80 / 568
三千世界・黒転(3)
前編 第十三話
しおりを挟む
トップスシティ コルンツ家
カーテンの隙間から朝日が射し込んできて、レイヴンとロータは目を覚ます。
「おはよう……兄様」
「ああ、おはよう。さてと、今日は理事長サマんところに行くぞ。みんなを起こしに行こうぜ」
「うん」
そしてリビングに全員が揃い、簡易的な朝食を摂る。
「私はどうすれば……」
アーシャが呟き、レイヴンが頭を捻る。
「普通に返していいもんかねえ。お嬢さんの傷は癒えてねえだろ?医療系の魔法使えるやつはいるか?」
その場に居る全員が首を横に振る。
「父上はどういうつもりかはわかりませんが、姉上と兄上は私が傷付くことも計算の内のはずです。でも、私は……レイヴンさんと一緒に居たいです」
「ほう?こんな辺境のならず者とお姫様が一緒に冒険を続けるってか?」
アーシャは真っ直ぐレイヴンを見つめる。
「わかったわかった。ついて来たいなら来ればいいだろ。どうせこの仕事の最後に首が飛ぶわけだしな」
レイヴンは笑いながら言うが、他の誰一人として笑っていない。
「ま、とにかく出掛けるんだから着替えて来いよ、アーシャ、ミリル。リータとロータの使ってない服とかあるだろ」
ミリルがロータを引っ張り、アーシャと共に二階へ上がっていった。
「マイケル、ありがとな」
「へ?俺何かしたッスか?」
「俺が居ない間リータを守ろうとしてくれたことだよ」
「い、いや!礼を言われるほどのことじゃないッス。実際守れなかったし、俺なんか全然ダメッスよ!」
「それでもだ。素直に感謝しとけ」
しばらくして、三人が降りてくる。ロータはいつも通りの制服で、ミリルはオーバーオールで、アーシャは赤いカーディガンにホットパンツ、薄汚れたキャップを身に付け、髪を後ろで纏めていた。
「ずいぶんおめかししたな、お嬢さん」
アーシャの頭をポンポンしながら、レイヴンは笑う。
「お嬢さんではありません。似合っているでしょうか」
「いいんじゃないか?俺にはよくわからんが」
「そうですか……」
「ま、とにかく行こうぜ」
気のない反応をしたアーシャを余所に、レイヴンは玄関へ向かった。
グランシデア王立学園 理事長室
レイヴンが乱雑に扉を開け、シュバルツシルトの前の机に資料とPDAを放り投げる。
「そいつが戦利品だ、理事長サマ」
皮肉たっぷりに言い放つが、シュバルツシルトは微笑むだけだった。
「ご苦労様、レイヴン君。そんな怖い顔して、何かあったのかな?」
「よく言うぜ。演技派だよ、あんた」
「はて、何のことかな?」
「エリナが言ってた我が王ってのはお前のことなんだろ?俺を試すためだけにあそこまでの長旅をさせたってこった。詰まんねえマネしやがって」
シュバルツシルトは肩を竦め、気の抜けた笑みを浮かべる。
「ま、余りにも露骨だったからね。都合が良すぎるし、タイミングも、私の台詞も、暗喩と言うには余りにもお粗末で、雑なフラグだったと反省しているよ」
「つまりだ、リータを連れ去ったのもお前の命令なんだろ」
「その通り。いつでも彼女を殺せるし、ジャンクヤードに売り払うのもいいかもね」
「ちっ、あんな掃き溜めに女を一人で捨てたらどうなるかぐらい、お前もわかってるだろ」
「もちろん。さて、それはあなた自身の仕事の失敗に繋がるわ。だ・か・ら。もう一仕事してもらうわ」
「ったく、これだから手練れの女は嫌なんだ」
「嬉しいこと言ってくれるわね。おほん」
シュバルツシルトは大袈裟に咳き込み、向き直る。
「次はアルスヴァーグ氷山にある遺跡に行って欲しいの。リグゥとヴェヱダ……その二人がそこを根城にしているらしいから。目障りな観客には消えてもらうわ」
「殺せ、そういうことか?」
「人は等価交換にこそ罪悪感を覚えるものよ。グランシデア王国そのものがアルスヴァーグ氷山とアルバージュ雪谷の丁度中間に位置してるから、昨日より楽でしょう?ほら、義妹の命が惜しいのなら急ぎなさいな。あなたが遅れたら……そうね、ペイルライダーにリータを処断させる、というのも面白いかもしれないわね」
「……。はあ。大した外道だぜ。全く追い詰められてねえな」
「当然でしょう?まだ王の居ない将棋をしてるようなものだもの。盤上に役者が全員揃ってすらいない、不完全な舞台で沸く観客は居ないでしょう?ピエロはあなたなのよ?ならば、主役を立てねばね」
「そうかい。ならせいぜい荒らしてやるよ、あんたの詰め将棋」
「それがキリングジョークになることを願うわね」
「ケッ、どうせあんたのことだ、その遺跡にも大したもんはねえんだろ」
レイヴンは吐き捨てるように鼻で笑うと、他の四人に手で促し出ていった。
「所詮は道化。狂ったように踊ることしかできないわ。面白おかしく、完璧な盤面を荒らしてちょうだい。それこそ、私たちの思う壺なのよ」
シュバルツシルトは珍しく爆笑し、すぐに真顔になる。
「アルヴァナ、あなたの妄執がどれだけの人を、竜を、獣を巻き込んでいるかちゃんと理解している……?人は生まれながらにして六つの罪に苛まれているとは言え、罪あるものを裁くのは罰ではなく、愛なのよ……」
憂いを帯びた瞳で、晴れ渡る空を見上げた。
グランシデア王国 西門
「あんな喧嘩腰で良かったんですか、レイヴンさん」
アーシャが心配そうに呟く。
「いいんだよ、別に。ああいうやつは敬意なんてどうでもいいのさ。そんなもんは自己満足だって理解してる」
「なんか雰囲気悪かったよね」
ミリルがその会話に加わる。
「私たちのことを歯牙にもかけてない感じ」
「実際そうだろうな。俺たちが束になってかかっても傷すら付けられんだろうよ」
レイヴンはやれやれと首を振る。
「与えられた使命には……相応の対価がある……」
ロータが本を閉じ、レイヴンへ近付く。
「兄様……私が絶対に兄様を手に入れるから……次元門の鍵になんて絶対させない……」
「頼りにしてるぜ、ロータ。まあ、無理は禁物だがな。さて行こうぜ、また遺跡探索だ」
一行は門へ向かった。
カーテンの隙間から朝日が射し込んできて、レイヴンとロータは目を覚ます。
「おはよう……兄様」
「ああ、おはよう。さてと、今日は理事長サマんところに行くぞ。みんなを起こしに行こうぜ」
「うん」
そしてリビングに全員が揃い、簡易的な朝食を摂る。
「私はどうすれば……」
アーシャが呟き、レイヴンが頭を捻る。
「普通に返していいもんかねえ。お嬢さんの傷は癒えてねえだろ?医療系の魔法使えるやつはいるか?」
その場に居る全員が首を横に振る。
「父上はどういうつもりかはわかりませんが、姉上と兄上は私が傷付くことも計算の内のはずです。でも、私は……レイヴンさんと一緒に居たいです」
「ほう?こんな辺境のならず者とお姫様が一緒に冒険を続けるってか?」
アーシャは真っ直ぐレイヴンを見つめる。
「わかったわかった。ついて来たいなら来ればいいだろ。どうせこの仕事の最後に首が飛ぶわけだしな」
レイヴンは笑いながら言うが、他の誰一人として笑っていない。
「ま、とにかく出掛けるんだから着替えて来いよ、アーシャ、ミリル。リータとロータの使ってない服とかあるだろ」
ミリルがロータを引っ張り、アーシャと共に二階へ上がっていった。
「マイケル、ありがとな」
「へ?俺何かしたッスか?」
「俺が居ない間リータを守ろうとしてくれたことだよ」
「い、いや!礼を言われるほどのことじゃないッス。実際守れなかったし、俺なんか全然ダメッスよ!」
「それでもだ。素直に感謝しとけ」
しばらくして、三人が降りてくる。ロータはいつも通りの制服で、ミリルはオーバーオールで、アーシャは赤いカーディガンにホットパンツ、薄汚れたキャップを身に付け、髪を後ろで纏めていた。
「ずいぶんおめかししたな、お嬢さん」
アーシャの頭をポンポンしながら、レイヴンは笑う。
「お嬢さんではありません。似合っているでしょうか」
「いいんじゃないか?俺にはよくわからんが」
「そうですか……」
「ま、とにかく行こうぜ」
気のない反応をしたアーシャを余所に、レイヴンは玄関へ向かった。
グランシデア王立学園 理事長室
レイヴンが乱雑に扉を開け、シュバルツシルトの前の机に資料とPDAを放り投げる。
「そいつが戦利品だ、理事長サマ」
皮肉たっぷりに言い放つが、シュバルツシルトは微笑むだけだった。
「ご苦労様、レイヴン君。そんな怖い顔して、何かあったのかな?」
「よく言うぜ。演技派だよ、あんた」
「はて、何のことかな?」
「エリナが言ってた我が王ってのはお前のことなんだろ?俺を試すためだけにあそこまでの長旅をさせたってこった。詰まんねえマネしやがって」
シュバルツシルトは肩を竦め、気の抜けた笑みを浮かべる。
「ま、余りにも露骨だったからね。都合が良すぎるし、タイミングも、私の台詞も、暗喩と言うには余りにもお粗末で、雑なフラグだったと反省しているよ」
「つまりだ、リータを連れ去ったのもお前の命令なんだろ」
「その通り。いつでも彼女を殺せるし、ジャンクヤードに売り払うのもいいかもね」
「ちっ、あんな掃き溜めに女を一人で捨てたらどうなるかぐらい、お前もわかってるだろ」
「もちろん。さて、それはあなた自身の仕事の失敗に繋がるわ。だ・か・ら。もう一仕事してもらうわ」
「ったく、これだから手練れの女は嫌なんだ」
「嬉しいこと言ってくれるわね。おほん」
シュバルツシルトは大袈裟に咳き込み、向き直る。
「次はアルスヴァーグ氷山にある遺跡に行って欲しいの。リグゥとヴェヱダ……その二人がそこを根城にしているらしいから。目障りな観客には消えてもらうわ」
「殺せ、そういうことか?」
「人は等価交換にこそ罪悪感を覚えるものよ。グランシデア王国そのものがアルスヴァーグ氷山とアルバージュ雪谷の丁度中間に位置してるから、昨日より楽でしょう?ほら、義妹の命が惜しいのなら急ぎなさいな。あなたが遅れたら……そうね、ペイルライダーにリータを処断させる、というのも面白いかもしれないわね」
「……。はあ。大した外道だぜ。全く追い詰められてねえな」
「当然でしょう?まだ王の居ない将棋をしてるようなものだもの。盤上に役者が全員揃ってすらいない、不完全な舞台で沸く観客は居ないでしょう?ピエロはあなたなのよ?ならば、主役を立てねばね」
「そうかい。ならせいぜい荒らしてやるよ、あんたの詰め将棋」
「それがキリングジョークになることを願うわね」
「ケッ、どうせあんたのことだ、その遺跡にも大したもんはねえんだろ」
レイヴンは吐き捨てるように鼻で笑うと、他の四人に手で促し出ていった。
「所詮は道化。狂ったように踊ることしかできないわ。面白おかしく、完璧な盤面を荒らしてちょうだい。それこそ、私たちの思う壺なのよ」
シュバルツシルトは珍しく爆笑し、すぐに真顔になる。
「アルヴァナ、あなたの妄執がどれだけの人を、竜を、獣を巻き込んでいるかちゃんと理解している……?人は生まれながらにして六つの罪に苛まれているとは言え、罪あるものを裁くのは罰ではなく、愛なのよ……」
憂いを帯びた瞳で、晴れ渡る空を見上げた。
グランシデア王国 西門
「あんな喧嘩腰で良かったんですか、レイヴンさん」
アーシャが心配そうに呟く。
「いいんだよ、別に。ああいうやつは敬意なんてどうでもいいのさ。そんなもんは自己満足だって理解してる」
「なんか雰囲気悪かったよね」
ミリルがその会話に加わる。
「私たちのことを歯牙にもかけてない感じ」
「実際そうだろうな。俺たちが束になってかかっても傷すら付けられんだろうよ」
レイヴンはやれやれと首を振る。
「与えられた使命には……相応の対価がある……」
ロータが本を閉じ、レイヴンへ近付く。
「兄様……私が絶対に兄様を手に入れるから……次元門の鍵になんて絶対させない……」
「頼りにしてるぜ、ロータ。まあ、無理は禁物だがな。さて行こうぜ、また遺跡探索だ」
一行は門へ向かった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる