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13.試合の結末

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 研究室の教授に、逸樹は何度も頭を下げた。佑の甲子園での試合を見に、兵庫への旅路に出るためだ。土下座寸前で助教が間に入ってくれ、なんとか予定は確保した。逸樹は白嶺も誘ったのだが、彼は死ぬほど嫌そうにしたから、マンションに置いてきた。
 高校がチャーターしたバスで見に行くという佑の家族に同行させてもらった逸樹だ。選手は車両貸し切りの新幹線移動だという理由を、嫌というほど味わった。
 佑のチームは順調に一回戦、二回戦と勝ち上がった。白熱する試合に逸樹は興奮し、声を上げ、そして試合後に笑顔で応援団に挨拶する佑に満ち足りた気持ちだった。
 だが。
 接戦も接戦だった準決勝。同点のまま迎えた最終回、その裏。相手高校の攻撃で、勝ち越しタイムリーを打たれた。こちら側の応援席から、沢山の悲鳴が上がる。

(え? こんなので、終わり?)

 あれほど頑張っていた佑の夏が、これほど呆気なく終わるはずがない。
 だのに、得点ボードには無情にも勝ち越し点が示されたし、審判は淡々と相手チームの勝利を告げた。
 甲子園の土を持ち帰る球児の姿を見守る側も、悲痛な思いなのだと、逸樹は知った。応援席では、声を上げ泣いている者も居て、この場所の重さを思い知る。

(佑)

 佑にとってはもっと、重いだろう。
 負けチームのキャプテンは、涙も許されない。きっと、悔しさで潰されてしまいそうだろうに。
 甲子園の四強というのは、きっと華々しい結果だ。だが帰りのバスの空気は重かった。しかし、その空気が一掃された瞬間があった。学校のグラウンドでの、佑の、キャプテンとしての最後の挨拶だ。
 泣きもせず、笑いもせず、ただ誇らしげにチームを褒め称え、そしてここまで応援してきた関係者に、深く、長く、礼をした。
 チームメイトからも父兄からも、拍手が鳴り止まない。佑はやり遂げた。やり遂げたのだ。
 晴れ晴れしい雰囲気の中、それでも幼い子供は、納得がいかないようだ。「兄ちゃんが可哀想」と佑の弟が泣き止まないので、佑の家族は先に帰った。
 逸樹は佑を待って、チームメイトと共に出てきた彼に声を掛けた。佑は立ち止まり、チームメイトに「先に帰って欲しい」と告げた。積もる話もあったかもしれないが、それでも、今佑に必要なのはチームメイトではなくて、自分である自信が、逸樹にはある。

「お疲れ。荷物貸せ、疲れてるだろ、持ってやる」
「お気持ちだけいただきます。逸樹さんこそ疲れてるでしょう、バスだったから」
「まあ、身体バキバキだ」

 大袈裟に肩を回して見せた逸樹に、二人、笑い合う。

「折角見に来てくれたのに、格好いいとこ見せられなくてすいません」

 きっと落ち込んでいるだろうに、佑がそんな様子も見せようとしないのが、歯がゆい。だからこそ、逸樹は彼を呼び止めたのだけど。

「佑」
「はい」
「肩、貸してやる」

 目を見開いた佑の頭を引き寄せて、逸樹は自分の肩に押し付けた。少し重い。だがそれを受け止めたいのだ。

「い、逸樹さん」
「こうしてれば馬鹿なカップルがいちゃついてるように見えるだろ。泣いていいんだぜ」

 そうして頭を撫でてやると、しばらくして、堪えたような嗚咽。井上佑ですら、こうして泣くのだ。彼の泣ける場所になっていた自分が誇らしくて、逸樹はずっと佑の頭を撫で続けた。

「……悔しかった、です」
「うん」
「優勝できる、チームだったのに」
「うん」
「俺が采配ミスって、打たれました。皆に顔向けできない」

 最後に敵打者に打たれたことを、佑はきっと、一生後悔するのだろう。甲子園の球児とはそういうものだと、逸樹は本で読んだ。そんな風になって欲しくなかったから、優勝して欲しかった。でも、叶わないこともあるし、背負わなくても良いものを背負うのが、きっと、人間だ。

「全部自分の所為にするな。チームで戦ってるんだから。お前の所為じゃないよ」
「……逸樹さんにいいところ見せたかった」
「……格好よかったよ」
「俺に、惚れてくれますか」

 言葉の代わりに、抱き締めた。肩が濡れていくのを黙って感じながら、逸樹は佑の耳にキスをした。
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