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三千世界・黒転(3)

後編 第四話

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 エレイアール山地
 門番の巨竜が機械仕掛けの巨竜を抑え込んでいるが、それでも熱線が人々に被害を出している。しかし、黒髪の少女が現れ、機械仕掛けの巨竜を鎖で縛り上げて神都から力ずくで引き剥がす。続けて銀髪の少女が双剣を振るい、機械仕掛けの巨竜の翼を一つ切り落とす。
「やるじゃない、アルバ。それでこそだわ」
 銀髪の少女がグッと親指を立てる。
「そんなこと……ない……です……セレナちゃんが強いから……」
 アルバは照れ臭そうにする。機械仕掛けの巨竜は息を吹き返し、二人に向けて熱線を放つ。しかしそれは、鎖の防壁に弾かれ、巨竜のもう片方の翼も赤い粒子を纏った斬擊で切り落とされる。
「何が……」
 セレナが驚いていると、後方から続々と人間が現れる。
「ロータ、お兄ちゃん!私とミリルちゃんとアリアちゃんで援護するよ!」
 リータが叫び、レイヴンは頷く。レイヴンは融合竜化状態で翼を広げ、虫の息の機械仕掛けの巨竜を赤い闘気で押し潰す。しかし、ほぼスクラップ状態でもまだ機械仕掛けの巨竜は動こうとする。
「そこの女……私があいつの上を縛るから……お前は下」
 ロータがアルバの頬を小突く。
「えっと……わかりました……」
 二人が同時に鎖を放ち、巨竜を拘束する。
「ファイアー!」
 アリアが榴弾砲を発射し、ミリルがゴーグルを付ける。
「アリアさん、もっと左です!コアを破壊しない限り、あれは壊れません!」
「了解なのです!」
 アリアは巨大なスナイパーライフルを召喚し、それを発射する。鎖の戒めを巨竜は解こうと暴れまわるが、リータの魔法で強化された二人分の鎖が、巨竜を繋ぎ止める。アリアの放った大口径の銃弾が巨竜の胸部装甲を貫きのコアを露出させる。
「止めだ!」
 レイヴンがコアへ長剣を差し込み、思いっきり引き抜く。崩れ落ちようとする巨竜を再び闘気で押し潰し、木っ端微塵になって消える。レイヴンは竜化を解き、リータたちの前に降りる。
「余裕だったな。おい、そこの二人!」
 レイヴンはセレナとアルバを呼ぶ。
「君らが相手してくれたお陰で間に合った。ありがとな」
 セレナとアルバが顔を見合わせる。
「別にいいわ。あのままだと被害が出るから放っておけなかっただけよ」
「えと……まあ……そういう……ことです……」
 二人は踵を返し、神都へと去っていく。門番の巨竜が近付き、レイヴンを舐める。
「うおっ!?」
「感謝する、人間よ。汝より感ぜしは無明の闇の力。しかし汝は己の力に溺れずその力で人々を助けた。無上の感謝をここに」
 巨竜は流暢にそう語ると、深く礼をする。人々の先導をしていたエルデとマイケルが、そこに戻ってくる。
「ご主人様、難民の皆様に被害はないようです」
「おう、ご苦労さん。よし、取り敢えず一安心だ。あの搭に行くぞ」
 その場を離れようとするレイヴンたちに、セレナとアルバは近寄る。
「私たちも行くわ。大僧正には私たちも用があるし、あちらも私たちに用があるだろうしね」
「勝手について来な。俺たちはただ逃げてきただけだからな」

 神都タル・ウォリル カテドラル
 神都の中央の搭の巨大な隔壁を開け、一行は搭の内部へ入る。更にその中央にあるエレベーターへ乗り、最上階へ出る。壁は全面がガラス張りであり、そのガラスの手前にある白い椅子に、先程の少女が座っていた。
「よう来た、レイヴン。人を助けるなどと、つまらんことにお主が時間を割くとは誤算じゃったぞ」
「あんたがゼナか?」
 少女は立ち上がり、ローブを脱ぎ捨てる。オレンジ色の美しい長髪と、エメラルドのような輝く緑色の瞳が、異彩を放つ。狐のような耳が僅かに立ち、同じく狐のような尾がゆらりと垂れる。
「いかにも。わしがこのカオス教の大僧正、ゼナじゃ」
「あんた、俺たちがここに来るのがわかってたような登場のタイミングだったな」
「当然じゃろう、お主こそがこの世界で最も重要なピース。お主以外のこの世界の存在などゴミに過ぎない」
「へえ、そうかい。あんたは次元門を開いて何をするつもりなんだ?あんたらの神でも降ろすのか?」
「いいや。お主を竜へと祭り上げるのじゃ。我らが主の力の一端としてな」
「残念ながら、俺は誰かの上に立つのは苦手でね。代わりを探した方がいいぜ?」
 ゼナはガラスへ近寄る。
「誠に遺憾じゃな。真の使命あるものが己の運命を拒絶し、力無き愚物に潰される。間違っているとは思わぬのか」
「俺は使命とか、どうでも―――」
「その通り……」
 レイヴンが言い切るより先に、ロータが口走る。
「ほう、お主が言うか」
「私には……兄様しか居ない……だから……力こそが全てだと……そう思う……」
「なるほどな。力への意志、それがお主にとって最も重要だと」
 ゼナは拍手する。
「それじゃ。我が物とし、支配し、それ以上、より強力にならんとする。それこそが人間に最も必要な意志じゃ。では、お主らに一つ教えてやろう。グランシデアのホルカンが求める、グラナディアの顛末をな」
 ゼナは椅子へ座り直し、くるりと回転させる。
「端的に言えば、シュバルツシルトがホルカンを唆したということじゃ。何せ本物のグラナディアは、既にわしが殺しておる。四十年も前にな。この世界は無数の平行世界に分かれ、僅かな違いを延々と歩み続ける。その中で、全く同じ姿、同じ能力を持って、異なる人生を歩む存在が誰にでも存在する。シュバルツシルトは、その事実をホルカンへ伝えた。そしてホルカンは曲解し、異世界にいる赤の他人を、同じ姿をしているというだけで自らの母だと信じ込んだ」
 ゼナは咳払いをする。
「ところで主ら、あの遺跡のことは知っておろう?クラレティアの遺跡のことじゃ」
「ああ、知ってるぜ。散々な目に遭ったからな」
「お主らは中央ホールでギルガメス、そしてエリナ・シュクロウプと交戦した。じゃが、中央ホールよりも奥には行っておらんじゃろ?なれば、あの遺跡にもう一度行け。でなければホルカンを止めることも、シュバルツシルトを討つことも、わしを黙らせることもできまい」
「断る、と言ったら?」
「ここでゲームオーバーということじゃ」
「ちっ、仕方ねえか」
 レイヴンたちが踵を返し外に出ようとすると、セレナが剣を向ける。
「なんのつもりだ、お嬢さん」
「私たちは身内の尻拭いに来たの。ヴァナ・ファキナの血族を全て滅ぼし、二度と生まれることの無いようにね。レイヴン・クロダ。ここで死んでもらうわ」
 セレナはもう片方の剣を抜き、構える。
「コルンツの呪われた血筋諸共に、死ね!」
「なるほどな、どうやら俺の命がご所望らしい。そう簡単にやるつもりはないけどな」
 レイヴンは長剣を抜き放つ。
「この世界のあんたは双剣使いじゃないのね。まあ、どちらでもいいけど」
 セレナが先に前に出て、右手に持つ長剣で切りかかる。レイヴンも素直に長剣で迎え撃つ。
「それで、俺がどうして殺されなきゃならねえんだ?君も次元門を開きたいってやつか?」
「これから死ぬ人に語る言葉はないわね」
 セレナの蹴りがレイヴンの脇腹を掠り、レイヴンが具足に変えた長剣で回し蹴りを放つ。左手に持つ短剣でセレナはそれを防ぎ、翻りつつ長剣で切り上げる。レイヴンは後退しつつ魔力の剣を置き、セレナはジャンプして魔力の剣を躱す。そして体を捻り横に回転して切り下ろしつつ着地する。レイヴンは魔力の壁で防ぎ、溜まった衝撃を一気にセレナへ放つ。セレナはその衝撃波を拳を床に付ける動作で姿勢を低くして躱し、連続蹴りで浮かび上がりつつレイヴンを打ち上げる。そしてそのまま右足を前に出して蹴りを放ち、レイヴンを床に叩きつける。すぐにレイヴンは起き上がり、セレナの追撃を防ぐ。
「動くな!」
 セレナは長剣をブーメランのように投げ付け、わざとレイヴンに弾かせ、それを取り戻しつつ渾身の突きを放つ。レイヴンも同じように突きを放ち、切っ先がぶつかり合って互いに後ろに飛ばされてふらつく。
「俺のは我流のはずなんだがな」
「あんたが知らないだけで、私は生まれる前からあんたを知っているもの」
 セレナは剣を納め、闘気の壁を作り出す。
「果てろ!」
 そして竜化し、レイヴンの真上に瞬間移動して長剣で切り下ろし、躱したレイヴンへ高速の突きを放つ。レイヴンはアタッシュケースで弾き、それをショットガンへ変えてセレナに放つ。セレナもまた魔力の剣を瞬時に密集させてその弾丸を全て弾き、魔力の剣を自分の左右に規則正しく並べ、レイヴンへ射出する。レイヴンも同じだけの魔力の剣で迎え撃つ。セレナはまた頭上へ瞬間移動し、切り下ろす。単調にそれだけを幾度も繰り返し、レイヴンの反撃が来た瞬間に長剣をブーメランのように投げ付け、その迎撃にレイヴンが気を取られた瞬間、セレナはレイヴンにドロップキックをぶつけて吹き飛ばす。セレナの竜化が解ける。
「まるで鏡写しだな」
「鏡写し……子が親に似るのなら、それが正しい表現ね。あんたを殺したいわけではないわ。むしろ、ここで止めるべきは叔母さん……ロータ・コルンツだから。まずあんたを殺し、彼女の執着を絶つ!」
 レイヴンが起き上がり、セレナ越しに皆を見る。
「おい待て、ロータとアルバはどこに行った」
「……?」
 セレナは振り返る。リータたちも周囲を見回すが、ロータとアルバの姿はない。
「しまっ……い、いや。私はお母さんとは違う……へまをしても、すぐに挽回すれば大丈夫なはず!」
 セレナは駆け出し、エレベーターに飛び乗る。
「クソッ、セレナを追うぞ、みんな!」
「待つのじゃ、レイヴン!」
 ゼナが呼び止める。
「わしも連れて行け。あの遺跡の仕掛けには少々心得があるのでな」
「……。いいぜ、さっさと来い」
「よし。ではこちらへ来い。エレベーターなぞ使わんでも、ここから飛び降りれば良いのじゃ」
 ゼナが手を上げると、後ろの窓ガラスが開く。そしてゼナは飛び出し、竜化する。
「わしの背に乗せてやろう」
 レイヴンたちはゼナに飛び乗り、カテドラルを一気に下る。
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