺は、ミリアに、苦悩するようにこう答えた。
「…ああ、そうだ。俺は、君に恋人の面影を重ねていた。失ったものを補うように、君を扱っていたんだ。失望しただろ?」
さぞかし、非難や罵声が飛んでくるかと覚悟していたが、ミリアの返答は意外な物であった。
「やっぱりそうなのね…。でも、それでも、私は貴方が好き。沢山のFLも、このお店も、あなたがくれたようなもの。私にとっての「夢」そのもの。だから、代りでもいい。悲しみを補うパーツでもいい。ここでだけは、私と一緒にいて」
俺は、涙を流していうミリアを、こらえきれずに抱きしめた。
「すまない。黙っていて悪かった。少しだけ、こうさせていてくれ…」
#
…こうして、変わった形でVRで両想いになった二人。だが、少し趣きは違ってきたようである。
「いっとくけど、ゲーム内のつきあいだけだからな。でないと別れがつらくなる」
「いつか別れが来るのはリアルでも同じじゃないですか?」
俺はその問いに少し沈痛な表情になった。
「生き別れと、死に別れでは、全然違うさ」
「そうね…。ごめんなさい」
しかし、俺は、何かを振り切るように、ミリアに笑ってみせて、その頭を撫でる。
「気にするなよ。リアルでは色々あるからな。ゲーム内だけでもハッピーにいこうぜ」
「うん!本当に、そうよね」
……ゲームというものも多様化してきているが、扱うのは人である。喜怒哀楽も人それぞれ。願わくば、それが、皆にとって、楽しい時間をもたらすものでありますように…。
「了」
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