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三千世界・黄金(12)

五章「最後の仇敵」(通常版)

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 超複合新界 サハスララ
 現れたそれは、右手を掲げ、人差し指で天を指す。
「我、真滅王龍ヴァナ・ファキナなり!今ここに、復活せん!」
 右手を戻し、両腕を開いて凄まじい力の波動を起こす。天が狂い、次元門が世界に流れ込む。彼の下に四体の隷王龍が現れ、更に次元門の彼方から竜たちが続々と突貫してくる。
「では、手筈通り頼むぞ」
 アレクセイがそう言うと、ロータが紫の隷王龍ボルドスクラブを鎖で、アリアが赤の隷王龍フレノアを触手で引き剥がし、それぞれの陣営に分かれてサハスララの頂上から離脱する。更に白の隷王龍ファブリングが突如乱入してきたエルキュールによって引き剥がされ、アレクセイの手元から放った弾丸からストレンジが解放され、それを捕捉した黒の隷王龍ユニマギカが彼らへ攻撃を仕掛けて飛び去る。
 残ったレメディ、明人、アレクセイがヴァナ・ファキナと相対する。
「長かったものだ……貴様に謀られ、瀕死のまま彷徨っていたが……遂に我が手ずから貴様を贄にする時が来たのだ、明人!」
 ヴァナ・ファキナから意識を向けられた明人は顔をしかめる。
「それはお前が同意の上で俺と融合してただけだろ。人の記憶喰ってた癖に肝心なところで役立たずだったじゃねえか!」
「まあよい。我は今気分がいい。貴様の戯れ言も、ただの遺言として聞き流してやろう」
 胸の前で両手を互い違いに構え、その狭間に凄まじいほどのエネルギーを蓄える。
「礼は言わぬぞアレクセイ。この世界、特異点、空の器諸とも、我が血肉となれ!」
 両手を合わせてエネルギーを放つ。極大の光線が放たれるが、アレクセイは冷静に竜化し、物々しい鎧と、骨の蛇のようなパーツが付属した姿になる。右手に巨大な槍のような得物を構え、その先端から光線を放つ。二つの光線が激突し合い、ヴァナ・ファキナは見境なく力を追加し続ける。程なくして相殺し、ヴァナ・ファキナは間髪入れずに拳を交互にサハスララへ叩きつけて衝撃波を起こす。明人が竜化して、同じだけの衝撃を与えて相殺する。更にその影からアレクセイが光線を放ち、しかし左手に阻まれ、既に竜化していた閃剣が急降下からの斬撃を頭部に加える。軽くしゃくり上げられるだけで閃剣は弾かれ、サハスララへ着地する。
「愚かな。その程度の力で我を破ることなど出来はせんわ!」
 吠え猛る巨竜を前に、三人は構え直す。
「相も変わらずはた迷惑な野郎だな、こいつ」
「汝が一度は欲した力だろう、何を今さら言っている」
「何をどうしたって、ここへ来て退く選択肢なんてありえないでしょう」
 ヴァナ・ファキナが力み、莫大な威力の籠ったビームを口から吐き出し、下から上へ薙ぎ払う。
「チッ……!」
 無謬《竜化した明人》が最大出力で衝撃波を放ち、ビームの威力を殺す。それでもサハスララは一瞬にして崩壊し、空の崩落が加速する。三人は崩れ去ったサハスララの代わりに、各々の闘気やシフルエネルギーを足場にする。
「アルヴァナが血眼になって探していた特異点とやらがこの程度とは聞いて呆れるぞ。我が新世界の理を産み出すのも時間の問題だな!」
 両腕を剣に変形させ、やたらめったらに振り回す。

 ――……――……――
 ニブルヘイム 熱間欠泉広場
「うく……くくくっ……!」
 顎の棘による強烈な一撃をギリギリで防ぎ、ストレンジは必死に堪える。周囲に漂う毒性の強い煙が、彼の体の感覚を麻痺させていく。ユニマギカは力強く振りかぶってストレンジを突き飛ばし、両翼から放たれた電撃が彼の足許に纏わりつき、鈍ったところを浅くダイブしてきたユニマギカの右手に鷲掴まれる。
 当然手加減など無い膂力によってストレンジの纏うインベードアーマーは粉々になり、その上から超絶的な威力の電撃が焼き尽くしにかかる。
「げぐぁッ!?」
 そして地面に叩きつけられ、止めとばかりに棘の一閃をまともに受け、消し飛ぶ。ユニマギカは勝ち誇って咆哮し、近場に感じた気配の方へ振り向く。硫煙の向こうに居るのは、ひし形のパネルで覆われたスマートな竜人……つまり、アルメール・フランメルだった。
「ほんと同僚ながら感心するよ、彼のアドバンテージの稼ぎ方は。よっぽど冷酷なのか、忠誠心がイカれてるのか……君はどっちだと思う、隷王龍ユニマギカ?」
 ユニマギカは猛る。全身に紫雷を滾らせ、持てる殺意の全てをアルメールへ向ける。
「ズルして乱入しようとしてきたウルヌは潰したし、その手先も特異点たちと君が消してくれた……こうも上手く行くと、逆に俺たちが嵌められてるんじゃないか、って思うよな、普通」
 紫雷を棘へ集中させて突っ込んでくるのを、上空より放った怒涛の炎剣で阻む。
「君たちって随分とお笑い草だよな。本体は未だに紛い物の蜥蜴の癖に、そこから生まれた隷王龍は、正真正銘の王龍だ。嘘から出た真……これほど似合う言葉もないな」
 炎剣が炸裂し、ユニマギカは咄嗟に翼で防御しつつ少しだけ後退し、爆炎を貫いて瞬時にアルメールの眼前に現れる。恐ろしいほどの電撃が棘に蓄えられ、刀のように振るわれる。アルメールはそれを読んで、無駄に豪快な振りから炎剣を高速回転させて放ち、棘と競り合う。更に彼は右腕に爆炎を携え、大きく体を捻って薙ぎ払い、ユニマギカの腹を焼く。そのまま爆炎を握り潰して爆裂させ、炎の楔をいくつも飛ばす。炎剣が砕かれ、ユニマギカが反撃に左腕で薙ぐが、アルメールは彼の後方に瞬間移動して楔を飛ばし、即座の振り向きに合わせてまた背後を取って楔を放つ。ユニマギカは翼から紫雷を放って急上昇して楔を躱し、文字通りの瞬間移動で急降下しアルメールを狙う。しかし当然、そこまでの直線的な攻めでは当たるはずもなく瞬間移動で躱される。後退したアルメールは軽い振りで地面を走る紅蓮を起こし、ユニマギカは躊躇なしに飛んで回避する。
「おいおい……戦闘中に思考停止とはなぁ……」
 アルメールは敢えて追撃せず、元々次撃のため空中に配置していた炎剣を動かす。飛び上がったユニマギカが自ら突っ込んで誘爆し、炎の四翼を生やしたアルメールが同じ高度へ飛ぶ。
「じゃあね」
 鋭い切り込みで右手を捩じ込み、ユニマギカの首を掴む。そのまま地面へ叩きつけ、掲げて真炎を滾らせ、トドメに手放しつつ蹴り薙ぎで切り裂く。胸元に大きな切創が形成されたユニマギカは激昂し、紫雷で出来た翼を六枚生やし、顎の棘が二本に分離する。
 ユニマギカは大きく翻り、棘で地面を捲り上げながら突撃する。速度の遅い見え見えの大技を、アルメールは余裕を持って左へ躱す。振り上げられた棘から電撃の刃が走り、前方の細長い範囲を焼く。間髪入れずに紫雷の翼を振り抜いて電撃を飛ばし、そして浅く跳び跳ねて衝撃波を起こす。アルメールは瞬間移動でそのどちらをも躱すが、接近を察したユニマギカが左腕を振る。案の定現れたアルメールにジャストミートし、しかしギリギリ右腕で凌がれる。
「いいねえ、流石に読んでくるか」
 アルメールは追撃を瞬間移動で後退することで避け、頭部から熱線を放つ。とんでもない弾速のそれをユニマギカは躱せずに直撃する。更に楔を重ね、頭上から炎剣を注がせる。背後を取った瞬間移動から同じ攻撃のセットを行い、瞬間的に肉薄して即座に後退し、飛び上がってからの全身を使った螺旋状の蹴りを眼前まで振って遠退き、着地してすぐ右腕を振り抜くことで真炎を立ち上らせ、蹴りに安易に反応したユニマギカを逃がさず焼く。すぐさまユニマギカは真炎を振り払い、力んでから一回転し、電撃の球体を撒き散らす。更に小さく跳び跳ねて衝撃波を起こし、浅く飛び込んで強烈に薙ぎ、トドメに尻尾を振り抜く。球体が機雷のような機能を果たし、アルメールの待避を妨害する。彼は衝撃波を火炎を当てて相殺させ、消えてその場で現れることで薙ぎ払いを避け、鎌状の炎を振り上げて尻尾を切断する。
 さしものユニマギカでさえ怯み、千切れた瞬間に切断面から凄まじい紫雷が迸り、追撃を妨害しつつ立て直す。
「なるほどねえ。体構造は本当に王龍そのもの、恣意性を持ったシフルエネルギーで満タンってワケだ。じゃ、この話を君への土産にするよ」
 アルメールは炎の翼を二枚生やして六枚羽となり、全身のパネルが波打ち、繋ぎ目から炎が溢れ出す。
「行くぜ」
 爆炎を走らせ、楔を放ち、熱線を放つ。更にいくつもの炎剣を高速回転させて飛ばし、ユニマギカはそれへの対処を拒否して距離を詰め、棘を突き立てて猛進する。アルメールも同じように向かい、右腕に蓄えた爆炎を握り潰しながら振り抜く。速度を強引に落とさせたところに左蹴り薙ぎで棘を折り取り、右踵蹴り上げでかち上げ、無数の熱線を全身から飛ばす。連続して被弾しているところへ、出力を極限まで跳ね上げた極大の熱線を叩き込み、ユニマギカは大爆発を起こす。燃え滓と共に未だ原型を保つユニマギカが落下してくる。
 翼を消したアルメールがゆっくりと歩み寄る。
「サヨウナラ」
 ユニマギカの頭を踏み潰し、走った炎で彼の全身が焼き尽くされる。程なくしてシフルの粒子へと還り、天へ昇っていった。
「一つの時代の終わり……って言うと、少しクサい台詞な気がするな。さて、一足先に帰らせてもらうよ、アレクセイ」
 炎剣で空間を切り裂き、彼は次元門へと去っていった。
 ――……――……――
 パラミナ 九州道
 次元が統合されている影響で砂漠に露出した高速道路、そこへファブリングが叩きつけられる。血の雨が届く前に彼は高速で飛び立ち、道路に着地したエミリア、オヴェリア、エルキュールと向かい合う。
「お姉さま、良かったのですか?特異点を止めなくても」
 オヴェリアが構え、エミリアもマチェーテを抜きつつ答える。
「ハードウェアマスターの実行命令は確認しただろう。それだけのことだ」
 エルキュールも並ぶ。
「おんしのために、全てを捧げよう」
 エミリアは僅かな笑みで返す。
「勝手にすれば。私たちはニヒロのために……特異点を助ける」
 ファブリングが咆哮しライトグリーンの翼がコバルト混じりになり、装甲が細かく変化する。バレルロールを行いつつ翼から光線を出鱈目に放ち、エミリアが血の雨を放って光線を打ち消し、オヴェリアが真正面から突進を受け止める。更にその背後よりエルキュールの放つ光線がファブリングの肩に直撃し、オヴェリアが押し切って吹き飛ばす。そこへ血の雨が再び注ぎ、強力な棘となったそれが彼の表皮を刺し貫く。が、ファブリングは瞬時に制御を取り戻して飛び立ち、翼から強烈な風の塊を叩きつける。続けて光の塊を天空へ打ち上げ、それが弾けて隕石のごとく降り注いでくる。
「お姉さま!」
「わかってる!」
 エミリアはオヴェリアの進路に注ぐ光の破片を破壊し、オヴェリアはそのまま空を蹴ってファブリングへ突撃する。横槍として来た風の塊はエルキュールが割って入って打ち消し、最接近したオヴェリアが強烈な縦回転をかけつつ展開した刃を振り下ろす。先ほどエルキュールの攻撃で破損した肩口目掛けて振り下ろされた刃は、見事同じ場所へ入り、深く抉る。が、ファブリングはそれを待っていたと言わんばかりに傷を癒して刃を意図的にめり込ませ、超至近距離で口から吐き出した暴風でオヴェリアを道路へ叩きつける。衝撃でデバイスは外れており、刃は展開されたままファブリングの肩に刺さっていた。
「オヴェリア……!」
 エミリアが駆け寄る。間近に強烈な一撃を被弾したゆえか、オヴェリアは大きく損傷しており、踏ん張って片膝で立つ。
「大丈夫ですわ、お姉さま。紛い物の王龍に遅れを取るなんて、思いませんでしたけれど」
 二人がそれぞれに気を取られていると、押し負けたエルキュールも道路へ落下する。彼はすぐさま己で立て直すが、そこへファブリングが再び光の塊を弾けさせる。
「くっ……!」
 エミリアが血の雨の準備をするが、注ぐ光の速度に間に合わない。察したオヴェリアが、ファブリングの直下が安全地帯だと見抜き、立ち上がってエミリアを放り投げる。
「オヴェリア!?」
 驚きを声に出す。微笑みを返したオヴェリアは、殆ど猶予なく光に飲まれて消える。瞬時にエミリアの移動を察知したファブリングが急降下し、エミリアが飛び退き、エルキュールが続く。ファブリングが接地寸前で風圧を起こし高度を保つと、強烈な突風が発生する。
「エミリア」
「わかってる」
「ここはおんしに全てを託す」
「……?」
 突進してくるファブリングを、一角獣を差し向けて拮抗させ、彼の纏う力の奔流を槍で貫き通し、デバイスを取り返す。そして渾身の力でファブリングを押し返し、自身は後退する。
「エミリア、私はおんしと出会えてよかったと思っているぞ。王龍であろうと、アイスヴァルバロイドであろうと、別れは寂しく感じるものだ」
 エミリアは手渡されたデバイスを左腕に装着する。
「頼むぞ、特異点のために、君自身のために」
 エルキュールは消え去り、シフルとなってエミリアに吸収される。
「馬鹿が。死んだら何にもならんだろうが」
 エミリアはデバイスから刃を展開し、ファブリングと向かい合う。ファブリングは光の塊を打ち上げ、風の塊を飛ばす。翼から光線を撒き散らしながらバレルロールをかまし、そのまま突進する。エミリアは全身から血液を沸き立たせ、血で象った鳳凰となる。羽ばたきで血の波濤を起こし、それを竜巻へ変えてぶつける。ファブリングは難なくそれを打ち消し、大量の光線を伴って再び突進する。
 エミリアは飛び上がり、血の雨を伴って突進する。光線と雨が激突して相殺し、ファブリングは凄まじい力の渦を帯び、エミリアは己の姿を巨大な槍へ変えて突っ込む。両者が衝突した瞬間、エミリアが押し勝ち、突き刺さり、そのまま道路まで降下する。地表への激突と共に、ファブリングを完全に貫徹し、力を失った彼はシフルの粒子へ変わる。
 元の姿に戻ったエミリアが道路へ投げ出され、ふらつきつつも立ち上がる。
「……」
 疲弊したエミリアだったが、サハスララから飛来する小型竜の群れを見て、意を決する。再び血の鳳凰となり、飛び立つ。
 ――……――……――
 古代の城 パラミナ区画
 両者の着地と共に触手が離れ、フレノアとアリアたちが向かい合う。
「誰かと思えば、紛い物から本物へと回帰した女ではないか」
 フレノアがアリアを見て呟く。
「そうなのですよ。前の世界で作り物だった私も、今はこうして本物の人間なのです」
「俺もそうだ。ヴァナ・ファキナという偽りの王から生まれ、本当の王龍となった」
 黒いフレームを展開し、そこから翼を形成するように真炎が噴き出る。
「俺たちは万象をこの身に宿す。世界を形成する一体《ひとつ》の総体《せかい》となって、全てを支配する」
「ふふっ、それも私と同じなのです。私の願いは、みんな私のお腹の中で幸せに暮らすこと……痛みも苦しみも厭きもない、真に永遠なる楽園を作り上げることなのです」
「ならば我が怒りの炎を以て……貴様たちを焼き尽くしてくれるわ!」
 フレノアが大きく構えると、周囲に紅蓮が迸り、火の粉が舞い出す。シャトレが燐花を抱えたままの千代に下がるよう促し、彼女自身は前に出る。
「大した炎じゃな。それだけの力があれば己の主さえ焼いてしまえると言うに」
「ならば貴様は、空の器を予め喰らうのか?」
「いや。せねばならぬ理由がないのに主を葬る従者などおるまいて」
「そう言うことだ。俺は、俺たちはこの立場に疑問を感じたことなどない。我らは一つ、一つの存在なのだ」
 フレノアが天を仰ぎ見る。それだけで彼の口許から螺旋状の真炎が天へ昇る。手始めに極悪な爪がついた右手で引っ掻きを行う。真炎を纏ったそれをアリアが触手の壁で防ぐが、本当にただ防ぐのみで、たった一撃で壊される。そこへ真炎の翼膜を刃のように揃えた左翼が突き出され、咄嗟に割り込んだシャトレが己の拳で弾き返す。右半身を大きく振り抜いて翼を振ると、今度は竜化したメランが後方から赤黒い雷を吐きつけて相殺する。フレノアは翼を戻すと同時に口から真炎の熱線を吐き出す。アリアとシャトレは各々で避け、メランが千代を背に乗せて飛び去る。
「これが真炎の威力か」
 シャトレが素直に感心し、アリアへ目配せする。
「(どうする。こやつを討てばヴァナ・ファキナの力はそれだけ削がれよう。じゃが、なるべく主へ負担をかけさせ力の浪費を狙う観点で言えば、なるべく戦いを長引かせた方が得策じゃが……)」
「(私たちが作戦を実行に移すまで時間がかかりすぎるのです。ここは、この人を倒すことを優先するのですよ)」
 アリアは視線のまま僅かな頷きで返す。そしてフレノアへ向き直り、地面から大量の触手を召喚する。しかし真炎を纏った翼の一閃で切り裂かれ、左翼を地面に叩きつけ、彼女へ真炎の熱波が飛ぶ。アリアが右手を突き出して力むと、熱波がそこで押し止まり――というよりは、時間でも止まったかのように動かなくなり――その僅かな瞬間にアリアは飛び退いて、動き始めた熱波が通り過ぎる。
「(おかしい。既にこの世界は超複合新界と同等の状態になっているはずだ。時の十二要素の存在が認められない以上、物理的挙動の完全停止が出来るはずがない)」
 訝しむフレノアへ巌窟《竜化したシャトレ》が突っ込み拳を打ち込む。咄嗟に両腕を交差させて防御し、しかしそれでも強烈な打撃によって後退する。フレノアは二人の攻撃への姿勢を感じ取り、そこから猶予の少なさを理解したのか、力んで翼から噴き出す真炎の量を爆発的に上昇させる。翼の真炎は恣意性を持って熱線となり、怒涛となって二人へ突っ込む。更にそこへ重ねて口許から、先ほどの比でないほどの真炎が、正に奔流と言わんばかりの勢いで放出される。
「〈天覇烈葬〉!」
 瞬時に構えたシャトレが両手を合わせて突き出し、莫大な量の闘気を叩き込んで拮抗する。激突した両者のエネルギーが凄まじい輝きを放ち、視界を覆っていく。その傍でアリアが左手を突き出し、フレノアの攻撃の速度を鈍らせる。
「今なのです!シャトレちゃん!」
「任せろ!」
 シャトレが先に撃ち切り、だが逃げるわけにもいかないフレノアは対抗し続ける。周囲のシフルエネルギーの全てがシャトレへ集中し、彼女は力んで解放する。彼女を中心として極大の光の柱が現れ、フレノアを飲み込む。
 光の柱が収まると、フレノアは膝から崩れ、そして仰向けに倒れる。メランが降り立ち、千代と燐花もそれぞれ自分の足で地面に立つ。燐花が旗槍を手に持ち、フレノアへ近付く。
「燐花ちゃん、本当に大丈夫なのです?」
 アリアが心配そうに訊ねると、燐花は横顔で頷く。
「もしダメだったとしても、私がいなくなることで明人くんやアリアちゃんの負担は確実に減るはずですよね。なら、問題ないです」
 燐花はフレノアの上に立ち、旗槍を構える。フレノアは残る僅かな力で首を動かし、燐花を見る。
「貴様は……なるほどな、力を取り戻しに来たか……」
「はい。瓦解しかけていた私には、ただの人間だった私の体をここまで維持してきた、あなたが必要だった。烈火の力は、私だけでは余りにも強すぎる」
「貴様が……空の器を手にすれば……我らはそこから蘇るまでのことだ……好きにするがいい……」
 燐花が旗槍を突き立てる。フレノアは瞬時にシフル粒子へと変わり、彼女の体へ吸収された。消えたフレノアの体の分だけ中に浮いた燐花が着地すると、振り向く。
「これで私も準備万端です。たった一回の戦いでも壊れてしまうような状態なのは変わりませんが、数合わせくらいにはなれます」
 アリアが頷く。
「みんなで、明人くんを止めるのですよ」
 ――……――……――
 ニブルヘイム ガルガンチュア
 古代の城のニブルヘイム側の区画へボルドスクラブを引き込み、両者は着地する。
「いたた……久しぶりの再会なのに随分酷いことをするじゃないか、君」
 ボルドスクラブは見た目にそぐわぬ妙に気に障る口調で愚痴を言う。
「久しぶりと言うか因縁だけどね、ヴァル=ヴルドル・エール」
 ロータがそう言うと、アーシャが続く。
「兄上……まさか、生きて再びお会いするとは」
 変わらぬ畏まった対応に、ボルドスクラブはクスリと笑う。
「プッ、体は成長しても心はお子さまのままだねアーシャ。生きてまた会うも何も、僕は死んでなんかいないさ。死んで生き返ったのは君たちの方だろう?」
「そうでしたね……兄上は昔から、姉上とも父上とも違う……何かを持ってました」
「そうだよ。僕はずっと、ずぅぅぅっと、一つに戻ろうとしてたんだ……」
 背から生えた触手が各々動き、先端についている凶悪な顎を開かせる。ボルドスクラブは瞳を紫色に輝かせ、レイヴンを見る。
「もう君だけを追う必要はどこにもない。もうすぐ全部一つになるんだよ、ヴァナ・ファキナの中でね!君も僕もアーシャも、姉さんも父さんも、みんなみんなみんなねぇ!」
 彼の胸が開き、触手と同じように極悪な顎を開き、そこから紫色の光線を放つ。ロータが瞬時に編んだ鎖の防壁に阻まれ、触手からも光弾を重ねる。続くロータの放つ力場に飲み込まれ、融合竜化したレイヴンが魔力の剣を伴いつつ高速突進する。ボルドスクラブの右上の触手がそれを阻み、左下の触手で噛みつきにかかる。
「ったく懐かしいな、おい!」
 レイヴンが翻りながら長剣を振るって触手を打ち返し、そこに物凄い速度で後方から双頭斧が飛んでくる。レイヴンの鼻先ギリギリを掠め、ボルドスクラブの右大腿に突き刺さる。少し姿勢が崩れたレイヴンへ左下の触手が噛みつきにかかるも、そこに現れたアストラムによって素手で止められる。猛毒の滴る右手の爪でレイヴンを狙い、流石に遅く、レイヴンの渾身の一撃の方が速く届いて怯む。触手を手放しつつアストラムは双頭斧を引き抜き、着地してから左を軸足にして右足の強烈な蹴りを加え、捻りを加えて飛び上がりつつ双頭斧を右下の触手に突き刺し、彼女はボルドスクラブの足の付け根と脇腹で踏ん張り、力任せに引き抜こうとする。
「結構なガッツだね。でも……」
 アストラムが踏ん張る足場が溶け出し、彼女の足が沈んでいく。
「アストラム!さっさと離れろ!危ねえぞ!」
 レイヴンの警告を聞かず、アストラムはその場で竜化する。
「俺がリスクヘッジも無しにこんな近付くわけねえだろうが、じいちゃん!」
 溶けたボルドスクラブとアストラムの表皮を覆う黒いヘドロが融合し、そこから徐々に彼の全身が融解していく。
「なっ……僕の体を溶かしてるの!?」
「甘いんだよ、てめえはなぁッ!」
 そのまま触手を引き千切り、ついでに右上の触手にも爪を突き刺し、その傷目掛けて双頭斧を叩きつけて切断する。彼女は竜化を解きつつ後退し、ボルドスクラブは消耗して僅かに後退する。
「凄かったよぉ……?」
 力むと触手が再生し、混じっていたアストラムのヘドロも消える。
「何のこたぁねえ。言うほど強くもねえなら、さっさと決めるぞ!」
「そうはさせないよぉ!」
 ボルドスクラブは全身から紫色のシフルを立ち上らせ、足下から見るからに危険そうな毒々しい泥を発し、地表を覆う。触れているロータのローファーが、泥を浴びた瞬間から白煙を上げる。
「……」
 ロータが微妙に反応を示すと、後方のエストが続く。
「王龍結界もどきって感じね」
 アミシスが頷き、即座に竜化する。
「この程度の濁沼ならば……!」
 そして赤い片刃剣を突き立て、清らなる激流を産み出して泥を洗い流す。エストが竜化して瞬時に距離を詰め、暴風と共に結晶を叩き込んで爆裂させ、その背から飛び立ったヴィルと不知火が同時に攻撃を加える。反撃に触手を向かわそうとするも、既にロータが鎖で全ての触手を戒めており、ボルドスクラブは仕方なく胸部の口を開く。不知火が邪眼を開いてヴィルの穂先のエネルギーを集中させ、ヴィルは躊躇いなくボルドスクラブの胸部へ突進し、槍を突き刺す。噴き出すエネルギーに押し負けることなく、ヴィルは槍を押し込み続ける。
「てぇ!」
 ヴィルが力を込め直してボルドスクラブを貫き通す。ボルドスクラブの表皮を皹が走り、暴発したエネルギーが透ける。
「おか……しい……!僕の力はこんなもんじゃないはず……なのに!」
「いいや、前からお前はそんなだったぜ」
 竜化を解いたレイヴンとアーシャが、それぞれ拳銃を構えていた。
「さよならだ、エール」
 吐き出された二つの弾丸が、彼の頭部を吹き飛ばす。それで力を抑え込むのが不可能になったのか、彼は己のエネルギーの暴発によって爆発する。
「兄上に、賽の目が微笑むことはないんです」
 アーシャが拳銃をレイヴンへ投げ返す。
「俺はこいつの墓を何個建てりゃいいんだよ、ったく」
 レイヴンが愚痴ると、そこへヴィルが駆け寄る。
「センセ、早くレメディを助けに行きましょうっすよ!」
「おう、いい加減あのデカブツにも引導を渡さなきゃな」
 ――……――……――
 超複合新界 空中
 巨大な拳が空を切り、腹立ち紛れに吐き散らしたビームが空しく虚空を切り裂く。
「ちいっ、ちょこまかと鬱陶しい雑魚共が!」
 強烈な咆哮で空間が歪み、崩壊が進んでいく。
「だが時間が過ぎれば不利となるのは貴様ら。やはり我の……ッ!?」
 ヴァナ・ファキナが唐突に動きを止め、苦しむ。閃剣たちは作り出した足場へ着地する。
「何が……」
 閃剣が訝しむと、無謬が続く。
「アリアちゃんたちがこいつのパーツを倒したんだ」
 無謬はヴァナ・ファキナへ挑発するように人差し指を動かす。
「おい!余裕ぶっこいちょうところ悪いっちゃけど、そろそろ本気で来んと間に合わんのはそっちや思うっちゃけど!はよ来いっちゃ、のお!」
 悶えるヴァナ・ファキナは無謬を恨めしそうに見る。
「明人貴様……よかろう、隷王龍など無くとも我は負けん!」
 ヴァナ・ファキナは自らの両腕を分離し、飛び上がる。周回するように飛び回り、四体の隷王龍を模したエネルギー塊を三人目掛けて飛ばす。
「天地滅壊万物滅却!」
 超巨大な斧を産み出し、それを伴って三人へ突撃する。足場を高速で斧で掠め、そして強烈な振り下ろしを足場へぶつけ、莫大なエネルギーが炸裂し、三人はそれぞれ飛び避けるが、続けてもう一度、閃剣目掛けて振り下ろし、逃げきれずに衝撃を受けて吹き飛ばされる。更にもう一度追いかけて、渾身の威力を込めて莫大な衝撃が起こり、力の波とそそりたつ刃が吹き飛ぶ。閃剣は爆発が直撃し、大きく空中に飛ぶ。
「死ね明人ォ!」
 ヴァナ・ファキナが飛び立ち、空中にて構える。大量の光の楔が現れ、今度は無謬を目掛けて次々と撃ち落とされる。痛烈な爆発と強烈な衝撃波が次々と起こり、不規則な着弾地点と合わせて無謬は躱しきれずに食らう。
「アレクセイ!」
 無謬の声に反応し、アレクセイは槍を放り投げる。ちょうどそこにヴィルたちが現れ、ジャストタイミングで槍を受け取り、ヴィルが竜化する。
「レメディ、今行くぜ!我が名、〝機槍〟!」
 機槍《竜化したヴィル》は黒金の機械騎士のような姿となり、受け取った槍を構えて飛び立つ。
「もう一人の特異点……ッ!」
「ブッ飛べ!」
 絶大な威力の突進で左翼を貫き、ヴァナ・ファキナは大きく仰け反る。
「エスト!」
「おばさま!」
 続いてアリアたちも合流し、竜化したメランが促し、エストも竜化する。
「「王龍式!」」
 極大の竜巻と、赤黒い雷の光線が向かう。逃がさず右翼を貫き、浮力を大きく損なって降下する。逃げようとするところを巨大な触手で留め、アリアが叫ぶ。
「明人くん、お兄様!今なのですよ!」
 融合竜化したレイヴンが強烈な力場を産み出して圧壊させ、無謬が損壊したヴァナ・ファキナの体へ衝撃波を飛ばして更に複合的にダメージを蓄積させていく。ヴァナ・ファキナが急落下し、ガルガンチュアへ激突する。アリアたちとロータたち、閃剣たち三人、そして機槍が合流する。
「ヴィル!竜化できたんだね!」
「いや、なんか知らんが勢いでなっただけだぜ?」
 二人の喜びも束の間、一時的に翼を再生したヴァナ・ファキナが再び天高く飛ぶ。
「我はまだ消えぬ……!森羅万象を我が身に宿すまで、力尽きはせぬわ!」
 ヴァナ・ファキナは両腕も再生させ、胸の前で構え、コアを引き出す。そこからいくつもの極太の光線を放ち、上下に薙ぎ払い、そして前方に放ち、上に薙ぎ、コアが二つに分かれ光線を放ちつつ交差させ、一つに戻って中空と地上を何度も薙ぎ払う。当たらぬよう逃げていた一行の内、閃剣と機槍、無謬が固まって逃げている場所をピンポイントに、コアから極大の光線を発射する。メランやエスト、レイヴン、アミシスやらロータやら、残った全員からの猛攻を受けても怯まず、ヴァナ・ファキナは攻撃を続行する。
 コアが三つに分かれ、それぞれ先の三人を追尾して上に薙ぎ続け、止めにコアが四つに分裂し、その狭間から最大級の光線が解き放たれる。ついぞ三人を掠めることなく光線を撃ち終わり、一行の総攻撃が直撃して撃墜される。隙だらけ――もとい、死に体のヴァナ・ファキナへ、超高速で突っ込んできた鳳凰形態のエミリアが彼を貫き、血の鎧を解除して一行の足場へ着地する。
「エミリアさん」
 閃剣の視線が向き、彼女はスカして鼻で笑う。
 首の吹き飛んだヴァナ・ファキナは制御を失い、大地に伏す。膨大な質量が眼下の古代の城に叩きつけられ、崩壊する。足場に竜化したユウェルも飛来してきて、着地する。
「アレクセイ、超複合新界を無理に作り出したせいで次元門に乗って無明の闇が発生し始めている」
「ああ、承知している」
 その会話をしておきながら行動を起こさないアレクセイを見て、アーシャが会話に割り込む。
「あの……ヴァナ・ファキナはもう倒したんですし、ここから早く離脱した方が」
 アレクセイが彼女を見る。
「まだだ。奴にはここで、本当に消え去ってもらう。降りるぞ」
 足場が消滅し、それぞれの方法で降下していく。

 ニブルヘイム ガルガンチュア
 崩壊した古代の城に斃れたヴァナ・ファキナの体は既に粒子となって天に還元され始めていた。彼の胸部だった場所から、先ほどの攻撃に使われたコアが浮上する。
「レベン……!」
 無謬が咄嗟に一歩前に出る。輝くコアには、既にレベンの姿はない。
「アレクセイ!話がちげえぞ!?」
 怒号を散らすが、アレクセイは冷静に返す。
「奴があそこでコアを酷使するとは想定していなかったのでな。来るぞ」
 そしてマントを翻し、ユウェルと共に去ろうとする。
「待って」
 ロータが呼び止める。
「何だ」
「どこへ行く気?まだ決着はついてないんだけど」
「汝らが始源世界に行くために、道筋を確保しておく。この世界はもうじき次元門に飲み込まれ、そして無明の闇に食い潰される。ロータ・コルンツ。宵の鎖、曙の鎖を一つにした、〝天象の鎖〟たる汝だけが拓ける道を、我らで死守しておく。決着がついたら、パラミナのアリンガまで来い」
 言いたいことを言い終えると、アレクセイはすぐに歩を進めた。
 コアは一行の眼前に漂い、一定の感覚で明滅する。そして力を放ち、周囲の景色を塗り替える。

 ――
 ――――
 ――――――
 命に替えても
 誰も描けるはず無いものね
 聞こえる
 やがて来る
 運命に従って欲しくないの

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 でも必ず、私は貴方に会いに行く

 ――――――
 ――――
 ――

 王龍結界 ヴァニティ・キンドルフィーネ
 閃剣、機槍、無謬の三人が、その場所に引きずり込まれていた。
 雲一つなく、煌々と太陽が白砂の大地を照らす。だが暑さはなく、むしろ虚無に包まれて冷ややかな印象さえ受ける。
「茫漠の墓場……」
 流石に見慣れていた無謬が反応する。
「こいつが本体だったのか。今までずっと……こいつが俺に力をくれてたんだな」
 コアは状況をゆっくりと把握するように、微妙な速度で回転している。
「これって王龍結界……ですよね」
 閃剣が尾で抜刀する。
「みたいだよな。明人さん、ここに覚えがあるンすか?」
 機槍も同じように槍を構え直す。
「ああ。たまに来るテーマパークみたいなもんだよ。で、あのコアがヴァナ・ファキナそのもの……さっきまで戦ってたデカブツは、あれを守る鎧だったってことだ」
 一行の殺意と闘志を感じたのか、コアはシフルエネルギーを発する。手始めに機槍を狙ってコンパクトながら絶大な威力の光線を放つ。だが躱され、逆に無謬の衝撃波を右拳ごと受けて動きを止められ、そこへ大量の幻影の剣と共にシフルを噴出した長剣の一撃を受けて、僅かにコアの大きさが減る。更に機槍の強烈な突進を受け、頭上に瞬間移動した機槍が急降下で切り裂く。コアは瞬間移動で逃げ、エネルギーの刃をいくつも飛ばす。無謬が右腕を振るって衝撃波を起こして刃を受け止め、閃剣と機槍が前へ出る。二人の息の合った攻撃で交差した斬撃が生まれ、コアは再び損傷する。もう一度逃げようとしたところを、遠距離から放たれた無謬の衝撃波で再び止められ、閃剣の強烈な薙ぎ払いとサマーソルトの二連撃と、機槍の豪快な三連撃からの強烈な無明の闇混じりの光線を直撃させられて大きなダメージを受ける。再び逃げようとして、再び衝撃波が当てられる。しかしコアは止まらず、少し距離を離して中空へ向かう。
 コアは内部で凄まじい力の奔流を起こし、急速に質量を増大させる。それにつられて、砂中に沈んでいた廃墟や墓石が次々空中へ浮かんでいく。コアは巨体を活かした、ただただ単純な体当たりを放つ。三人は各々の方向へ退避する。通過した衝撃で大量の砂と瓦礫が舞い上がり、降り注ぐ。コアは大きく旋回して突進する。落下してくる瓦礫が三人を分断し、露骨に無謬を目掛けて突っ込んでくる。無謬は地面に衝撃波を放って一気に高度を稼いで回避する。もう一度旋回し、再び瓦礫を、露骨に無謬だけを分断しようと降下させる。閃剣が素早く瓦礫を砕き、機槍が槍からの光線でコアの速度を少しだけ緩める。コアが通り過ぎ、そして再三の瓦礫で三人を囲み、隕石のように落下する。無謬が纏めて瓦礫を破壊し、三人は同じ方向に逃げる。着弾した衝撃で莫大な量の砂が舞い上がり、そして再び瓦礫も飛び上がる。コアは全方位に光線を放ちながら回転を始め、無謬が衝撃波を盾に三人で突っ込む。そして衝撃波の盾を飛ばして押し込み、最接近して盾を殴って押し込む。盾が捩じ込まれたコアが爆発するが、今度は礫になって三人目掛けて降り注ぐ。三人がそれぞれの方向に逃げると、今度は機槍を明確に狙う。凄まじい弾数で追いかけると共に、不意打ちと進路潰しを兼ねていくつかの弾が撃ち分けられる。機槍は槍を地面に突き立てて急速反転して体を弓なりに飛ばし、向き直って注いでくるコアの破片に向けて穂先から全力の光線を放つ。双方の勢力が拮抗して大爆発し、間も無くコアは元に戻る。三人が再び集結し、コアと向き合う。
「こいつめっちゃ強くないすか、明人さん」
 機槍が呼吸を整えながら話しかける。
「ああ、流石に俺も驚いてるが……まあ冷静に考えれば、鎧よりコアの方がエネルギーの総量が多くて当然なんだから、コアがこれだけ動けりゃ、そら本体よりも強いわな」
 閃剣も続く。
「でも、とても無垢な力です。さっきまで鎧の方で感じていた邪悪で傲慢な意思は、どこにもない……」
「そしてレベンの意思もな。アレクセイあの野郎……」
 無謬が拳を構え直す。コアが再び肥大化し、内部のエネルギーを励起させながら飛び上がって押し潰しを行う。三人を纏めて叩き潰すように落下してきて、躱したのに続いて強烈な衝撃波が円形に広がる。そして衝撃波の通った後に瓦礫が、今度は乱雑に落下してくる。
「ふんッ!」
 敢えて衝撃波を躱さずに無謬が地面を叩いて衝撃波を起こし、注ぐ瓦礫を全てコアに弾き返す。コアは再び飛び立ち、また押し潰しを見せる。全く同じ攻撃セットが起こり、今度は衝撃波の輪を機槍が切り裂き、開けた道に閃剣が突っ込む。尾を振るって切り裂き、刻まれたコアの傷に長剣を突き刺し、高速回転しながら閃剣は飛び退く。コアは急に動きが鈍り、音波を当てられた水面のように震え出す。
「終わりか……?」
 閃剣が油断せずに警戒していると、無謬が口を開く。
「そうか、あの剣はリータ・コルンツがヴァナ・ファキナを別ち、呪われた血筋を絶つために作った剣……!今の今まで完全に忘れてたぜ!」
 コアは剣を己の力で弾き飛ばして元に戻り、閃剣は尾で長剣を掴む。そしてコアは全霊の輝きを放ち、総力を込めた光線を模したシフルエネルギーを放つ。
「来るよ!ヴィル、その槍を使おう!」
「おう!」
 閃剣の声に機槍が応える。
「明人さんも!力を合わせましょう!」
「腐れ縁はここで終わらせるに決まっちょうやろ!」
 三人が一斉に力を注ぎ、槍からコアの光線に匹敵するほどのエネルギーが解き放たれる。激突し、三人の力が押し切り、コアが激甚なダメージを受ける。だがコアは諦めず、再び、先ほどの出力を越える、全身全霊の光線を放つ。
「行こう二人とも!ここで……決めようッ!」
 三人も先ほど以上の力を注ぎ込み、両者の光線が完全に拮抗する。
「けええええええッ!」
 機槍の叫びで光線が力を増し、コアも負けじと出力を微増させる。
「ほがしてまえぇええええ!!」
 無謬の怒声でまたも光線が力を増して、コアも拮抗せんと残る力の全てを注ぎ込む。
「これで決着です!」
 閃剣が最後に力を注いで、遂に三人の力が押し勝ちコアを貫く。
 攻撃を終えた瞬間に三人はそれぞれ膝をつき、竜化が解ける。見上げると、コアが不規則に変形し、大爆発する。だがその威力はたかが知れており、三人がそれぞれ顔を背けるだけで被害が0になった。再び視線をコアへ返すと、無数の白い蝶が天へと飛び去っていく。
 ――それに紛れて、灰色の蝶がどこかへ去っていくのだった。
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