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三千世界・結末(10)
第三話「注ぐ星の唄」
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三千世界 創世天門
「せいっ!」
ホシヒメの正拳がプロミネンス・デイを貫き焼き尽くす。表面が消滅して液状のE‐ウィルスがぶちまけられ、蛆が飛び散って悶え焼け焦げる。それが最後の敵で、ゼロと二人で一息つく。
「対処法に気付くまで、少々手間取ったな」
ゼロが刀を消す。
「そうだね。私たち二人がかりで時間かかるなんて、誉めてあげなきゃ」
ホシヒメが肩を竦めると、ゼロが続く。
「何者かが俺たちをここに釘付けにしておきたかったのだろうが……」
そこで言葉を止める。
「どしたの?」
「見ろ」
ゼロが向く方向にホシヒメも倣うと、遠くから何者かが近付いてくる。次第にシルエットは微細な形を描写し始め、彼らの前に立った時点で鮮明になった。
「ホシヒメさん……なんでここにいるッスか」
折れた槍を携えた青年――ストラトスが、ホシヒメの姿を見て驚く。
「知り合いか」
「さあ……?」
ゼロが訊ねるが、ホシヒメは首を横に振る。
「あ、そっか。ええっと、正史のホシヒメさん、ってことッスか?」
「そうっすよ」
ホシヒメはなぜか語尾を真似て返事する。
「横の人は……」
ストラトスがゼロへ視線を向ける。
「この阿呆の好敵手だ。ゼロと呼べ」
「ゼロさん……」
「貴様はなぜこんなところに居る」
ゼロの鋭い声に、ストラトスは臆することなく即答する。
「俺はこの先にいる、アルバを救うためにここまで来た」
「「アルバ……」」
ホシヒメとゼロがハモると、ホシヒメが続けて言葉を発する。
「アルバちゃんが、この先に……?」
「なるほど、コルンツの血筋か。ならば、これほど大掛かりな舞台を用意できるのも頷けるな。クラエス、貴様はこの男、どう思う」
「うーん……」
ホシヒメがストラトスを見る。
「私は別に問題ないと思うけど……うん、何があったかは知らないけど、すごく大きな哀しみを背負ってるね。それに、どこかに戻るために前へ進もうとしてる」
「俺は……」
ストラトスがふっと目を閉じ、覚悟を決めて開く。
「俺は、何を背負っても、絶対にやり遂げるって決めてるんス」
その言葉に、二人は頷く。
「クラエス、こいつと共に行け」
「ゼロ君は?」
「俺はしばらくここにいる。追手が来ないとも限らん」
「わかった。無理は駄目だからね!」
ホシヒメはストラトスの手を取り、創世天門を潜り抜けて操核に向けて駆ける。
「何にせよ、世界の危機となればバロンが来るはずだ。俺とクラエスに敵う者が多いとは思わんが……安牌を踏むことで損はしないはずだ」
ゼロは腕を組み、佇む。
三千世界 操核
球体に突入したホシヒメたちは、闇の上に降り立つ。青白い光が樹木のように集結し、幻想的な森林を形成していた。
「あの……ホシヒメさん」
ストラトスが口を開くと、ホシヒメがそれに食い気味に反応する。
「哀しかったら、ちゃんと哀しいって言わないと駄目だよ。気持ちを飲み込んで、何もなかったように振る舞える人なんて、いないからね」
「ホシヒメさん……なーんか、俺の知ってるホシヒメさんよりちょっとアホッスね」
「えへへ、そうでしょ?私、何事も深く考えないようにしてるから!」
「でも、感じる暖かさは同じッス」
談笑していると、急にホシヒメが立ち止まる。
「どうしたッスか?」
「君は先に行って」
ホシヒメの真剣な声に、ストラトスは頷き、森林の中を走り抜ける。彼の姿が見えなくなると、一本の樹木の背後からネブラが現れる。
「ホシヒメ……あの時、助けてくれたことには礼を言おう」
ネブラは腕を組んだまま、確かめるように一歩ずつ踏み込む。ホシヒメと向き合うように立ち、ため息をつく。
「開いた理想郷への扉の向こうで、私はいつの間にか終末の尖兵にさせられていた」
苛つきが諦めに変わるように、ネブラは首を振る。
「事ここに至って初めて、私たちの計画の視点の短絡さに気付いた。いかに掛け替えのない一つの世界であっても、それを救ったところで何の解決にもならない、とな」
「そう、なのかな。私には難しいことはよくわかんないよ」
「いつもお前の単細胞さには歯痒い思いをしてきた。世界のことを真に思わぬものに、なぜ計画を潰されねばならないのかと。だが、だがな。世界を守るなど、所詮は人間のエゴではないか?人間はそもそも世界の一部だ。何度世界を越えようと何度でも滅びはやってくる。終わりなどない。なぜなら、それが自然の輪転だからだ」
「そうだね。だから、君たちのやったことは、世界を守ることが本質じゃないんだ。誰が世界の先陣を切るか。世界の舵取りとなることが本質だったんだよ」
「難しいことはわからないと言いつつも、随分な考察だな。だがそれが正解だということも事実だ。私はそれに成り損ねた」
ネブラの体がふわりと浮き上がり、周囲に黒輪が現れる。
「ホシヒメ。私にはもう何も残っていない。あるのはただ、お前と決着をつけたい、それだけだ。例え――万が一にも、お前に追い縋ることさえ出来ずとも、戦わずして世界の終わりを見届ける気はない」
ホシヒメは躊躇なく頷き、屈託のない笑みを見せる。
「もっちろんだよ!辛かったことも、楽しかったことも、全部、私に見せてよ!」
「楽しかった、ことか……」
一つの黒輪からナノマシンが溢れ、瞬時に拳を形成して放つ。ホシヒメはタックルしつつ右腕を薙ぎ払って黒輪を砕き、飛び上がる。
「せいっ!」
ホシヒメの正拳がプロミネンス・デイを貫き焼き尽くす。表面が消滅して液状のE‐ウィルスがぶちまけられ、蛆が飛び散って悶え焼け焦げる。それが最後の敵で、ゼロと二人で一息つく。
「対処法に気付くまで、少々手間取ったな」
ゼロが刀を消す。
「そうだね。私たち二人がかりで時間かかるなんて、誉めてあげなきゃ」
ホシヒメが肩を竦めると、ゼロが続く。
「何者かが俺たちをここに釘付けにしておきたかったのだろうが……」
そこで言葉を止める。
「どしたの?」
「見ろ」
ゼロが向く方向にホシヒメも倣うと、遠くから何者かが近付いてくる。次第にシルエットは微細な形を描写し始め、彼らの前に立った時点で鮮明になった。
「ホシヒメさん……なんでここにいるッスか」
折れた槍を携えた青年――ストラトスが、ホシヒメの姿を見て驚く。
「知り合いか」
「さあ……?」
ゼロが訊ねるが、ホシヒメは首を横に振る。
「あ、そっか。ええっと、正史のホシヒメさん、ってことッスか?」
「そうっすよ」
ホシヒメはなぜか語尾を真似て返事する。
「横の人は……」
ストラトスがゼロへ視線を向ける。
「この阿呆の好敵手だ。ゼロと呼べ」
「ゼロさん……」
「貴様はなぜこんなところに居る」
ゼロの鋭い声に、ストラトスは臆することなく即答する。
「俺はこの先にいる、アルバを救うためにここまで来た」
「「アルバ……」」
ホシヒメとゼロがハモると、ホシヒメが続けて言葉を発する。
「アルバちゃんが、この先に……?」
「なるほど、コルンツの血筋か。ならば、これほど大掛かりな舞台を用意できるのも頷けるな。クラエス、貴様はこの男、どう思う」
「うーん……」
ホシヒメがストラトスを見る。
「私は別に問題ないと思うけど……うん、何があったかは知らないけど、すごく大きな哀しみを背負ってるね。それに、どこかに戻るために前へ進もうとしてる」
「俺は……」
ストラトスがふっと目を閉じ、覚悟を決めて開く。
「俺は、何を背負っても、絶対にやり遂げるって決めてるんス」
その言葉に、二人は頷く。
「クラエス、こいつと共に行け」
「ゼロ君は?」
「俺はしばらくここにいる。追手が来ないとも限らん」
「わかった。無理は駄目だからね!」
ホシヒメはストラトスの手を取り、創世天門を潜り抜けて操核に向けて駆ける。
「何にせよ、世界の危機となればバロンが来るはずだ。俺とクラエスに敵う者が多いとは思わんが……安牌を踏むことで損はしないはずだ」
ゼロは腕を組み、佇む。
三千世界 操核
球体に突入したホシヒメたちは、闇の上に降り立つ。青白い光が樹木のように集結し、幻想的な森林を形成していた。
「あの……ホシヒメさん」
ストラトスが口を開くと、ホシヒメがそれに食い気味に反応する。
「哀しかったら、ちゃんと哀しいって言わないと駄目だよ。気持ちを飲み込んで、何もなかったように振る舞える人なんて、いないからね」
「ホシヒメさん……なーんか、俺の知ってるホシヒメさんよりちょっとアホッスね」
「えへへ、そうでしょ?私、何事も深く考えないようにしてるから!」
「でも、感じる暖かさは同じッス」
談笑していると、急にホシヒメが立ち止まる。
「どうしたッスか?」
「君は先に行って」
ホシヒメの真剣な声に、ストラトスは頷き、森林の中を走り抜ける。彼の姿が見えなくなると、一本の樹木の背後からネブラが現れる。
「ホシヒメ……あの時、助けてくれたことには礼を言おう」
ネブラは腕を組んだまま、確かめるように一歩ずつ踏み込む。ホシヒメと向き合うように立ち、ため息をつく。
「開いた理想郷への扉の向こうで、私はいつの間にか終末の尖兵にさせられていた」
苛つきが諦めに変わるように、ネブラは首を振る。
「事ここに至って初めて、私たちの計画の視点の短絡さに気付いた。いかに掛け替えのない一つの世界であっても、それを救ったところで何の解決にもならない、とな」
「そう、なのかな。私には難しいことはよくわかんないよ」
「いつもお前の単細胞さには歯痒い思いをしてきた。世界のことを真に思わぬものに、なぜ計画を潰されねばならないのかと。だが、だがな。世界を守るなど、所詮は人間のエゴではないか?人間はそもそも世界の一部だ。何度世界を越えようと何度でも滅びはやってくる。終わりなどない。なぜなら、それが自然の輪転だからだ」
「そうだね。だから、君たちのやったことは、世界を守ることが本質じゃないんだ。誰が世界の先陣を切るか。世界の舵取りとなることが本質だったんだよ」
「難しいことはわからないと言いつつも、随分な考察だな。だがそれが正解だということも事実だ。私はそれに成り損ねた」
ネブラの体がふわりと浮き上がり、周囲に黒輪が現れる。
「ホシヒメ。私にはもう何も残っていない。あるのはただ、お前と決着をつけたい、それだけだ。例え――万が一にも、お前に追い縋ることさえ出来ずとも、戦わずして世界の終わりを見届ける気はない」
ホシヒメは躊躇なく頷き、屈託のない笑みを見せる。
「もっちろんだよ!辛かったことも、楽しかったことも、全部、私に見せてよ!」
「楽しかった、ことか……」
一つの黒輪からナノマシンが溢れ、瞬時に拳を形成して放つ。ホシヒメはタックルしつつ右腕を薙ぎ払って黒輪を砕き、飛び上がる。
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