上 下
180 / 189

第179章:神の番デス

しおりを挟む
 エウレスが振るうバイデントは、霧状の八岐大蛇を捉えられない。

 幾ら斬りかかったところで、空を裂くのみ。

 「カハハハハ!!!イセイダケカ?タイソウナヤリガナキヌルワ!!!」

 「…」

 エウレスはそれでも八岐大蛇に斬りかかり続ける。

 「…ウットウシイ…イイカゲンニ…」

 スヒンッ!!
 
 「……」

 「コノッ…!!…イイカゲ…」

 スヒンッ!!

 「キサマッ!!ワノセリフヲ…」

 スヒンッ!!

 「ガアアアアアア!!!!!」

 ゴウッ!!!

 八岐大蛇が神威を解放する。それを受けたエウレスは、たまらず弾き飛ばされる。

 「…!!」

 「コシャクナガキガ!!!ワニカナウドウリモナカロウニ、ナニヲムダニキリカカル!!キサマノチカラデハ、イクラヤッテモワニ死ヲ…」

 スヒンッ!!

 「ヲヲッ…!!」

 「オマエガ、死ッテ、言ウナ。」

 「カッ…カカッ……」

 八岐大蛇にはなんのダメージも入っていない。

 しかし、その心中はマグマのように煮えたぎっていた。

 人間の、しかもガキに、何度も何度もオマエ呼ばわりされ、最初は笑い飛ばしていたものの、我慢が効かなくなっていたのだ。

 「………キサマ、ナニカカンチガイシテイルヨウダナ。」

 「…?」

 「ニンゲンフゼイ、ヒトヒネリヨ。
 "ヤマタノリョウイキ"」

 ブワァァァァァ!!!

 八岐大蛇がその霧状の体を拡散させる。辺りが黒に包まれる。

 「ナニコレ…?」

 エウレスはどうすればいいか分からず、立ち尽くしている。

 「…ウッ!?」

 「カハハハハ…ヒトノコヨ。イクラカミヲマネタトコロデ、キサマニハイタレヌリョウイキガアル。
 ヒトニハサンソガヒツヨウ。ワニハサンソナドフヒツヨウ。
 ワノリョウイキニ、サンソハナイ。」

 八岐大蛇の神威は、生物を絶滅させる事に長けている。

 酸素をそこら中の空間から消し去る領域は、植物も枯れ果てさせ、土をも殺していく。

 「サァ!!サァサァ!!!死ヌガ…」

 ドシュッ!!!

 「ガ…ガ…??」

 しかしエウレスは、その程度の苦しみを、今更顧みなかった。

 「オマエ……ガ…死ヲ…」

 バイデントは、今までかすりもしなかった、八岐大蛇の魂に、真正面から突き刺さっていた。

 バイデントは神の槍。死の器と言っても、エウレスは人の子。

 神の槍の本質を引き出すことは出来なかった。

 だが、最後の最後。

 エウレスはバイデントを投げた。

 「オマエガ…おまえがハデスおじさんを…」

 エウレスの意識は、消える寸前だった。

 「使うなっ……!!!!」

 そして、エウレスの体から、命が離れていく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「カハハハハ…カハハハハハハハハ!!!バカナニンゲン!!!ケッキョク死ニヌルカ!!!カハハハハ!!!!」

 ドガッ!!ベキッ!!!

 八岐大蛇は、エウレスの死体を弄ぶ。

 その身を何度も尾で叩き、爪で裂き、牙で突く。

 「カハハハハハハハハ!!!」

 エウレスの体は、抗いようもなく、鞠のように転がる。

 バキャッ!!ブシュッ!!!

 「サンザンナメタクチヲキイテクレタナ!!!ニクノヒトカケラマデイジクッテヤロウ!!!死ネ死ネシネシネシネシネ!!!!」

 八岐大蛇は狂喜していた。

 だからだろう。

 いつの間にか、

 

 「カハハハハハハハハ……!!!!」

 ズブシュッ…!!!!

 最後に八岐大蛇は、角でエウレスの腹を貫いた。

 「ハァ…ハァ……ドレ、ミジメナシニガオヲミテヤロウゾ…」

 八岐大蛇が、意気揚々とエウレスの顔を覗き見る。

 それは、

 「気は済んだか?阿保蜥蜴。」

 「エッ、ナッ」

 まさしく阿保面。

 シュインッ……!!!!

 「我輩、エウレスほど甘くは無いぞ?」

 「カハッ…!!!!」

 振り抜かれる真のバイデント。

 斬り裂かれる八岐大蛇の魂。

 そして、地に軽く降り立つ、穴の空いたエウレスの肉体。

 中には我輩の魂。

 「全く、散々やってくれたものだな。
 これは礼をせねばならん。
 フハハハ…なぁ?エウレス。」

 最後の最後。エウレスは怒りを振り払っていた。そしてバイデントを手放し、八岐大蛇の魂を穿ち、我輩の抜け出す通り道を作り出した。

 それは、死ぬ最中の偶然か、はたまたエウレスの心の強さなのか。

 「まぁ、そんなことはどうでも良い。我輩、お前を信じていたぞ。エウレス。良くやった。褒めてやろう。」

 我輩の手中には、肉体から離れかけていたエウレスの魂が、確と収まっている。

 「ここから先は我輩の番だ。中から見ているがいい。神の名を語る蜥蜴が…」

 「ガアアアアアア!!!!コノクソガキ」

 シュバッ!!!

 バイデントが伸び、八岐大蛇の首根を抑える。

 「ギュアアアアアア!!!!イタイ!!イタァァァァイ!!!!」

 「_____この阿保蜥蜴が死ぬ所をな。」

 さぁ、死の授業だ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...