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三千世界・黄金(12)

第三話「加速する新世界」

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 パラミナ 九州道
 次元が統合されている影響で砂漠に露出した高速道路、そこへファブリングが叩きつけられる。血の雨が届く前に彼は高速で飛び立ち、道路に着地したエミリア、オヴェリア、エルキュールと向かい合う。
「お姉さま、良かったのですか?特異点を止めなくても」
 オヴェリアが構え、エミリアもマチェーテを抜きつつ答える。
「ハードウェアマスターの実行命令は確認しただろう。それだけのことだ」
 エルキュールも並ぶ。
「おんしのために、全てを捧げよう」
 エミリアは僅かな笑みで返す。
「勝手にすれば。私たちはニヒロのために……特異点を助ける」
 ファブリングが咆哮しライトグリーンの翼がコバルト混じりになり、装甲が細かく変化する。バレルロールを行いつつ翼から光線を出鱈目に放ち、エミリアが血の雨を放って光線を打ち消し、オヴェリアが真正面から突進を受け止める。更にその背後よりエルキュールの放つ光線がファブリングの肩に直撃し、オヴェリアが押し切って吹き飛ばす。そこへ血の雨が再び注ぎ、強力な棘となったそれが彼の表皮を刺し貫く。が、ファブリングは瞬時に制御を取り戻して飛び立ち、翼から強烈な風の塊を叩きつける。続けて光の塊を天空へ打ち上げ、それが弾けて隕石のごとく降り注いでくる。
「お姉さま!」
「わかってる!」
 エミリアはオヴェリアの進路に注ぐ光の破片を破壊し、オヴェリアはそのまま空を蹴ってファブリングへ突撃する。横槍として来た風の塊はエルキュールが割って入って打ち消し、最接近したオヴェリアが強烈な縦回転をかけつつ展開した刃を振り下ろす。先ほどエルキュールの攻撃で破損した肩口目掛けて振り下ろされた刃は、見事同じ場所へ入り、深く抉る。が、ファブリングはそれを待っていたと言わんばかりに傷を癒して刃を意図的にめり込ませ、超至近距離で口から吐き出した暴風でオヴェリアを道路へ叩きつける。衝撃でデバイスは外れており、刃は展開されたままファブリングの肩に刺さっていた。
「オヴェリア……!」
 エミリアが駆け寄る。間近に強烈な一撃を被弾したゆえか、オヴェリアは大きく損傷しており、踏ん張って片膝で立つ。
「大丈夫ですわ、お姉さま。紛い物の王龍に遅れを取るなんて、思いませんでしたけれど」
 二人がそれぞれに気を取られていると、押し負けたエルキュールも道路へ落下する。彼はすぐさま己で立て直すが、そこへファブリングが再び光の塊を弾けさせる。
「くっ……!」
 エミリアが血の雨の準備をするが、注ぐ光の速度に間に合わない。察したオヴェリアが、ファブリングの直下が安全地帯だと見抜き、立ち上がってエミリアを放り投げる。
「オヴェリア!?」
 驚きを声に出す。微笑みを返したオヴェリアは、殆ど猶予なく光に飲まれて消える。瞬時にエミリアの移動を察知したファブリングが急降下し、エミリアが飛び退き、エルキュールが続く。ファブリングが接地寸前で風圧を起こし高度を保つと、強烈な突風が発生する。
「エミリア」
「わかってる」
「ここはおんしに全てを託す」
「……?」
 突進してくるファブリングを、一角獣を差し向けて拮抗させ、彼の纏う力の奔流を槍で貫き通し、デバイスを取り返す。そして渾身の力でファブリングを押し返し、自身は後退する。
「エミリア、私はおんしと出会えてよかったと思っているぞ。王龍であろうと、アイスヴァルバロイドであろうと、別れは寂しく感じるものだ」
 エミリアは手渡されたデバイスを左腕に装着する。
「頼むぞ、特異点のために、君自身のために」
 エルキュールは消え去り、シフルとなってエミリアに吸収される。
「馬鹿が。死んだら何にもならんだろうが」
 エミリアはデバイスから刃を展開し、ファブリングと向かい合う。ファブリングは光の塊を打ち上げ、風の塊を飛ばす。翼から光線を撒き散らしながらバレルロールをかまし、そのまま突進する。エミリアは全身から血液を沸き立たせ、血で象った鳳凰となる。羽ばたきで血の波濤を起こし、それを竜巻へ変えてぶつける。ファブリングは難なくそれを打ち消し、大量の光線を伴って再び突進する。
 エミリアは飛び上がり、血の雨を伴って突進する。光線と雨が激突して相殺し、ファブリングは凄まじい力の渦を帯び、エミリアは己の姿を巨大な槍へ変えて突っ込む。両者が衝突した瞬間、エミリアが押し勝ち、突き刺さり、そのまま道路まで降下する。地表への激突と共に、ファブリングを完全に貫徹し、力を失った彼はシフルの粒子へ変わる。
 元の姿に戻ったエミリアが道路へ投げ出され、ふらつきつつも立ち上がる。
「……」
 疲弊したエミリアだったが、サハスララから飛来する小型竜の群れを見て、意を決する。再び血の鳳凰となり、飛び立つ。
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