242 / 568
三千世界・原初(7)
第六話 「生命の樹」
しおりを挟む
次の日の朝、凄まじい轟音で目が覚める。三人は飛び起き、通路に出る。
「誰もいないわね……」
メイヴが周囲を見て呟く。
「……救世主の再誕の日なのだから、皆外に居るんじゃないのか」
バロンがそう言うと同時に、再び轟音が響き、そしてカテドラル全体が激しく揺れる。
「尋常じゃないわ、これ……!」
エリアルがそう言い、昇降機へ走る。二人もそれについていく。
「……動くのか」
「昨日と同じように上に行くわよ!」
三人は同じようにシャフトの中を壁を伝って登っていく。
カテドラル最上層・アポカリプスカルディナ
一行は走って扉を開け、花畑があった部屋に入る。同時にシンが吹き飛んできて、バロンがそれを受け止める。
「……大丈夫か」
「あ……あ……」
「……何があった」
シンはゆっくりと腕をあげ、指を前方へ向ける。一行が前方を見ると、救世主の遺体から尋常ならざる雷が涌き出ていた。
「あれがここの九竜……!」
エリアルの言葉に呼応するように、雷の竜がカテドラルの天井を突き破って顕現する。
「哀れなものよ。人間が自らの手で勝ち取った可能性を、自らの手で神などという低俗なものに委ねるとは」
竜が首をもたげる。
「我は迅雷の真竜。デベヘルン・ハリネル。神の三つの罪が一、幻想を司るものなり」
一行はハリネルを見上げる。
「星の煌めきが、暗黒の合唱が、神の幻想を褒め称え、そして人類は更に弱体化していく」
ハリネルが体から激しい雷光を滾らせ、カテドラルの壁が消し飛ぶ。そこから見える周囲の景色は、昨日までの青空とは異なり、この世の終わりのように暁闇が広がっていた。空の向こうから蝙蝠の翼を生やした細身の何かの大群がやってくるのが見える。
「まずいわね」
エリアルがその大群を見て呟く。
「……どういうことだ」
「昨日見たメシア教の聖書によれば――」
続きを言う前に、シンが口を開く。
「神の裁き訪れしとき、あらゆる悪徳が目覚め、神に抗う。だが神は、光の矢で全ての敵を撃ち抜き焼き尽くす」
メイヴが続く。
「妙なところで小賢しいのね、九竜って」
ハリネルが一行を見下ろす。
「そうだ。我がここを選んだのは、その愚かなドグマのお陰だ。聖書にある光の矢、それは荒れ狂う天から降り注ぐ雷鳴に他ならない。終末の日に訪れる悪魔をこうして撃ち抜き、焼き滅ぼせば」
メイヴが後ろを見る。砕けた壁の向こうのミレニアムの内側には無数の人間が居り、それらの全てがカテドラルに向けて祈りを捧げていた。
「この状況でどうしてあんなことをしてるのよあいつら!」
エリアルが続く。
「決まってるわ。メシア教に助けを求めたのだから、その教えに従って、九竜が操ってるとも知らずに祈り続けてるの」
ハリネルが体から雷を迸らせ、カテドラルの形そのものが変容していく。
「我は千年王国に集いし全ての命を以て、我らは始まりの世界に舞い戻るのだ!」
ハリネルは飛び立つ。雷が樹のように分かれ、巨大な構造物となる。シンがバロンの懐から立ち上がる。
「すまない、君たち……奴を追ってくれないか。私も協力する」
バロンはエリアルの方を見る。
「もちろん構わないわ。タンガロアではオリネンモに遅れを取ったけど、今度は……!」
エリアルが雷の道へ駆け出し、三人もそれに続いた。
「誰もいないわね……」
メイヴが周囲を見て呟く。
「……救世主の再誕の日なのだから、皆外に居るんじゃないのか」
バロンがそう言うと同時に、再び轟音が響き、そしてカテドラル全体が激しく揺れる。
「尋常じゃないわ、これ……!」
エリアルがそう言い、昇降機へ走る。二人もそれについていく。
「……動くのか」
「昨日と同じように上に行くわよ!」
三人は同じようにシャフトの中を壁を伝って登っていく。
カテドラル最上層・アポカリプスカルディナ
一行は走って扉を開け、花畑があった部屋に入る。同時にシンが吹き飛んできて、バロンがそれを受け止める。
「……大丈夫か」
「あ……あ……」
「……何があった」
シンはゆっくりと腕をあげ、指を前方へ向ける。一行が前方を見ると、救世主の遺体から尋常ならざる雷が涌き出ていた。
「あれがここの九竜……!」
エリアルの言葉に呼応するように、雷の竜がカテドラルの天井を突き破って顕現する。
「哀れなものよ。人間が自らの手で勝ち取った可能性を、自らの手で神などという低俗なものに委ねるとは」
竜が首をもたげる。
「我は迅雷の真竜。デベヘルン・ハリネル。神の三つの罪が一、幻想を司るものなり」
一行はハリネルを見上げる。
「星の煌めきが、暗黒の合唱が、神の幻想を褒め称え、そして人類は更に弱体化していく」
ハリネルが体から激しい雷光を滾らせ、カテドラルの壁が消し飛ぶ。そこから見える周囲の景色は、昨日までの青空とは異なり、この世の終わりのように暁闇が広がっていた。空の向こうから蝙蝠の翼を生やした細身の何かの大群がやってくるのが見える。
「まずいわね」
エリアルがその大群を見て呟く。
「……どういうことだ」
「昨日見たメシア教の聖書によれば――」
続きを言う前に、シンが口を開く。
「神の裁き訪れしとき、あらゆる悪徳が目覚め、神に抗う。だが神は、光の矢で全ての敵を撃ち抜き焼き尽くす」
メイヴが続く。
「妙なところで小賢しいのね、九竜って」
ハリネルが一行を見下ろす。
「そうだ。我がここを選んだのは、その愚かなドグマのお陰だ。聖書にある光の矢、それは荒れ狂う天から降り注ぐ雷鳴に他ならない。終末の日に訪れる悪魔をこうして撃ち抜き、焼き滅ぼせば」
メイヴが後ろを見る。砕けた壁の向こうのミレニアムの内側には無数の人間が居り、それらの全てがカテドラルに向けて祈りを捧げていた。
「この状況でどうしてあんなことをしてるのよあいつら!」
エリアルが続く。
「決まってるわ。メシア教に助けを求めたのだから、その教えに従って、九竜が操ってるとも知らずに祈り続けてるの」
ハリネルが体から雷を迸らせ、カテドラルの形そのものが変容していく。
「我は千年王国に集いし全ての命を以て、我らは始まりの世界に舞い戻るのだ!」
ハリネルは飛び立つ。雷が樹のように分かれ、巨大な構造物となる。シンがバロンの懐から立ち上がる。
「すまない、君たち……奴を追ってくれないか。私も協力する」
バロンはエリアルの方を見る。
「もちろん構わないわ。タンガロアではオリネンモに遅れを取ったけど、今度は……!」
エリアルが雷の道へ駆け出し、三人もそれに続いた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
じい様が行く 「いのちだいじに」異世界ゆるり旅
蛍石(ふろ~らいと)
ファンタジー
のんびり茶畑の世話をしながら、茶園を営む晴太郎73歳。
夜は孫と一緒にオンラインゲームをこなす若々しいじい様。
そんなじい様が間違いで異世界転生?
いえ孫の身代わりで異世界行くんです。
じい様は今日も元気に異世界ライフを満喫します。
2日に1本を目安に更新したいところです。
1話2,000文字程度と短めですが。
頑張らない程度に頑張ります。
ほぼほぼシリアスはありません。
描けませんので。
感想もたくさんありがとうです。
ネタバレ設定してません。
なるべく返事を書きたいところです。
ふわっとした知識で書いてるのでツッコミ処が多いかもしれません。
申し訳ないです。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる