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[2話] 俺は幼馴染と過ごす日常が好きだ

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 エレナは俺の手を掴んでそれを奪う。
 一瞬だけ見えたエレナの顔は、沸騰しそうなくらいに赤かった。
 ああそう言えば、おもちゃの宝石をエレナにあげたことがあったな。
 なんでまだ持っているのだろう、と疑問に思いながらエレナに追いついて隣を歩く。

「……お守りなんだ。だから失くしたくなかったの」
「そっか。失くしても俺が見つけてやる」
「……えへへ、ありがとう」

 嬉しそうに笑うエレナを見ていると、俺も嬉しくなる。
 俺も人のことを言えないくらいに、お節介なのかもしれない。


 ◆◇◆


 俺は学校に通っているため、朝起きたら学校に向かわねばならない。
 朝食を食べ終えたらすぐに家を出る。
 家の前で俺は空を見上げた。雲を探してもどこにもありゃしない。

「立ったまま寝てるでしょ?」

 俺を覗き込むようにしてエレナが後ろからやってきた。
 後ろというのは1つ隣の家である。
 俺とエレナの家はお隣さんだ。親同士仲が良いのもあって、物心ついた時から一緒に過ごしている。

「誰かさんが遅いからあくびがでそうだったんだ」
「テオが早いだけだよ」

 悪口を言ったのに、エレナは嬉しそうに笑いながら学校へ向かって歩き出す。俺も隣を歩く。
 この町に学校は1つしかない。だから必然と同じ場所へ向かうことになる。
 学校は上・中・下の3つのクラスに分かれている。
 7歳から12歳までの下クラス、13歳から15歳までの中クラス、16歳から18歳までの上クラス。
 町の規模が小さいのもあって、1クラスの人数は両手で数えられるかギリギリの人数だ。
 1人1人に合わせて先生は寄り添って教えてくれている。
 俺は17歳なので、もうすぐ卒業して本格的に商店を継ぐだろう。
 だけどエレナはどうするのか、視線を向けると何故か目があった。

「前見ないと転ぶぞ?」
「て、テオこそ、よそ見してると飛んでっちゃうよ?」
「俺は紙切れじゃないんだがな」

 外されない視線に疑問を抱いていると悪口を言われたので、俺は素直に前を向く。
 まあなんだかんだエレナなら大丈夫だろう。世渡り上手というのか、器用なところもあるからな。
 学校にはすぐに着いた。なんせ小さい町だからな。
 他の生徒は大体ギリギリに来る。俺たちはいつも1番乗りだ。
 綺麗とは言えない教室に入って、席に向かう。

「あっ、」
「ん? どうした……」

 エレナの声に反射で振り向いてしまって、俺は呆気にとられた。

「振り向かないで……っ」

 エレナのスカートが柱の凹んでいる部分に引っかかっていた。
 木造でよく開け閉めする入り口は何度も修復されているが、また修復せなばならないだろう。
 まあ要するに、スカートの下が見えているわけであって。
 同時に引っかかるスカートを取ろうとするエレナの手に傷が出来てしまっているのも見えたわけで。
 目のやり場に困るのも事実なので、俺は素早くスカートに手を伸ばす。

「ごめん。痛くないか?」
「……かすり傷だよ」
「ほら座れ」

 俺はスカートを直してエレナの傷を心配したが、エレナは手を後ろに隠してしまった。
 かすり傷とは言え手当はするべきだと、俺は先に席に座ってエレナを呼ぶ。
 恥ずかしそうに俺の後ろの自分の席に座ると手を机に置いた。ちなみに本来の俺の席はエレナの左隣だ。手当するあいだだけこの席を拝借させてもらう。
 鞄から救急セットを取り出してエレナの手を見る。確かにかすり傷ではあるが、なんか嫌だ。

「ふふっ、許してあげる」
「不可抗力なのにな」

 手当に集中している俺はなんでエレナの機嫌がいいのか分からなかったが、エレナが嬉しそうならなんでもいいや。
 手当を終えて、他愛無い会話をしていれば、生徒が集まりだして、授業が始まる。
 最初の授業ではこの前のテストの返却が行われた。
 教壇へ行って受け取ったテストはいつもの満点。俺にとっては当たり前のことだ。
 自分の席に座って前を見ると絶望した顔でテストを眺めながら帰って来るエレナがいた。これもいつものことだ。
 あとで甘いものでも買ってやるか、なんて思いながら俺は授業を受ける。

 授業は午前で終わり、学校に残る理由もないので鞄を持って席を立つ。
 だが、隣の席で落ち込んでいるエレナを置いては行けない。
 俺は隣に立ってエレナを見る。なんだか泣きそうだと思って、俺はエレナの頭を撫でた。
 俺の手に驚いたエレナは不思議そうに俺を見上げてくる。

「どこが分からなかったんだ?」
「うーん、半分くらい……分からないかなぁ」
「そっか」

 俺は自分の席に座り直してエレナと席をくっつけた。

「テオ? 帰らないの?」

 教科書とノートを広げてエレナを見る。

「置いて帰ったら、誰かさんが悲しむだろ」
「……テオはなんでも知ってるなぁ」
「天才らしいからな?」
「自覚ないところがずるいなぁ」

 口をとがらせながらもエレナはノートを広げた。

「全部覚えたら、好きな菓子買ってやる」
「えへへっ、頑張る理由ができたっ」

 エレナを本気にさせるくらい朝飯前だ。だって俺はエレナの幼馴染なのだから。

 30分ほど居残りして、俺はエレナのご褒美を買いに連れまわされている。
 いや確かに好きな菓子を買うとは言ったが、何個も買っていいとは言ってない。
 まあエレナが本気で頑張ったので、気が済むまで買ってやるんだが。
 この町にはパン屋がある。そこの甘いパンがエレナのお気に入りだ。
 俺は甘いものが苦手なのだが、甘いパンを選ぶエレナを見るのは好きだったりする。
 トレーにもう乗らないくらいになるまで選んでいて、パンを眺めながらエレナが選び終わるのを待つ。

「テオ、選び終わっ」
「っ!」

 エレナが嬉しそうにパンを見せながら俺に駆けてくる。勢いがよすぎて転びそうになったエレナを支えてトレーを受け取った。
 よかった、パンは無事のようだ。
 俺の胸に収まるようにして固まっているエレナの肩を叩いてみるが反応がない。どこか痛めたのだろうか。

「エレナ、会計に行けないんだが」
「……ぁ、ごめん、ついぼーっとしちゃってた……」
「頭使いすぎて疲れたんだろ。パン買って来るから家に帰ったら食べろよ」
「……うん、テオが買ってくれたから食べるよ」

 少しだけ顔が赤い気がすると思って、トレーを持っていない方の手でエレナの額を触る。
 ビクリ、とエレナが揺れて驚かせてしまったことを謝ろうと手を離す。

「急にすまない、熱はないみたい……」

 熱はないはずなのに、エレナの顔はどんどん赤くなっていく。
 なんだか今日のエレナは様子がおかしい。

「買ってくるから、外の風でもあたってろ」
「……うん」

 逃げるように小走りで店を出たエレナを見送ってから、俺はパンを購入する。エレナの好きなパンランキングの10位以内に入っているパンしかないな。食べ過ぎてお腹壊さなきゃいいけど。
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