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第176章:見たのは涙デス

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 城内は騒然としてたッス。

 片隅の書庫にも分かるくらいに。

 荒ぶる闇の力が、城門前をうねり回ってるッス。

 これは…竜族の古い記憶…魔王の時代の概念…

 死…

 なんということッショ…あの時、ショコに入ってきたのは、闇なんて生温いものじゃなかったッス。

 この世界から消し去られたはずの死…それがショコにいたッス…

 「あっ…今…」

 入った…この城に…

 入って来ちゃったッス…

 今日のさっき、ここに入って来た時とは比べ物にならない、恐ろしく練り上げられた魔力。

 この気操と魔混を看破できる使い手は、城内にはいないッス。

 「それこそ竜王様か、執事長さんくらい…ッスかね…」

 竜王様の気配も執事長さんの気配も、昼前には城から出てってそれっきりッス。

 近衛兵や国王直属兵じゃ、最早止められないッショうね…

 それにしても恐ろしい…例え才能があるとして、ここまで急激に成長するなんてことはあり得ないッス。

 突然変異か存在進化…さもなくば

 生命を削ってまで、あの人の子にはやりたい事があるんスかね…

 そのために死を振り撒いてるんスかね…

 …ショコには分からないッス…

 興味深いッスけど…

 とにかく怖い…願わくば…

 二度とショコには来て欲しくないッス…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「おいどうした!?何が起きている!!?」

 「分かりませんっ!!ただ、城内の者は次々と倒れていっているとしか…!!!」

 「ルーノ様!!一階食糧庫でも立て続けに卒倒者が…皆、一様に息をしていません!!」

 「くそっ!!!またか!
 何なんだこれは!!」

 英雄の子孫であり国王直属兵の長・ルーノは焦っていた。

 このような非常事態が、よりにもよって竜王様の不在時に起きるとは思っていなかったのだ。

 「しかし何故今ヤマタノオロチが…」

 「…いや、考えてみれば先日。
 建国3000年祭の日に、あの人間が現れてから…悪い予感はしていたのだ。
 竜王様は奴に何らの警戒心も抱いてはおられなかったが、やはり奴が何かしでかしたに違いない…
 そのせいで、竜王様の体調も崩れ、ヤマタノオロチも目覚めたのだ…」

 「なるほど…」

 全く見当違いなその発言をしかし、咎める者はこの場にいない。

 何故なら竜族は完全縦社会。最も実力のある者が王であり、その場を取り仕切る長なのだ。

 故に、強者の、それも同族の意見を否定することなど決してない。

 竜王の危惧していたことが、今まさに起きていた。

 「早くあの人間のガキを見つけて捕らえねば…またどのような災を引き起こされるか分からん…!!」

 「探知魔法にはかかっていないようですね…」

 「むぅ…」

 「ルーノ様!!今度はヤマタの病の患者が次々と…!!」

 「なんだと!?」

 ヤマタの病で息が止まり倒れるなど聞いたことがない…やはりこれはヤマタノオロチとは別件…ルーノの内心は人間への疑いで満ちていた。

 「早急に手を…うぐっ…!?」

 「どうした!?」

 「あっ…お逃げ…くだ…ぶふぁっ…!!」

 ドサッ!

 「おい!しっかりしろ!!おい!!
 しぬんじゃ…」

 !?

 し…?

 今、確かにルーノは"し"と口走った。

 (なんだこれは…この背中を走る寒気…)

 「…ぐふっ!!」

 ドサッ!!

 「!?」

 また一人倒れた。

 「ぐがぁっ!」

 ドサッ!!

 「おいっ…!」

 また…しんだ。

 「これは、この感じは…死…」

 _____タリナイ____

 「!!そこか!!」

 ルーノは腕のみを竜に戻し背後へ振り抜く。

 しかし、腕を振り切ることは出来なかった。

 腕を

 「がっ……これは…!?」

 右腕だけが動かない。

 だが確かに腕はある。千切られたり斬落とされたりはしていない。

 「腕が…死んだ…!?」

 「__手ダケジャ足リナイ。」

 「貴様ッ……!?」

 幽玄のように立っていたのは、城内でも着々と死を振り撒いていたエウレスだった。

 「全部チョウダイ。」

 「貴様の仕業か!!!皆を返せ!!!この卑怯者めが!!!」

 全身を覚醒させ、竜本来の姿に戻る。

 尾先でエウレスを狙い刺す。

 ビュルンッ!!

 ガキィン!!!

 『な…!?』

 しかしエウレスは、バイデントで虫でも払うかのように刺突を受け止めた。

 (しかもこの人間…槍を握ってはいない…影が槍を持っている…!!?)

 「…僕ジャバイデントハナガスギテ振レナイカラ…オジサンノマネシテ…影デ持ッテルノ…ウゥゥ…オジサン…」

 『何を言っている…!?意味の分からんことを…!!』

 言いつつルーノは口内に炎を生成する。

 『消し炭になるがいい!!!』

 ゴッ!!!

 しかしそこには既にエウレスはいない。

 ルーノはそれに気付かない。いや、気付けない。

 エウレスの魔力は膨大。とは言え有限。その為、気操も魔混も打ち切っての休息が必要なのだ。
 しかしながら、その休息もほんの一間で事足りる。

 ルーノはその数少ない休息の一間…エウレスを倒す絶好の機会を逃した。

 _____スヒンッ_____

 『アガッ……ナニッ………!?』

 「…マダタリナイ……」

 ルーノは死ながら、確かに見た。

 エウレスが…人間のガキが、泣いているのを。

 (…!!?)

 しかし、その真相を確かめる間も無く…

 ルーノは倒れ、沈黙した。

 



 

 

 

 
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