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三千世界・黄金(12)

第二話「揺れ動く新世界」

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 ニブルヘイム 熱間欠泉広場
「うく……くくくっ……!」
 顎の棘による強烈な一撃をギリギリで防ぎ、ストレンジは必死に堪える。周囲に漂う毒性の強い煙が、彼の体の感覚を麻痺させていく。ユニマギカは力強く振りかぶってストレンジを突き飛ばし、両翼から放たれた電撃が彼の足許に纏わりつき、鈍ったところを浅くダイブしてきたユニマギカの右手に鷲掴まれる。
 当然手加減など無い膂力によってストレンジの纏うインベードアーマーは粉々になり、その上から超絶的な威力の電撃が焼き尽くしにかかる。
「げぐぁッ!?」
 そして地面に叩きつけられ、止めとばかりに棘の一閃をまともに受け、消し飛ぶ。ユニマギカは勝ち誇って咆哮し、近場に感じた気配の方へ振り向く。硫煙の向こうに居るのは、ひし形のパネルで覆われたスマートな竜人……つまり、アルメール・フランメルだった。
「ほんと同僚ながら感心するよ、彼のアドバンテージの稼ぎ方は。よっぽど冷酷なのか、忠誠心がイカれてるのか……君はどっちだと思う、隷王龍ユニマギカ?」
 ユニマギカは猛る。全身に紫雷を滾らせ、持てる殺意の全てをアルメールへ向ける。
「ズルして乱入しようとしてきたウルヌは潰したし、その手先も特異点たちと君が消してくれた……こうも上手く行くと、逆に俺たちが嵌められてるんじゃないか、って思うよな、普通」
 紫雷を棘へ集中させて突っ込んでくるのを、上空より放った怒涛の炎剣で阻む。
「君たちって随分とお笑い草だよな。本体は未だに紛い物の蜥蜴の癖に、そこから生まれた隷王龍は、正真正銘の王龍だ。嘘から出た真……これほど似合う言葉もないな」
 炎剣が炸裂し、ユニマギカは咄嗟に翼で防御しつつ少しだけ後退し、爆炎を貫いて瞬時にアルメールの眼前に現れる。恐ろしいほどの電撃が棘に蓄えられ、刀のように振るわれる。アルメールはそれを読んで、無駄に豪快な振りから炎剣を高速回転させて放ち、棘と競り合う。更に彼は右腕に爆炎を携え、大きく体を捻って薙ぎ払い、ユニマギカの腹を焼く。そのまま爆炎を握り潰して爆裂させ、炎の楔をいくつも飛ばす。炎剣が砕かれ、ユニマギカが反撃に左腕で薙ぐが、アルメールは彼の後方に瞬間移動して楔を飛ばし、即座の振り向きに合わせてまた背後を取って楔を放つ。ユニマギカは翼から紫雷を放って急上昇して楔を躱し、文字通りの瞬間移動で急降下しアルメールを狙う。しかし当然、そこまでの直線的な攻めでは当たるはずもなく瞬間移動で躱される。後退したアルメールは軽い振りで地面を走る紅蓮を起こし、ユニマギカは躊躇なしに飛んで回避する。
「おいおい……戦闘中に思考停止とはなぁ……」
 アルメールは敢えて追撃せず、元々次撃のため空中に配置していた炎剣を動かす。飛び上がったユニマギカが自ら突っ込んで誘爆し、炎の四翼を生やしたアルメールが同じ高度へ飛ぶ。
「じゃあね」
 鋭い切り込みで右手を捩じ込み、ユニマギカの首を掴む。そのまま地面へ叩きつけ、掲げて真炎を滾らせ、トドメに手放しつつ蹴り薙ぎで切り裂く。胸元に大きな切創が形成されたユニマギカは激昂し、紫雷で出来た翼を六枚生やし、顎の棘が二本に分離する。
 ユニマギカは大きく翻り、棘で地面を捲り上げながら突撃する。速度の遅い見え見えの大技を、アルメールは余裕を持って左へ躱す。振り上げられた棘から電撃の刃が走り、前方の細長い範囲を焼く。間髪入れずに紫雷の翼を振り抜いて電撃を飛ばし、そして浅く跳び跳ねて衝撃波を起こす。アルメールは瞬間移動でそのどちらをも躱すが、接近を察したユニマギカが左腕を振る。案の定現れたアルメールにジャストミートし、しかしギリギリ右腕で凌がれる。
「いいねえ、流石に読んでくるか」
 アルメールは追撃を瞬間移動で後退することで避け、頭部から熱線を放つ。とんでもない弾速のそれをユニマギカは躱せずに直撃する。更に楔を重ね、頭上から炎剣を注がせる。背後を取った瞬間移動から同じ攻撃のセットを行い、瞬間的に肉薄して即座に後退し、飛び上がってからの全身を使った螺旋状の蹴りを眼前まで振って遠退き、着地してすぐ右腕を振り抜くことで真炎を立ち上らせ、蹴りに安易に反応したユニマギカを逃がさず焼く。すぐさまユニマギカは真炎を振り払い、力んでから一回転し、電撃の球体を撒き散らす。更に小さく跳び跳ねて衝撃波を起こし、浅く飛び込んで強烈に薙ぎ、トドメに尻尾を振り抜く。球体が機雷のような機能を果たし、アルメールの待避を妨害する。彼は衝撃波を火炎を当てて相殺させ、消えてその場で現れることで薙ぎ払いを避け、鎌状の炎を振り上げて尻尾を切断する。
 さしものユニマギカでさえ怯み、千切れた瞬間に切断面から凄まじい紫雷が迸り、追撃を妨害しつつ立て直す。
「なるほどねえ。体構造は本当に王龍そのもの、恣意性を持ったシフルエネルギーで満タンってワケだ。じゃ、この話を君への土産にするよ」
 アルメールは炎の翼を二枚生やして六枚羽となり、全身のパネルが波打ち、繋ぎ目から炎が溢れ出す。
「行くぜ」
 爆炎を走らせ、楔を放ち、熱線を放つ。更にいくつもの炎剣を高速回転させて飛ばし、ユニマギカはそれへの対処を拒否して距離を詰め、棘を突き立てて猛進する。アルメールも同じように向かい、右腕に蓄えた爆炎を握り潰しながら振り抜く。速度を強引に落とさせたところに左蹴り薙ぎで棘を折り取り、右踵蹴り上げでかち上げ、無数の熱線を全身から飛ばす。連続して被弾しているところへ、出力を極限まで跳ね上げた極大の熱線を叩き込み、ユニマギカは大爆発を起こす。燃え滓と共に未だ原型を保つユニマギカが落下してくる。
 翼を消したアルメールがゆっくりと歩み寄る。
「サヨウナラ」
 ユニマギカの頭を踏み潰し、走った炎で彼の全身が焼き尽くされる。程なくしてシフルの粒子へと還り、天へ昇っていった。
「一つの時代の終わり……って言うと、少しクサい台詞な気がするな。さて、一足先に帰らせてもらうよ、アレクセイ」
 炎剣で空間を切り裂き、彼は次元門へと去っていった。
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