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第90章:世界樹入手デス

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 似非淑女はその腹を自らの手で貫き、地に倒れ伏している。

 血液がだくだくと止めどなく流れ落ちていく。

 「先生!学院長先生!!
 いやっ…どうして……!!!?」

 「…」

 腹を貫く凶器…

 あの時、ヘパエストスに作らせたナイフだ。

 つまりヘパエストスは、こうなることを知っていたという事になる…

 「あの阿保豚め…知っていて言わなかったのか…!!!」

 「……言わないように……脅したんだ…通用しなかったけど…分かってくれた…あのアイアンゴーレムも…貴方と同じでしょう…?」

 「…」

 我輩は先程から、似非淑女の傷に手を当て、死を消そうとする。

 しかし、何故か我輩の力は掻き消されていく。

 なんだこれは…!?

 「ふ…ふふ…無駄だよ…見て…」

 似非淑女は世界樹の方を指差す。

 巨大な世界樹の切り株が、似非淑女の血を吸っていた。

 「この…切り株は…世界樹の切り株…
 罪人の血を全て吸わないと、時間を取り戻さない…」

 「どういうことだ!?」

 「…罪人の血…つまり、全てのこの街のエルフの血…
 私が…最後の生き残り…」

 「そんな…!!」

 「愚かな…ならば貴様は、僕の武器の為にその命を捧げるというのか…!?」

 「……私には分かるんだ…
 過去の行いの……過ちが……
 悪神…なんかじゃ…なかった…
 貴方を……見ていたら……分かる…」

 「なんだと…?」

 「私達は…過ちを…犯した……
 だから……正さないと…
 だから………」

 「おい!エルフ!!エメルダ!!!」

 「…あはは…やっと……名前を…
 あり…がと……」

 そして似非淑女・エメルダの肉体は、力を失った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「そんな…学院長先生…!!!」

 過ちを正すだと…?

 死を持って…?

 …愚か者め…

 「…この世界には、冥府が無い…
 死してなお、罪を償う場所など無いではないか…」

 エメルダの死体は、パラパラと砂のように崩れ、世界樹に吸い込まれていく。

 ビシッ…バキバキッ……!!

 世界樹の白き表面にヒビが入り、剥がれ落ちた。

 そこには世界樹の本来の色であろう、真紅が見えていた。

 たったひと塊りのそれが。

 「…」

 ガッ!!…ガガガガッ!!!

 我輩はエメルダの持っていたナイフで其処だけを慎重に削り出す。

 「…これが、本来の世界樹…」

 「エウレス…が…学院長先生の服からこれが…」

 姉は我輩の肩を叩き、なにやら差し出してきた。

 「…手紙…?」

 「エウレスにだって…」

 確かに、宛先は我輩になっていた。

 「…確かに。」

 我輩は手紙を受け取り、懐にしまった。

 「…読まないの?」

 「…後でな。」

 我輩はケルベロスを呼び出し、背に跨る。

 「乗れ…
 ヘパエストスの元へ向かう。」

 「この服とナイフは…」

 「…この地に置いておいてやれ。
 産まれる場所は選べずとも、死する場所は選べる。
 それが…生きとし生ける者の権利だ。」

 「…うん。」

 そして我輩達は空に駆け上がった。

 来た時よりも軽くなった背を、全く気にしないケルベロスによって。
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