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第12章:あれから2年が経ちマシタ

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 つまらぬことに…

 アレからなんの事件・事故も起きず、2年の月日が流れ、我輩は2歳になっていた。

 母親は無事回復し、父親は魔術で腕を治癒させ、仕事に復帰したそうだ。

 他人事のようにしか語れぬのは、あの日以来、我輩は鳥籠にかこうように育てられ、父親の仕事の話など聞いたことが無いからだ。

 なにやら鎧や武器を持っているのを見たことはあるのだが…

 「エウレスちゃんはこんなもの見なくていいのよ。」

 母親は我輩に武器や防具の類を全く見せようとしないのだ。

 父親はその度に、寂しいような仕方のないような顔をする。

 「はぁ…
 我輩のあの言葉が、呪いになってしまったのか…」

___なるほど…ではその命、せいぜい死ぬために愛し、慈しみ、育むが良い!!___

 我輩なりの激励の句だったのだが、かように過保護になるとは思わなかった。

 「人の心持ちとは、分からぬものよ…
 特に親ともなれば、複雑に過ぎる…」

 前世において、我輩は妻こそ娶ったものの、子を成すことはついに無かった。

 そもそも我輩がペルセポネに一目惚れし、無理やり冥府に連れ去ってしまったが為に、愛情など芽生えなかったという事実もある。

 あの時の我輩はどうかしていた。

 いくら好きになったとはいえ、世界の理を捻じ曲げてまで、ペルセポネを攫ったのだ。

 しかし…

 「攫わねば…誰かに奪られると思ったのだ…
 あぁ…君に会いたい…ペルセポネ…」

 憂鬱な気分になったので無理矢理に話を変えるが、我輩は1年ほど前から言葉を発せられるようになっていた。

 成長したのだ。

 まぁ…正確には魂だけで部屋から抜け出し、片っ端から言霊ロゴスを吸収し、言葉を魂から発する力を身につけたのだ。

 口は動かしても動かさなくとも良い。

 「しかし声の高さは高いまま…
 冥府の王がこれでは、聞いて呆れるな…」

 最近はもっぱら、部屋で瞑想をしている。

 冥府の玉座に座っていた時にも、良くやっていたものだ。

 普段の我輩に、やることなどほぼ無い。

 「…ふむ。死が待ち遠しいな…」

 そんなつまらん日常に、突然騒音が飛び込んで来た。

 ガチャッ!!!!

 「「母さん!!ただいま!!!」」

 ノックもせずに、見知らぬ若い男と女が入り込んで来たのだ…

 ……母さん?……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「あらあらまぁまぁ!!
 あなた達!!おかえりなさい!!!」

 母は満面の笑みを浮かべ、男と女の荷を受け取り、椅子を促す。

 我輩は居間の床に座り込み、玩具のクルマと木片を使って、事故遊びをしながら2人を凝視していた。

 「わっ…この子なのね…私の弟…!!」

 「か…可愛いな…本当に男か…?
 目がでかいな…」

 そう。

 不本意なことに、我輩は顔立ちから女児によく間違われる。

 ひとえに眼球が大き過ぎるからなのだが、冥府の王であった我輩も、眼球は大きかったので、成長につれ風格を伴うようになるだろう。

 「わが……僕は男だぞ。女に男よ。」

 「えっ!?うわ!!喋れるの!!?
 声高い!可愛い~!!
 私はあなたのお姉ちゃんよ!
 ミレスって言うのよ!よろしくね!」

 「すごいな…俺はジャッジ。
 おまえの兄貴だ。よろしくな。」

 「そうか…母よ。
 僕は奴らをなんと呼べば良いのだ。」

 「「奴らっ…!?」」

 「あらまあ、うふふふ…
 ごめんね。エウレスちゃん、まだ初対面の人とのやり取りに慣れてないのよ。
 エウレスちゃん。お姉ちゃん、お兄ちゃんって呼べば良いのよ。」

 「むぅ…。では、姉に兄だな。」

 「それとね、エウレスちゃん。
 初めましての人には、ちゃんと自己紹介をするのよ。」

 「む…そうだな。」

 前世では、皆が我輩を知っていた。

 自己紹介など、クロノスの胃臓の内でゼウスと出会った時に交わしたぐらいか…

 「我が名はハ…ノバーン・エウレス。
 このノバーン家の末子にして秘蔵っ子である。
 苦しゅうない。」

 仁王立ちをして凄む。

 しかしやはりこの声、この姿では締まらぬな…

 兄も姉も母も、口を開けたまま固まってしまった。
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