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第142章:アテナとハデスとエウレスデス
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____…………?
…おかしい……
私は今、ハデスによって死をもたらされたはず………
『……何故消えない?』
『…知ったことではありません。
…貴方の死の力が衰えたのでは?』
『…ふんっ!』
ハデスは再度私に向けて死の神威を放ってきた。
しかし私は消えない。
『………何故だ!!』
『知りません!!!』
私は体が無事なのを確認し、ハデスに向かって叫ぶ。…いや、無事ではない。私の手首…気づかなかったが、光の輪が纏わりついている。
『これはっ…!?』
『まさか…これもエウレスと入れ替わった代償か!?
我が身は影から死を振り撒けぬというのか!?』
『エウレス…?…入れ替わった…?
一体どういうことなのですか…詳しい説明を求めます。死の神であり主神ゼウスの仇、オリュンポスの恥さらし・ハデスよ。』
『喧しい!!!
貴様に説明する筋合いなど無いわ!!』
ハデスは自身の力が正常に働かず、ギャンギャンと喚き散らすばかりだ。
普段は冷静冷徹沈着、常識神であるハデスだが、自身の想定外のことが起こると途端に慌てふためき取り乱す。
滅多に見ない姿だが…この異界に来たときには私ですら慌てふためいた。
この死の神も、例外ではないということか。
『なんということだ…!?影は所詮影なのか…いや、まさか力の主導権がエウレスに移っているのか…!?…
馬鹿な…何故だ!…何故…!?』
『……少し落ち着いてはいかがですか?死の神であり主神ゼウスの仇、オリュンポスの恥さらし・ハデスよ。
怨敵であるとはいえ、今の貴方は見ていていたたまれません。哀れみすら覚える。』
『うるさい!死を哀れむな!!!
……それよりも、何故貴様は今更姿を現した?貴様はステュクスに捕らえた後、我が死の力の糧となったはずだ…!』
『…分かりません…私も気付いた時には、ここに降臨していました…剣の姿ではなく、元世の姿で…。』
『どういうことだ…分からないことが多すぎるぞ……!!』
私は今更ながら、目の前で頭を掻き毟るハデスの姿をジッと観察した。
影から伸びるその体は、真黒く小柄だ。眠っているハデス…エウレスというのだろう…と同じくらいだ。格好も瓜二つ。
だが、目つきが違う。
他のどのような物も…例え神だとしても、公平に睨みつける冷たい目だ。
あの目に何度泣かされたか。今は昔のことだが…
『……なんだ貴様、我が身を無礼に睨みつけてからに…百遍死なされたいか?』
『おや、これは奇なことを。今貴方は死の力を振るえないのでは?
死の神であり…』
『その長たらしく煩わしい前口上をやめろ!!戦神アテナ!!!』
『……フゥ…なんとも痛ましい…』
思わず溜息をつき、ハデスに哀れみの目を向けた時だった。
「ん……ふあああ……あれ。
僕、寝てた…?」
ハデスの器…エウレスが、目を覚ましたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アテナは忌み嫌う輩を前口上込みで呼ぶ癖がある。
最初から気に触っていたが、消し去れば溜飲も下るというもの。
…だが、我輩の意に反し、死はその力を示さなかった。
完全なる想定外だ。
影からの顕現が可能で、エウレスの魔力知覚を共有することも可能。
しかし、我輩の死の力は振るえず…
これでは、この地の神を死なす算段も台無しだ……
エウレスの魔力視覚にて神を感知。すかさず我輩の死でもって反撃に転じる腹積もりだったというのに…
アテナに怒鳴り散らし、無様と分かっていながらも、落ち着くことなどできはしなかった。
そんな折、アテナの溜息が空気を揺らす。
「ん……ふあああ……あれ。
僕、寝てた…?」
エウレスが目を覚ました。
「あ!おじさん!!出てきてたんだね!!寂しかったんだよ!急に引っこんで黙っちゃうから…でもよかったぁ。
元気だね!」
『…元気なものか。そもそも死たる我輩に元気も病気も無い。
…いや、あるいは病気の可能性も……?』
『我々オリュンポスの十二神たる身体が、病になど侵されるわけがありません。
いい加減に落ち着きなさい。
死の神であり主神ゼウスの仇、オリュンポスの恥さらし・ハデスよ。』
『分かっている!!
可能性の話をしただけだ!!
前口上をやめろ!!!』
「…え…?だれ…?」
エウレスが間抜けた顔で問うてくるが、説明している所ではない。
我輩は全能ではないのだ。自身の力のことで手一杯なのである。
『…我輩は今一度考えることがある。話ならその戦女神にでも聞いておけ!
…見張ってはいてやろう。』
「う、うん。分かったよ。お大事にね。
おじさん。」
『…』
我輩はおじさんと呼ばれたことを訂正する間もなく影に潜り、エウレスの中へと戻るのだった。
…おかしい……
私は今、ハデスによって死をもたらされたはず………
『……何故消えない?』
『…知ったことではありません。
…貴方の死の力が衰えたのでは?』
『…ふんっ!』
ハデスは再度私に向けて死の神威を放ってきた。
しかし私は消えない。
『………何故だ!!』
『知りません!!!』
私は体が無事なのを確認し、ハデスに向かって叫ぶ。…いや、無事ではない。私の手首…気づかなかったが、光の輪が纏わりついている。
『これはっ…!?』
『まさか…これもエウレスと入れ替わった代償か!?
我が身は影から死を振り撒けぬというのか!?』
『エウレス…?…入れ替わった…?
一体どういうことなのですか…詳しい説明を求めます。死の神であり主神ゼウスの仇、オリュンポスの恥さらし・ハデスよ。』
『喧しい!!!
貴様に説明する筋合いなど無いわ!!』
ハデスは自身の力が正常に働かず、ギャンギャンと喚き散らすばかりだ。
普段は冷静冷徹沈着、常識神であるハデスだが、自身の想定外のことが起こると途端に慌てふためき取り乱す。
滅多に見ない姿だが…この異界に来たときには私ですら慌てふためいた。
この死の神も、例外ではないということか。
『なんということだ…!?影は所詮影なのか…いや、まさか力の主導権がエウレスに移っているのか…!?…
馬鹿な…何故だ!…何故…!?』
『……少し落ち着いてはいかがですか?死の神であり主神ゼウスの仇、オリュンポスの恥さらし・ハデスよ。
怨敵であるとはいえ、今の貴方は見ていていたたまれません。哀れみすら覚える。』
『うるさい!死を哀れむな!!!
……それよりも、何故貴様は今更姿を現した?貴様はステュクスに捕らえた後、我が死の力の糧となったはずだ…!』
『…分かりません…私も気付いた時には、ここに降臨していました…剣の姿ではなく、元世の姿で…。』
『どういうことだ…分からないことが多すぎるぞ……!!』
私は今更ながら、目の前で頭を掻き毟るハデスの姿をジッと観察した。
影から伸びるその体は、真黒く小柄だ。眠っているハデス…エウレスというのだろう…と同じくらいだ。格好も瓜二つ。
だが、目つきが違う。
他のどのような物も…例え神だとしても、公平に睨みつける冷たい目だ。
あの目に何度泣かされたか。今は昔のことだが…
『……なんだ貴様、我が身を無礼に睨みつけてからに…百遍死なされたいか?』
『おや、これは奇なことを。今貴方は死の力を振るえないのでは?
死の神であり…』
『その長たらしく煩わしい前口上をやめろ!!戦神アテナ!!!』
『……フゥ…なんとも痛ましい…』
思わず溜息をつき、ハデスに哀れみの目を向けた時だった。
「ん……ふあああ……あれ。
僕、寝てた…?」
ハデスの器…エウレスが、目を覚ましたのだった。
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アテナは忌み嫌う輩を前口上込みで呼ぶ癖がある。
最初から気に触っていたが、消し去れば溜飲も下るというもの。
…だが、我輩の意に反し、死はその力を示さなかった。
完全なる想定外だ。
影からの顕現が可能で、エウレスの魔力知覚を共有することも可能。
しかし、我輩の死の力は振るえず…
これでは、この地の神を死なす算段も台無しだ……
エウレスの魔力視覚にて神を感知。すかさず我輩の死でもって反撃に転じる腹積もりだったというのに…
アテナに怒鳴り散らし、無様と分かっていながらも、落ち着くことなどできはしなかった。
そんな折、アテナの溜息が空気を揺らす。
「ん……ふあああ……あれ。
僕、寝てた…?」
エウレスが目を覚ました。
「あ!おじさん!!出てきてたんだね!!寂しかったんだよ!急に引っこんで黙っちゃうから…でもよかったぁ。
元気だね!」
『…元気なものか。そもそも死たる我輩に元気も病気も無い。
…いや、あるいは病気の可能性も……?』
『我々オリュンポスの十二神たる身体が、病になど侵されるわけがありません。
いい加減に落ち着きなさい。
死の神であり主神ゼウスの仇、オリュンポスの恥さらし・ハデスよ。』
『分かっている!!
可能性の話をしただけだ!!
前口上をやめろ!!!』
「…え…?だれ…?」
エウレスが間抜けた顔で問うてくるが、説明している所ではない。
我輩は全能ではないのだ。自身の力のことで手一杯なのである。
『…我輩は今一度考えることがある。話ならその戦女神にでも聞いておけ!
…見張ってはいてやろう。』
「う、うん。分かったよ。お大事にね。
おじさん。」
『…』
我輩はおじさんと呼ばれたことを訂正する間もなく影に潜り、エウレスの中へと戻るのだった。
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