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第4章:神なんデスッテ

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 光に包まれ、気がつくと雲の中に居た。

 流石にオリュンポス直通ではなかったか。

 だが、問題無い。

 どこかに門があるはずだからだ。

 我輩は周囲を見回す。

 すると、何か気配を感じた。

 「…まさかゼウスが?
 …いや、ありえん。ゼウスならばもっと強大な気配を放つはずだ。」

 慎重に気配の元へ近付いて行くと、そこには見覚えのある老人がいた。

 「石像の老人か…」

 「ひゃあ!?びっくりした!!
 …お前は誰じゃ!!?
 ここが神の庵と知っての訪問か!?」
  
 老人は胸を押さえ、目を見開き、こちらに唾を飛ばしてくる。

 「汚らしい老害め。
 我輩は貴様のような老いぼれが一番好かん。
 …ん?」

 ここで我輩は気がついた。

 声が低い。言葉が出る。

 やはり我輩の魂は、我輩だったのだ!

 「フハハハハ!!」

 「なんじゃお前は!?神に対して信じられん罵詈暴言を浴びせ掛けたかと思えば、急に笑いおってからに!!
 気色の悪い!!」

 「ハハハハ…そうかそうか。
 そうだろうな…我輩はハデス。
 さぞ気色悪く、不穏で不気味でおぞましかろう。
 だが、さらにおぞましきは我が兄ゼウスだ!!
 奴は我輩を殺し、あろうことか人の子の体に宿らせるという呪いをかけた!
 この報いは必ずや受けさせねばならない!!
 さぁ、オリュンポスへの門はどこだ!言わねば容赦無く貴様にも死をもたらそう!!」

 「…お前はキチガイか?
 …はぁ。今わしは祝福を授けるのに忙しい。
 とっとと出て行っておくれ。」

 老害は溜息をつくと足下の池に目を向けた。

 「そういえば貴様神などとのたまっていたな…見せてみろ。」

 「なっ!!これ!!何をする!!?」

 我輩は老害を押し退け池を覗く。

 そこにはあの夫婦と神使、そして祭壇に横たえられた赤子が写されていた。

 「ほう。我輩が縛られた赤子の体か。
 貴様の祝福など不釣り合い。
 あの赤子にはもう用が無いとは言え、この死の支配者たる我輩を有していた体なのだ。
 どれ…」

 我輩は池に手をかざす。

 「待て!!よさんかこのっ…」

 「。」

 「ふぐぅ!?」

 我輩はゼウスがやったように神の言葉を発し、老害を黙らせる。

 老害はジタバタしているが、死の神の束縛を奴程度の若造神が抜け出せる訳がない。

 「我輩の力を…死を司り地下の富を総ずる我が力を…ぬん!!」

 我輩の指先から黒い線が飛び出し、赤子に刺さる。

 おっと、力の種分けなど久しく与えていなかったものだから、少し与えすぎた。

 足がふらついたので力の線を切る。

 「まぁ大丈夫だろう…一時とは言え、我が魂の器となっていた体だ。
 耐えられるに違いない。」

 「……!…!!!」

 おお、忘れていた。

 我輩は老害に一瞥くれると、解言を呟いてやる。

 「
 。」

 「…はぁ!!喋れる!!おい貴様!!
 何をしとるんじゃ!!
 あの赤子は我が領地の子じゃぞ!!
 今すぐ祝福を取り消せ!
 今ならまだ間に合うはずじゃ!!」

 「ふん。祝福など我輩はせん。
 力を分けて植え付けた。最早あの赤子は我輩と言っても過言ではない。
 フハハハ!!我輩の器だったのだ!
 当然だがな!」

 老害は怪訝な顔をした後、池と我輩を交互に見る。

 「あの子が貴様の器じゃと…
 どういうことじゃ!?貴様とあの子は似ても似つかぬ!!
 んん?…待て…待て待て貴様!!
 この世のものでは無いな!!?
 本当になにものじゃ!?」

 「ハッ!!言ったはずだが!?
 我が名はハデス!!
 死を司る冥府の王にして、死すら死させる死の神!!
 そして…忌々しくも全能神・ゼウスが末弟だ!!」

 「ハデス?…ゼウス?…
 聞いたことがない…どこぞの田舎の土地神か?!」

 「なんだと…!?」

 我輩は老害に詰め寄り、苛立ちをぶつける。

 「オリュンポス十二神が二柱、主神ゼウスと冥界神ハデスだぞ!?
 貴様、巫山戯ているのか!!?」

 「はー…もういい。うつけめ。
 わしはもう寝る。
 昨夜は今年の富の分配を決めるので忙しかったのじゃ… 
 とっとと出ていけよ。」

 「どういうことだ…!?
 我輩を知らない…!?
 待て、富の分配だと?
 貴様の名はデメテルか!?」

 「はぁ?何を言っておる?
 わしは富と農業の神・スコル。
 この街の一切を見ておる神じゃ。」

 「なんだと…
 神とは世界を統べる王だぞ!?
 街などというチンケな規模で収まる魂ではない!!」

 「はぁ…それは違うぞ。
 神とは言わば管理者。天界の大いなる流れと人とを繋ぎ、あまねく平穏を保つ管理者じゃ。
 王などでは断じて無いぞ。
 異なる魂よ。」

 「…なんだその異なる魂とは…」

 「はぁ?気づいとらんのか?
 いや気づいとるはずじゃ。
 貴様はこの世界の流れから生まれた魂では無い。
 どこか別の場所から紛れ込んできた哀れな迷い子じゃ。」

 「なんだと…何を…」

 「その証拠に…貴様は死の神と言ったな?」

 「…それがどうした…」

 そこで我輩は耳を疑う言葉を耳にした。

 「この世界には死など無い。
 貴様はこの世界に在るべきでないものなのじゃ。死の神よ。」

 地が揺れた気がしたが、それは我輩が力を分けた時よりも一層大きく足がふらついたからだった。
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