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第16章:それぞれの思いデス

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 今、我輩の目の前には、自称・兄姉が並んで跪いている。

 我輩がそうさせたのだ。

 我輩の周りをちょろちょろするな、邪魔をするなと言ったはずだが、その言葉を破ったからだ。

 「何故僕の言葉を無視した挙句、瞑想する僕の頬を突いていた。
 納得できるように説明してみよ。」

 「えっ…と、その…心配になったのよ!いくら声かけても揺すっても、全く起きないから…
 ほら、エウレスは赤ちゃんの頃、病気だったでしょう?
 だから兄さんを呼んで、2人で様子を見ていたの!」

 「そ、そうだぞ!エウレス!」

 「…ならば兄より母を呼ぶべきではなかのか?」

 「うっ…!そ、それは…」

 「それに心配だから頬を突いていたというのは理にかなわぬな。
 もっとマシな言い訳を思いつけなかったのか?
 明らかなる嘘ではないか。」

 「ううっ…それはだな…」

 ((可愛いから触っていたなんて言えない…絶対また怒られる…!!))

 「…………はぁ。もう良い。
 僕は疲れた。それに腹も減っている。
 以後気をつけるように。」

 「「は…はい…」」

 次はないぞという思いを詰めて睨みながら、我輩は部屋を出た。

 アップルパイの良い匂いがしていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「……っはぁああ………怖かった…」

 「ああ……めちゃくちゃキレてたな…」

 私と兄さんは、跪いている姿勢を崩して、床にへたり込んだ。

 「あれは子供が…しかも2歳児ができる目じゃねぇだろ…母さん普段どうやって接してんだ!?」

 「あの子…
 母さんには心を許してるみたいよ…
 私達に向ける目と、明らかに違うもん…」

 「本当か?…全然気づかなかった…
 やっぱ俺、視野が狭いのかな…」

 「…ねぇ、兄さん。
 やっぱり兄さんも、エウレスに言われたことが気になってるんでしょ?
 だからあの子に会いに来たのよね。」

 「……ああ。実は師匠に、エウレスと同じようなことを言われてな…
 気になって仕方ないんだ…」

 「私も…先生に言われたことと同じことを言われたんだもの…
 居ても立っても居られなくて…」

 「そうか…」

 どうすればエウレスと話ができるんだろう…

 弟のはずなのに、今まで生きてきた誰と話すよりも緊張する…。

 「ミレス~!ジャッジ~!
 お昼ごはんですよ~!!」

 母さんに呼ばれたので、2人とも我に帰り、書室を出てリビングに向かうのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「ねえ、エウレスちゃん。
 お外に行くのは、あと1年待つって約束でしょ?ママは心配なの。
 お外はとっても危険なのよ?」

 「むぅ…
 母は過剰に心配し過ぎなのだ。
 僕とてそれほど遠くに行きたいと言っているわけではなかろう。」

 「それでもダメよ。約束ですもの。」

 「ぬぅ…」

 母さんはエウレスと親しく話している…どころか、エウレスを困らせている。やはり親と兄貴じゃ違うってことか…?

 「な、なぁ。エウレス。
 どうしてそんなに外に行きたいんだ?」

 「…?…何を言っている?
 好奇心旺盛な、僕のような子供が、外に興味が無いわけがなかろう?
 たわけているのか?」  

 「そ…そうか…」

 やっぱり俺には厳しい…

 そういや、子供が苦手って言ってたしな…

 いやいや!!こいつの方が子供だろ!?

 大体、俺、今年で18だぞ!?

 「な、なぁ。エウレス。
 俺一応今年で18なんだが…」

 「そうか。それで?」

 「いや…なんでもない…」

 なんでこいつ、こんな怖いんだ!?

 時々師匠より怖い…!!!

 「はぁ…。母よ。僕はもう満腹だ。
 アップルパイは兄と姉に半分ずつ食べさせてやってくれ。
 僕は昼寝に入る。」

 「あらまぁ!ほんと?
 優しいわねエウレスちゃん!
 ゆっくりお休みなさい。」

 母さんはエウレスを抱き上げると額にキスをしてエウレスを床に下ろす。

 そんなことしたらブチギレるんじゃ…

 「む…くすぐったいぞ母よ。
 僕は生まれた時から、これには慣れぬ。」

 「うふふ…ママの愛情よ。
 エウレスちゃん。
 ほら、お行きなさい。」

 「むぅ…ではさらばだ…」

 「はい。おやすみなさい。」

 エウレスはキレなかった…呆れてはいるようだが…

 なんでだ!?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 食後のデザートとして、ミレスとジャッジにアップルパイを出した時だった。

 2人が凄い顔をして、詰め寄ってきた。

 「「母さん!!どうやったらエウレスと話せるの!?」んだ!?」

 「あらあらまぁまぁ…うふふ。
 2人とも子供みたいにはしゃいで。
 そんなにエウレスちゃんが気になるの?うふふふ…。
 まぁ、仕方ないわね。年も離れてるしね。
 ほら、座りなさいな。アップルパイが冷めちゃうでしょ?」

 「「……うん…」」

 2人は席につき、アップルパイを心ここに無い様子で食べ始める。

 そんなにエウレスちゃんと話したいのかしら?

 「エウレスちゃんと話すって言ってもねぇ…
 ママとパパとは、普通にお話しできるんだけどねぇ…」

 「えっ!?父さんとも!?そんな…
 私、父さんよりは大人っぽいと思ってたのに…」

 「俺も…」

 「あらあら。どういうことなの?」

 「……実はね…」

 そして私は、ミレスとジャッジが言われたことの一部始終を聞いた。

 私は思わず笑ってしまった。

 「なっ…どうしたの!?母さん!」

 「あははははは……ごめんなさい。
 でもそっか。それは確かに気になるし、お話しもしたくなるわね…。
 うふふふ。懐かしいわね。
 エウレスちゃん、最初は私たちにもそんな感じだったのよ。」

 「えっ…そうなのか?」

 「うん。だって、喋れるようになったかと思ったら、『僕は明日から普通の食事を摂る。母よ、もう乳は出さないでくれ。』って言ったのよ?
 1歳の子がよ?私、その時悲しくて泣いちゃったわ。」

 「それでそれで!?どうしたの!?」

 「うふふ…そしたらエウレスちゃんね、『そろそろ父も母のことが恋しかろう。一緒に寝てやるがいい。なにより、僕に構ってばかりでは、母自身のことが疎かになってしまうだろう。』って…
 まるで大人みたいなこと言うのよ。
 私、悲しいよりびっくりの方が勝っちゃった。」

 「だろうな…俺でも驚く。」

 「でしょう?
 でもね、私分かったの。あの子は色々な事を考えて、色々と思った上で、私達にあんなことを言っているのよ。
 だからあの子を1人の人として見守ってあげて?待ってあげて?」

 「……ああ。分かったよ。母さん。
 俺、自分のことばかりで、エウレスのことはあんまり考えてなかった…。」

 「私も…待ってる…。」

 「うん。良い子ね。よしよし。」  

 私が2人の頭を撫でると、2人は嫌がるそぶりも見せず、照れ臭そうに受け入れてくれた。

 私の子供はみんな良い子ね…。

 


 


 
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