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学生時代を、田舎町で
8.居場所のない子供
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居場所がないという言葉の意味を、俺は最近、肌がひりひりするほど感じている。
クソババアがスナックを閉じて、このあたりの名産である果実の加工場でパートを始めたからだ。
「孝さんと一緒にいたいじゃない?」
そう言って昼間の仕事をしだしたあの女は、俺が家に帰るころには先に居て「智君おかえり」と言うようになった。
クソマズイ飯が冷蔵庫からではなく、温かいままに出てくるようになった。
「紫陽子ちゃん、いつもありがとう」
そうして穏やかな笑顔で飯を食べる『義理のチチオヤ』が気持ち悪い。
三人で食べる夕飯が嫌で、俺は、ちょうど付き合っていた女の子の家に逃げ込んだ。本当は早音の家に行きたかったけど、早音の『本当に優しいチチオヤ』を前にしたら俺は嫉妬で頭がおかしくなる気がした。
温かい家庭、というのに憧れた。
でも俺には、どうあっても手に入らないものらしい。
彼女の家に毎日逃げ込んでいたら、彼女の家族から迷惑な顔をされた。
仕方なく、彼女とは別れて、俺に気のある女の子の家を、順繰りに回り出した。これなら毎日で迷惑、ということはないだろう。
だが、どうしても誰の都合の付かない日、というものはある。
仕方なく、三週間ぶりくらいに家に帰ると「あら、智君おかえり」と、今まで俺が帰宅しなかったことに気付いてもいないような言葉が飛んできた。
傷つかなかったかと言うと、嘘になる。
だが、その後がもっとひどかったから、俺は、もう傷つくのさえ諦めた。
「あのね、私、妊娠したのよ。孝さんの子供。きっと可愛いわ──祝福してね、智君」
まだ俺が家に居た頃、部屋に籠もった後、ババアが気色悪い声を上げていたのは、知っている。イヤフォンをして、たいして興味もない音楽を聴いて、聞かないふりをしていたが。
だが、もう知らないふりをできなくなった。
俺はトイレで少し吐いて、それから家を出た。
その晩はどこで寝て過ごしたか、覚えていない。
何もかもが嫌だった。
中学校になって、他人に認められて、俺は変わったはずだった。
だというのに。
相変わらずこの世界には、俺の居場所が何処にもない。
クソババアがスナックを閉じて、このあたりの名産である果実の加工場でパートを始めたからだ。
「孝さんと一緒にいたいじゃない?」
そう言って昼間の仕事をしだしたあの女は、俺が家に帰るころには先に居て「智君おかえり」と言うようになった。
クソマズイ飯が冷蔵庫からではなく、温かいままに出てくるようになった。
「紫陽子ちゃん、いつもありがとう」
そうして穏やかな笑顔で飯を食べる『義理のチチオヤ』が気持ち悪い。
三人で食べる夕飯が嫌で、俺は、ちょうど付き合っていた女の子の家に逃げ込んだ。本当は早音の家に行きたかったけど、早音の『本当に優しいチチオヤ』を前にしたら俺は嫉妬で頭がおかしくなる気がした。
温かい家庭、というのに憧れた。
でも俺には、どうあっても手に入らないものらしい。
彼女の家に毎日逃げ込んでいたら、彼女の家族から迷惑な顔をされた。
仕方なく、彼女とは別れて、俺に気のある女の子の家を、順繰りに回り出した。これなら毎日で迷惑、ということはないだろう。
だが、どうしても誰の都合の付かない日、というものはある。
仕方なく、三週間ぶりくらいに家に帰ると「あら、智君おかえり」と、今まで俺が帰宅しなかったことに気付いてもいないような言葉が飛んできた。
傷つかなかったかと言うと、嘘になる。
だが、その後がもっとひどかったから、俺は、もう傷つくのさえ諦めた。
「あのね、私、妊娠したのよ。孝さんの子供。きっと可愛いわ──祝福してね、智君」
まだ俺が家に居た頃、部屋に籠もった後、ババアが気色悪い声を上げていたのは、知っている。イヤフォンをして、たいして興味もない音楽を聴いて、聞かないふりをしていたが。
だが、もう知らないふりをできなくなった。
俺はトイレで少し吐いて、それから家を出た。
その晩はどこで寝て過ごしたか、覚えていない。
何もかもが嫌だった。
中学校になって、他人に認められて、俺は変わったはずだった。
だというのに。
相変わらずこの世界には、俺の居場所が何処にもない。
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