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三千世界・終幕(5)

バロン編 第七話

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 狭域次元門
 青い光の中を進みながら、バロンが呟く。
「……次元門はもう当分は入りたくないな。エメルのことを思い出すと、また戦いたいとは全く思わない」
 暫しの沈黙のあと、エリアルが口を開く。
「バロン、それでさ」
「……どうした?」
「いやさ……」
「……話は後だ、エリアルッ!」
「へ?」
 と同時に殺気を感じたバロンがエリアルを抱いて上からの攻撃を躱す。巨大な緑色の竜が眼前を通り過ぎていく。そして二人はその竜の尾に絡め取られ、次元門の底へ引きずり込まれる。
「……またこれか!」
 抵抗するが、竜の力は想像以上に強く、強引に引き込まれる。

 次元門・底部
 二人は慣れた手つきで着地する。
「……次は誰だ」
 呆れ気味にバロンは前を見る。竜の背から降りた白髪の少女が、二人を見つめていた。
「げぇ……今日は厄日だわ……」
 その姿を捉えたエリアルがため息をつく。白髪の少女は非常に落ち着いたシフルを体から放っていた。
「シマエナガ、よく生きてたわね」
 エリアルのその声に、白髪の少女は露骨に不快感を表す。
「当然……あなたは彼の傍にいるのに相応しくない」
「ハッ、エメルといいあなたといい、ずいぶんとしつこい女ね」
「泥棒から自分のものを取り返すのは当然……さっきのエメルの戦いでようやく居場所を見つけたよ、マスター」
 シマエナガはエリアルを無視してバロンへ話しかける。
「……悪いが、僕は君が誰なのか全くわからない。……なあエリアル、僕は一体何をしたんだ?どうしてみんな僕を目の敵にして来る?」
 バロンが小声でエリアルに話しかける。
「あー……いや、えーっとねぇー……今のあなたが思っているより圧倒的に拗れた人間関係の中を生きてきたと思ってくれれば今はいいかも……」
「……はぁ」
 バロンのため息に、シマエナガは持っていたエリアルと同じ杖を強く抱き締める。
「今、マスターをその女の呪縛から解き放ちます……!アレクシア!」
 緑色の竜がシマエナガを取り囲むように現れ、咆哮と共に強烈な風を巻き起こす。
「……逃げるぞ、エリアル!」
「もちろん。こいつはエメルほど強力じゃないわ。気流くらいなら操れるでしょうけど、強引に突破できる!」
 バロンが竜化し、エリアルを抱えて飛び上がる。
「なっ……逃がさないっ!」
 シマエナガはアレクシアに飛び乗り、黒鋼目掛けて突進する。アレクシアの口から吐き出された風の塊を躱し、黒鋼の懐にいるエリアルはシフルに干渉して上昇気流を産み出す。それに気付いたシマエナガにより、アレクシアが下降気流を生み出して相殺しようとするが、黒鋼の闘気で二人は光と化し、下降気流に負けることなく底部から脱出する。

 狭域次元門
 元の流れに戻ってきた黒鋼はそのままスピードを落とすことなく次元門の先へ進む。遅れて現れたアレクシアは猛追するが、シマエナガがその動きを止めさせる。
「待って。本当に今のマスターは記憶を失っているみたい。あの姿は手加減されたのか、あれしかまだ変身できないのか……どちらにせよ、私たちがここに来たのは時期尚早。帰ろう、アレクシア」
 アレクシアは頷き、次元門の彼方へ飛び去っていく。
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