上 下
13 / 189

第12章:あれから2年が経ちマシタ

しおりを挟む
 つまらぬことに…

 アレからなんの事件・事故も起きず、2年の月日が流れ、我輩は2歳になっていた。

 母親は無事回復し、父親は魔術で腕を治癒させ、仕事に復帰したそうだ。

 他人事のようにしか語れぬのは、あの日以来、我輩は鳥籠にかこうように育てられ、父親の仕事の話など聞いたことが無いからだ。

 なにやら鎧や武器を持っているのを見たことはあるのだが…

 「エウレスちゃんはこんなもの見なくていいのよ。」

 母親は我輩に武器や防具の類を全く見せようとしないのだ。

 父親はその度に、寂しいような仕方のないような顔をする。

 「はぁ…
 我輩のあの言葉が、呪いになってしまったのか…」

___なるほど…ではその命、せいぜい死ぬために愛し、慈しみ、育むが良い!!___

 我輩なりの激励の句だったのだが、かように過保護になるとは思わなかった。

 「人の心持ちとは、分からぬものよ…
 特に親ともなれば、複雑に過ぎる…」

 前世において、我輩は妻こそ娶ったものの、子を成すことはついに無かった。

 そもそも我輩がペルセポネに一目惚れし、無理やり冥府に連れ去ってしまったが為に、愛情など芽生えなかったという事実もある。

 あの時の我輩はどうかしていた。

 いくら好きになったとはいえ、世界の理を捻じ曲げてまで、ペルセポネを攫ったのだ。

 しかし…

 「攫わねば…誰かに奪られると思ったのだ…
 あぁ…君に会いたい…ペルセポネ…」

 憂鬱な気分になったので無理矢理に話を変えるが、我輩は1年ほど前から言葉を発せられるようになっていた。

 成長したのだ。

 まぁ…正確には魂だけで部屋から抜け出し、片っ端から言霊ロゴスを吸収し、言葉を魂から発する力を身につけたのだ。

 口は動かしても動かさなくとも良い。

 「しかし声の高さは高いまま…
 冥府の王がこれでは、聞いて呆れるな…」

 最近はもっぱら、部屋で瞑想をしている。

 冥府の玉座に座っていた時にも、良くやっていたものだ。

 普段の我輩に、やることなどほぼ無い。

 「…ふむ。死が待ち遠しいな…」

 そんなつまらん日常に、突然騒音が飛び込んで来た。

 ガチャッ!!!!

 「「母さん!!ただいま!!!」」

 ノックもせずに、見知らぬ若い男と女が入り込んで来たのだ…

 ……母さん?……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「あらあらまぁまぁ!!
 あなた達!!おかえりなさい!!!」

 母は満面の笑みを浮かべ、男と女の荷を受け取り、椅子を促す。

 我輩は居間の床に座り込み、玩具のクルマと木片を使って、事故遊びをしながら2人を凝視していた。

 「わっ…この子なのね…私の弟…!!」

 「か…可愛いな…本当に男か…?
 目がでかいな…」

 そう。

 不本意なことに、我輩は顔立ちから女児によく間違われる。

 ひとえに眼球が大き過ぎるからなのだが、冥府の王であった我輩も、眼球は大きかったので、成長につれ風格を伴うようになるだろう。

 「わが……僕は男だぞ。女に男よ。」

 「えっ!?うわ!!喋れるの!!?
 声高い!可愛い~!!
 私はあなたのお姉ちゃんよ!
 ミレスって言うのよ!よろしくね!」

 「すごいな…俺はジャッジ。
 おまえの兄貴だ。よろしくな。」

 「そうか…母よ。
 僕は奴らをなんと呼べば良いのだ。」

 「「奴らっ…!?」」

 「あらまあ、うふふふ…
 ごめんね。エウレスちゃん、まだ初対面の人とのやり取りに慣れてないのよ。
 エウレスちゃん。お姉ちゃん、お兄ちゃんって呼べば良いのよ。」

 「むぅ…。では、姉に兄だな。」

 「それとね、エウレスちゃん。
 初めましての人には、ちゃんと自己紹介をするのよ。」

 「む…そうだな。」

 前世では、皆が我輩を知っていた。

 自己紹介など、クロノスの胃臓の内でゼウスと出会った時に交わしたぐらいか…

 「我が名はハ…ノバーン・エウレス。
 このノバーン家の末子にして秘蔵っ子である。
 苦しゅうない。」

 仁王立ちをして凄む。

 しかしやはりこの声、この姿では締まらぬな…

 兄も姉も母も、口を開けたまま固まってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...