上 下
144 / 189

第143章:エウレスとアテナとヘパエストスデス

しおりを挟む
 ぼくはハデスおじさんを見送った後、そぉっと女の人の方を見た。

 綺麗な女の人だなぁ…全身が光ってて、服がふわふわしてる。でも、ほぼ裸みたいな格好で、寒くないのかな。

 「…あのぅ……僕、ノバーン・エウレスともうします。えっと…ハデスおじさんには、いつもおせわになっています。」

 いつかおじさんの中から見た本に、お知り合いのお知り合いに会った時にはこう言えって書いてあった。

 おじさんは鼻で笑ってたけど、僕は感心して覚えてたんだ。

 『…』

 「あの…よろしければ、あなたのお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか…」

 女の人は黙って僕を見てくる。やっぱり失礼だったかなぁ…

 『…貴方は…』

 「はいっ…!」

 良かった!女の人が話しかけてくれた!

 『貴方は見たところ、生まれたばかりの人間ですね?』

 「えっ…えっと…確か2歳と半分くらいです。…あの…それがなにか…?」

 『…ハデスは一体どんな調教を施したというのでしょう…仮にも自らの器たる、年端もいかぬ子供に……』

 「…?」

 女の人は眉毛をまげて、困ったように僕を見る。

 「あっ!ご、ごめんなさい…僕、なにか失礼なことをしてしまいましたか…?」

 『いいえ。死の器たる人の子・エウレス。
 貴方には何も誤ちはありませんよ。
 誤ったとすれば、それはハデスです。』

 「おじさん?
 おじさんは何も間違えてませんけど…」

 『貴方がそう認識している時点で…ハデスの誤ちであり、手遅れであると、私は考えます。死の器たる人の子・エウレスよ。』

 「…?」

 女の人は溜息を吐きながら壁にもたれかかって、眉毛の間を指で押さえた。

 おじさんも考え事をする時によくやる格好だ。

 「あの…あなたは…」

 『…大変申し遅れました。
 私の名はアテナ。 戦策を司る神にして、守護と知恵の体現神。
 あまねく混沌を平穏へと向かわせる、オリーブと円盾と槍の使い手。
 そして……我が父神であり主神であるゼウスを、その毒牙にて裏切った憎き者、ハデスを滅ぼす神です。』

 「ハデスおじさんを…!?」

 『つまり、お前を滅ぼす神であると言うこと。
 …残念ですが、お覚悟を。』  
 
 そういうと、女の人…アテナさんは、両手それぞれに大きな槍を持ち出した。

 光が…とても怖い…!!

 「うぁっ………」

 『恨むならば、己の運命を恨みなさい。』

 アテナさんが槍を構えてる。僕はそれをただ見てるしかできない。

 『……死ねっ!!!』

 ヒュガッ!!!!!

 ………………?

 「あ…え………?」

 『なるほど…こうなりますか。』

 槍は僕には刺さらなかった。僕の横の床に突き刺さってる。

 「どうして…
 ころすつもりだったんじゃ…」

 『ええ。しかし、私が聖槍アイギスを投擲するその刹那、私の意に反して腕がその槍先を変えたのです。
 死の器たる人の子・エウレスから、床へと…』

 「どうしてですか……?」

 『…やはりこの腕輪は……』

 アテナさんは、右手首を困った顔で見た。

 キラキラ光る綺麗な腕輪が着いてる。

 「…それは何ですか?」

 『…おそらくは、主従の契約のような物…でしょう。』

 「しゅじゅう…??」

 『主と奴隷の関係という意味です。
 この腕輪は、貴方と私にその関係を強制しているということでしょうね。』

 「で、でも、僕はそんなの知りません!
 …多分、ハデスおじさんも…」

 『そうでしょうね。こんな物を創り出せるのは、1人…いえ、ただ一柱。』

 アテナさんは、とても怖い顔をして、僕を睨んできた。

 「ううっ………!?」

 『出てきなさい…ヘパエストス!!!!』

 「……?……あの…僕はエウレスです…」

 『……そうですか。否が応でも出てこないつもりのようですね。ならば…』

 アテナさんは僕の頭に手を乗せた。

 あんまり早くて何気ないから、僕は驚く声も出ない。

 『…………はぁっ!!!!』

 『ぶひゃあ!!』

 「ええっ!?誰!!!?」

 アテナさんが力を込めた瞬間…僕の胸から、変な太ったおじさんが飛び出してきた!

 『やはり居ましたか。ヘパエストス…
 愚劣極まりない最低最悪の無能にして我が身を汚した怨敵・ヘパエストスよ…!!』

 『なっ…なんだよアテナぁ!!そんな怖い顔するなよぉ~!ぶひっ。
 昔は良く遊んであげただろぉ~!
 お前だってお兄様お兄様って…』

 『黙りなさい!!!』

 ザクッ!!!

 あ!アテナさんが変なおじさんを槍で刺した!!

 『ぶひゃあああああ…!!!』
 
 『……ヘパエストス…脂豚め…此奴までもが生き返ったか………!?』

 「あっ、ハデスおじさん!!」

 いつの間にか出てきてたハデスおじさんが、口をへの字に曲げて唸りながら、溜息をついた。

 …なんだか、大変な事になって…
 いるのかなぁ…?
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...