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三千世界・時諦(6)

第三話 「セックス・ヴァレット」

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 無明桃源郷シャングリラ 第一期次元領域終着点
〝焦げた妄人〟の昇華された情報で形作られたキューブに腰掛け、アルメールが遠くを眺めている。
「全く恐ろしい女だ」
 アルメールは握りしめた手を開く。そこには、ストラトスがシエルに渡したものと同じ指輪が置かれていた。
「俺と同じで、君も一切後悔をしないってことか。だが……俺に渡したらあの少年が可哀想だろう」
 指輪を小箱に入れ、懐に戻す。と、背後からの気配を感じてアルメールは立ち上がり、振り返る。
「おや、アレクセイ。君が俺に会いに来るとは嬉しいね」
 アレクセイはマントを払い、腕を組む。
「汝から狐の臭いがする。また身を汚してきたのか」
「あいつとお互いに汁まみれになるのは死ぬほど興奮するんでね。それよりこいつを見てくれよ」
 アルメールは小箱をアレクセイに投げ渡す。アレクセイがそれを開け、指輪を取り出す。
「ふむ、エンゲージリングか。汝は狐にこれを?」
「いいや。グラナディアから貰ったのさ。元はグラナディアがあの少年から貰ったものだがね」
 小箱を閉じ、アルメールへ投げ返す。
「少年曰く、シンプルで戦闘の邪魔にならないやつを買ったつもりらしいぜ。それが婚約指輪たぁ、流石はレイヴンの息子だ」
「汝は狐に化かされたのではなかったか」
「うん?ああ、一回だけ読み負けたな。だが、そこがいいだろう?俺を翻弄してくるのがたまらなく勃つんだよ」
「そうか……汝は次の任があるだろう。あまり力を使うなよ」
「わかってるさ」
 アレクセイは立ち去り、アルメールはまたキューブに座る。
「まあ、少しくらいは俺もあの世界に干渉するがね……」

 セレスティアル・アーク
 引き続き犬のインベードアーマーのシフルと、セレナが二人で廊下を歩いている。
「シフル、アルバを捕まえたわ」
「そうか。では、やるべきことをしよう」
 セレナは立ち止まる。
「シフル」
 シフルはその声に立ち止まり、セレナを見上げる。
「どうした?」
 セレナはシフルの前でしゃがみ、視線を合わせる。
「む……なんだ、急に」
「もうすぐこの物語は佳境を迎えるわ」
「あ、ああ。そうだな」
 セレナの澄んだ瞳を見て、心の中を見透かされるような感覚にシフルは陥る。
「つまり、あなたとの時間も終わってしまう」
「う、うむ……」
 シフルが視線を逸らそうとすると、セレナはその頭を両手で持って自分の方へ向かせる。
「セ、セレナ……?」
「あなたは自分の元々の体を持ってきてる?」
「も、持ってきている」
「そう。なら、今その姿に戻ってくれない?」
「なぜだ……?」
 セレナは自分の下腹部を指差す。
「後は察して」
 シフルは予想外すぎるその答えに混乱し、後退して壁に激突する。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ……少々思考回路が狂ってしまった。えーっと……私は経験がないのだが、それでいいだろうか……」
「ええ、構わないわ」
「えー、では、こほん。準備をしてくる」
 シフルは廊下を歩いていった。
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