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第54章:翌朝の風デス

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 翌朝。

 我輩は早めに目覚め、顔を洗っていた。

 姉は寝ている間も泣いていたらしく、我輩の顔が涙でまみれ、それが固まってしまい蝋人形のようになっていたからだ。

 寮…同じような扉が廊下にいくつも並び、無機質ささえ感じる空間だ。

 冥府の待合に似ているな。

 冥府の亡者に対する待遇は破格だ。

 毎秒冥界に落ちてくる亡者一体一体に一つずつ拷問待合が用意される。

 しかも個別に個性を考慮したうえで最も適切な拷問をだ。

 その点この寮は退屈だ。

 亡者の絶叫も、骨が砕け肉が引き裂ける音も、臓器が腹腔から流れ落ちビチビチと床で飛び跳ねる音も聞こえないのだ。

 今聞こえているのは、我輩の手の平の中で踊り狂う水の音のみだ。

 ビュオッ…

 風…?

 「やあ…目覚めたのだね…
 エウレス…」
 

 やはりあの高女か。

 よくぞ我が目に面皮を晒せたものだ。

 「貴様か。
 あれほど殺意をぶつけられてよく…」

 ザッ…

 高女は次の瞬間、跪き頭を下げていた。

 それでもまだ我輩より高いが。

 「君を無断で詮索してしまい済まなかった…とても無礼なことをしたと反省している…」

 …ふん。

 「運が良かったな、似非淑女。
 我輩は今、憤る気にも殺す気にもなれぬ。従って…貴様の謝罪を受け取ろう。」

 「ありがとう…似非淑女とは…?」

 「他ならぬ貴様のことだ。
 貴様が無断で我輩を覗いたことは事実であるからな。」

 「そうか…
 ではその"我輩"というのは…」

 我輩は似非淑女を睨みつける。

 「貴様、もう謝罪を破るのか。」

 「んくぅ…」

 なんだ?此奴は…

 我輩が睨むと顔を新鮮な生首より赤くした。

 そのまま赤さが極まり爆散してしまえば良いのだ。

 「…はぁ。まぁ良い。
 教えてやろう…」

 「…教えて…くれるの?…」

 似非淑女は我輩を上目で見つめ高い声を出す。ますます気持ちが悪い。

 「その妙な喋り方と上目を止めろ。
 貴様には不釣り合いで不気味だぞ。」

 「…こうなっちゃう…だって…
 女の子だもん…」

 意味不明だ。

 女の子だと?此奴は見かけこそ若く見えるが我が母よりも遥かに年老いているはずだ。

 「もう良い。…貴様は我輩の魂が見えるのだろう。」

 「…うん。見えるよ。
 魂じゃなくて心だけどね…」

 「そして貴様は"ゼウス"と言う名を見たのだな?」

 「うん…ごめんなさい。」

 「くどい。一々謝るな。
 …その名は我輩の仇だ。
 だから我輩は激昂した。…我輩はこことは違う世界から来た神だ。」

 「嘘…!!?転生者……!!
 しかも神って………!!!?」

 「我が名はハデス。
 死の神にして冥府の王。
 死と問えば我輩であり、我輩と問えば死たる存在。死そのものだ。」

 「し…"死"……懐かしい…!!
 死神…道理で…!!」

 「死神ではない!!
 死の神だ戯けめ!!!」

 「んくぅうっ…!!」

 我輩の罵りに、再び赤くなる似非淑女だった。

 顔が赤く、ひょろ長い…マッチ棒のようだな。
 
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