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第154章:書庫ッス

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 突如頭に響く声はしかし、存在感を微塵も発せず、我輩等へ語りかけてくる。

 【いーやー。久しいスネ。もういくら寝たかわかんねッスケド、とにかく久しいス。
 お客さん方、ようこそッス。歓迎するッス。お茶は出ねッス。】

 「うわあああ…なにこれ気持ち悪いよ…頭の中で響いてる……」

 『貴様、何者なのだと聞いている。自己紹介もせず、会話に入るな喧しい。』

 【あっ、そうッシタ。ココは"書庫"。竜の歴史を守る場所。ワタシは書庫の自我ッス。現在、言語野の調子がおかしくて、雑な敬語になってることを、申し訳なく思うッス。】

 『書庫の自我…だと?』

 【そッス。そこのお坊ちゃんが転けた衝撃で、目が覚めたッス。僥倖ッスネ。】

 「おじさん、どういうことなの?結局誰なの?この人…」

 『…此奴の言うことを信じるならば、此奴は人ではなくこの場所そのもの…"書庫"だということになるが。』

 「…どういうことなの?」

 『分かれ。とにかく理屈は分からんが、この場所自体が我輩等に話しかけてきているということだ。』

 「……分からないけど、分かっとく…」

 我輩とてよく分からない。我輩、全知ではないからな。

 場所に自我が宿るなど、聞いたことがない。

 ダンジョンの街の扉や、ダンジョンの入り口の扉すら、"扉"という物に宿った自我だったのだ。

 『…では、貴方がこの場所であると仮定し、その仮定を事実だと理解した上で質問させていただきましょう。
 胡散臭き者よ。』

 【ショコと呼んで欲しいッス】

 『では、胡散臭き者・ショコ。この書庫には、一体何が納められているのですか?
 …先程感じた悪しき予感で、大まかに察しはつきますが…』

 【この書庫は、ヤマタノオロチとラゴラム国家の血に塗れた歴史と、それに付随して起きた悲惨な事件の記録を封じる為に作られた場所ッス。】

 『やまたのおろ…?』

 ヤマタノオロチだと…その記録が残っているだと…?

 竜王の奴は、このような書庫の事など何も言っていなかったぞ…我輩を騙したのか…!!?

 『なんなのです。やまたのおろしとは。』

 【オロチッス。その名を呼ぶのも憚られる、古今独歩の大悪党。…と言うよりは最早厄災ッス。】

 『…なるほど。よく分からない言い回しですが…パンドラの匣のようなものでしょう。』

 『あー…オデの匣だよね…まさか人に開けられるとはなぁ…』

 『…ヤマタノオロチの歴史か。竜王が語った以上のことが分かるのか?』

 【…失礼ッスガ、あなた方は当代竜王のお客人ッスカ?】

 『そうだ。だからこそ聞いている。』

 【…なんだか異形の集団ッス。炎と光と巨闇と人とは…竜王はあなた方に、ヤマタノオロチを託すんッスカネ…】

 『?…何を言っている?』

 【ヤマタノオロチとはそもそも、八筋の流星…空から去来した、八つの隕石ッス。】

 『隕石だと…?』

 何がどうなっているのだ…

 我輩の頭の中に、また一つ悩みの種が生まれた。

 
 
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