74 / 568
三千世界・黒転(3)
前編 第七話
しおりを挟む
神都タル・ウォリル カテドラル
「真滅王龍ヴァナ・ファキナ……それが主に取り付く呪縛の鎧にして、その力の全て……」
ゼナは溜め息をつく。
「はあ。主の願いとは言え、世界を滅亡させるなど……わしが主の心を癒せるのなら、癒してやりたいものじゃが……任務をこなせぬ肉人形など、主は求めておらぬか」
槍をガラスへ向けて投げ、ゼナは立ち上がる。
「さあ、盤面を進めるのじゃ」
グランシデア王立学園・闘技場
レイヴンが再びフィールド内に入ると、他の生徒は居なかった。ただ一人、紫色の髪の少年が立っているだけだ。
「やあ、よく来たね。歓迎するよ、レイヴン・クロダ」
「お前は?」
「僕はエール。ヴァル=ヴルドル・エール。オーレリアの弟、アーシャの兄さ」
「ほう?その割には似てないな、親父にも、二人にも」
「当然だろう?だって僕は君の一部、四つの眷属の一つなんだから」
レイヴンは顔をしかめる。
「なんだ、お前。明らかにあの姉妹と雰囲気が違うぞ」
「そうかい?僕は姉さんやアーシャのことをちゃんと姉だと思っているし、妹だと思っているよ」
「いや、そうかもしれんが……お前からは、それとは関係なく嫌な予感がするぜ」
「それは、傭兵としての勘かい?それとも、個人的な偏見かい?」
「どっちもだ。魂が警告してくるのさ。お前がヤバいやつだってな」
「そうかい」
エールは懐からデバイスを取り出すと、それを左腕に付ける。すると、それから粒子の刃が生まれる。
「君はさっき、おままごとに全力を出すわけにはいかないって言ってたよね?でも僕は、姉さんやアーシャみたいに手加減するのは苦手なんだ。気を抜いたら死ぬから、全力でおいでよ」
レイヴンも背の長剣を抜く。
「ああ、お前から感じるのは目的への殺意じゃねえ。殺すことそのものが目的の殺意だ」
「それじゃあ、始めようか」
エールの目が大きく見開かれる。通り抜ける殺意が、レイヴンの、観客の背を凍りつかせる。そしてエールは影だけを残して、レイヴンの視界すら潜り抜けるほどの瞬速で一撃を加える。鋭い切創が斜めに付けられ、レイヴンは反撃を繰り出す。が、エールは素早い反応で躱し、続く攻撃でレイヴンを突き刺す。
「ぐっ……」
レイヴンは魔力の剣を無数に生み出し、エールの周囲を囲む。それに気を取られたところに、レイヴンの強烈な拳が叩き込まれ、吹き飛んだエールに魔力の剣が向かう。
「手緩いね、レイヴン!」
魔力の剣を足蹴にしながら、更にそれを投げ返す。続けて高速の蹴りを叩き込み、サマーソルトでかち上げる。レイヴンは吹き飛びつつも投げ返された魔力の剣を打ち消し、エールが動くよりも早く長剣を振る。が、予測は外れ、エールが狂気染みた笑いを撒き散らしながら眼前に現れる。
「ざぁ~んねぇ~ん!」
「いや」
「あ?」
レイヴンは素早くエールの顔面に正拳を叩き込む。更に頭を掴んで膝蹴りをぶつけ、何度も殴打する。止めに地面へ叩きつけ、長剣を構えて急降下する。エールは落下と同時に体勢を立て直し、それを迎え撃つ。高速の剣戟は、観客の全員が唖然とするほどの壮絶さである。不意にエールが身を翻し、消え、すぐにその場に戻ってきて刃を放つ。レイヴンの魔力の剣で弾かれてエールは隙を見せ、そのままレイヴンの強烈なボディブローを受ける。エールは吹き飛び、地面を滑る。
「はははッ、楽しいねえ、レイヴン」
恍惚の表情で顔を上げ、エールは笑う。
「いいよ、もっと本気で行こうじゃないか」
エールは力み、力を解き放つ。生きる鎧のような姿へと変貌し、デバイスの剣は氷を纏った大剣へと変化している。
「聖剣、ピシャペリ・カサト。それがこの剣の名前だよ」
レイヴンはおどけて見せ、首を振る。
「とても聖剣を使う見た目には見えないがな。お伽噺の魔王かなんかみたいだぜ?」
レイヴンも竜化し、長剣を構え直す。
「君もヒーローってよりかはヴィランだけどねえ」
エールは瞬間移動を繰り返し、そして強烈な一閃を放つ。レイヴンに弾かれるが、構わず剣戟を重ね、ピシャペリ・カサトが紫光を放つ。そして紫光が限界に達したその瞬間、エールの剣を振る速度が目に見えて加速する。
「お前の戦い方……!」
「そうみたいだね、どうやら」
互いに同一の動きで攻撃を重ね、同じタイミングで力を込めた一撃を放つ。
「同じ戦い方」
二人の声が揃う。
「誰に教わった訳じゃねえんだがなあ」
「いいじゃないか。強者だけに許されたシンパシーってことさ」
「だが他の武器も使わせてもらうぜ」
レイヴンが長剣と共に魔力の剣を追随させ、エールとの剣戟の度に爆裂させてエールを押し返す。エールは一旦距離を取り、ピシャペリ・カサトを叩きつける。強烈な氷の爆発で、レイヴンは打ち上げられる。しかしすぐに空中での制御を取り戻し、エールへ瞬間移動して眼前で突きを放つ。ピシャペリ・カサトの肉厚な刀身に弾かれ、反撃の力任せの一撃を無理な姿勢で防ぎ吹き飛ばされる。
「やるじゃねえか、お前」
レイヴンはすぐに立ち上がる。
「僕と君は実質親族だしね。弱かったら許さないよ」
「へっ、生憎家族は一人しかいなくてね」
「さて、続きを始めよう―――」
二人が構え直した瞬間、両者の中間に槍が突き刺さる。
「そこまで」
その声で一瞬にして静寂が訪れ、観客席から黒い鎧の少女……シュバルツシルトが飛び降りる。
「レイヴン・クロダ、ヴァル=ヴルドル・エール。これは学校行事よ。殺し合うのではなく、勝敗を決するように。いいわね?」
両者は竜化を解き、得物をしまう。
「残念だな、これからが山場だってのに」
レイヴンが手を上げつつ首を振る。
「まあ、この程度のお遊びで決着付けるつもり無いし、いいんじゃない」
エールはすぐに反転する。
「楽しかったよ、レイヴン」
そして手を振りながら、フィールドをあとにした。
「で、理事長サマがこんなところに出てくるってことは、何かあるんだろ?」
シュバルツシルトは頷き、手で招く。レイヴンもそれに従い、フィールドをあとにする。
グランシデア王立学園・理事長室
シュバルツシルトは椅子に座り、くるくると回る。そしてレイヴンが入ってきたのを見て、ピタッと止まる。
「レイヴンくん、あなたは今、ヴルドル王家の依頼を受けて、コルンツの双子を見張っているでしょう?」
「ああ、まあ、そうだな」
「次元門の鍵、としてあなたが召集されていることも知っているわね?」
「もちろん。次元門とやらが何なのかさっぱりだけどな」
「その次元門について、あなたが詳しく知れるチャンスをあげるわ。神都近くの山脈の奥深くにある、古代の遺跡。それはChaos社の遺産であるものなのだけれど」
「Chaos社?神都の宗教はカオス教だろ?」
「ええ。神都を支配しているのはカオス教、大僧正ゼフィルス・ナーデルよ。でもそれとこれとは別。まあ行けばわかるわ。かなり長旅になるけどね」
レイヴンは頭を掻く。
「神都の近くっつっても、エレイアール山地とクラレティア山脈があるだろ」
「クラレティア山脈よ。もっと喜んでいいのよ?レーブル海を通るのだから、美少女の水着を鑑賞できるわ」
「ガキは趣味じゃねえよ。お茶くらいなら是非したいところだがな。別にその仕事をやるのは構わんが、あの双子はどうするんだ」
「リータに関しては私たちが興味があるわ。だから、ロータを、そしてリータの代わりにアーシャを連れていきなさい」
「ほう、またアーシャか」
「マイケルやミリルは同行できないけれど、エリナはアーシャの近衛兵長だから、あなたが望むなら同行させることは出来るけど?」
シュバルツシルトはニヤついている。
「なんでアンタはそんな楽しそうなんだ」
「新鮮な男女がいちゃつくのを想像するのは楽しいからよ」
「まあ、エリナはいい。戦力が増えるのはいいが、それだけ事故要素が増えるからな」
「そう。じゃあ明日の朝、またここに来なさいな」
シュバルツシルトは子供のように椅子で高速回転しながら、一切溢さずに紅茶を飲み干す。ピタッと止まってカップを置くと、それを後方に蹴り上げ、後ろに瞬時に現れたペイルライダーが受け止める。
「王よ、お戯れは程々になされよ」
ペイルライダーを見たレイヴンは、瞬時に臨戦態勢になる。
「てめえは……」
レイヴンの射殺すような視線に、ペイルライダーは動じない。
「私を呪い、憎むのなら、その身に宿した宿命を殺せ。心に致命傷を負ったのなら、両親の幻影に縋るのを止めろ」
「はっ、よく言うぜ。てめえが蒔いた種のクセに俺に説教か?」
「今のお前に求められているのは次元門を導くこと、ただそれだけだ。任務を遂行しろ」
シュバルツシルトがペイルライダーに合図をする。
「申し訳ございません、我が王よ」
そして現れたときと同じように消え去る。
「理事長さんよ、あいつの登場で一気にアンタが怪しくなってきたんだが」
「うふふ……だからと言ってどうすることも出来ないでしょう?あなたの恨みは単純な憤激だけれど、その程度の感情などどこにでも転がっている。問題はそれをどう自分で喰らい尽くし、糧にするかということ。遺跡に行けばわかるわ。あなたの存在の意味、これからの未来の道筋がね」
レイヴンは納得していない様子であるが、仕方なく部屋を出ていく。
「それでペイルライダー。リータとホシヒメはどの程度リンクしているの?」
ペイルライダーは再び現れる。
「完全に断絶されているに等しいようです。ラータの干渉で九竜が分離されてしまっている以上、この世界の終焉のタイミングで融合させるしか無いようですが」
「バロンを真核として世界を産み出す……そのための下準備ね。あの竜を満足させるのはバロンしかいない……一先ず現状はね」
「いやはや、異史もそうですが、杉原明人の詰まらん計画のお陰で、ここまで予定が早まるとは思いませんでしたな」
「空の器、ねえ。エンゲルバインやヴァナ・ファキナも狙っているようだけれど、まあ始源世界への門を開くまで誰も手出し出来ないだろうから無駄な努力よ」
「今は待ちましょう。まずはこの世界を古代世界に繋げなければ」
「真滅王龍ヴァナ・ファキナ……それが主に取り付く呪縛の鎧にして、その力の全て……」
ゼナは溜め息をつく。
「はあ。主の願いとは言え、世界を滅亡させるなど……わしが主の心を癒せるのなら、癒してやりたいものじゃが……任務をこなせぬ肉人形など、主は求めておらぬか」
槍をガラスへ向けて投げ、ゼナは立ち上がる。
「さあ、盤面を進めるのじゃ」
グランシデア王立学園・闘技場
レイヴンが再びフィールド内に入ると、他の生徒は居なかった。ただ一人、紫色の髪の少年が立っているだけだ。
「やあ、よく来たね。歓迎するよ、レイヴン・クロダ」
「お前は?」
「僕はエール。ヴァル=ヴルドル・エール。オーレリアの弟、アーシャの兄さ」
「ほう?その割には似てないな、親父にも、二人にも」
「当然だろう?だって僕は君の一部、四つの眷属の一つなんだから」
レイヴンは顔をしかめる。
「なんだ、お前。明らかにあの姉妹と雰囲気が違うぞ」
「そうかい?僕は姉さんやアーシャのことをちゃんと姉だと思っているし、妹だと思っているよ」
「いや、そうかもしれんが……お前からは、それとは関係なく嫌な予感がするぜ」
「それは、傭兵としての勘かい?それとも、個人的な偏見かい?」
「どっちもだ。魂が警告してくるのさ。お前がヤバいやつだってな」
「そうかい」
エールは懐からデバイスを取り出すと、それを左腕に付ける。すると、それから粒子の刃が生まれる。
「君はさっき、おままごとに全力を出すわけにはいかないって言ってたよね?でも僕は、姉さんやアーシャみたいに手加減するのは苦手なんだ。気を抜いたら死ぬから、全力でおいでよ」
レイヴンも背の長剣を抜く。
「ああ、お前から感じるのは目的への殺意じゃねえ。殺すことそのものが目的の殺意だ」
「それじゃあ、始めようか」
エールの目が大きく見開かれる。通り抜ける殺意が、レイヴンの、観客の背を凍りつかせる。そしてエールは影だけを残して、レイヴンの視界すら潜り抜けるほどの瞬速で一撃を加える。鋭い切創が斜めに付けられ、レイヴンは反撃を繰り出す。が、エールは素早い反応で躱し、続く攻撃でレイヴンを突き刺す。
「ぐっ……」
レイヴンは魔力の剣を無数に生み出し、エールの周囲を囲む。それに気を取られたところに、レイヴンの強烈な拳が叩き込まれ、吹き飛んだエールに魔力の剣が向かう。
「手緩いね、レイヴン!」
魔力の剣を足蹴にしながら、更にそれを投げ返す。続けて高速の蹴りを叩き込み、サマーソルトでかち上げる。レイヴンは吹き飛びつつも投げ返された魔力の剣を打ち消し、エールが動くよりも早く長剣を振る。が、予測は外れ、エールが狂気染みた笑いを撒き散らしながら眼前に現れる。
「ざぁ~んねぇ~ん!」
「いや」
「あ?」
レイヴンは素早くエールの顔面に正拳を叩き込む。更に頭を掴んで膝蹴りをぶつけ、何度も殴打する。止めに地面へ叩きつけ、長剣を構えて急降下する。エールは落下と同時に体勢を立て直し、それを迎え撃つ。高速の剣戟は、観客の全員が唖然とするほどの壮絶さである。不意にエールが身を翻し、消え、すぐにその場に戻ってきて刃を放つ。レイヴンの魔力の剣で弾かれてエールは隙を見せ、そのままレイヴンの強烈なボディブローを受ける。エールは吹き飛び、地面を滑る。
「はははッ、楽しいねえ、レイヴン」
恍惚の表情で顔を上げ、エールは笑う。
「いいよ、もっと本気で行こうじゃないか」
エールは力み、力を解き放つ。生きる鎧のような姿へと変貌し、デバイスの剣は氷を纏った大剣へと変化している。
「聖剣、ピシャペリ・カサト。それがこの剣の名前だよ」
レイヴンはおどけて見せ、首を振る。
「とても聖剣を使う見た目には見えないがな。お伽噺の魔王かなんかみたいだぜ?」
レイヴンも竜化し、長剣を構え直す。
「君もヒーローってよりかはヴィランだけどねえ」
エールは瞬間移動を繰り返し、そして強烈な一閃を放つ。レイヴンに弾かれるが、構わず剣戟を重ね、ピシャペリ・カサトが紫光を放つ。そして紫光が限界に達したその瞬間、エールの剣を振る速度が目に見えて加速する。
「お前の戦い方……!」
「そうみたいだね、どうやら」
互いに同一の動きで攻撃を重ね、同じタイミングで力を込めた一撃を放つ。
「同じ戦い方」
二人の声が揃う。
「誰に教わった訳じゃねえんだがなあ」
「いいじゃないか。強者だけに許されたシンパシーってことさ」
「だが他の武器も使わせてもらうぜ」
レイヴンが長剣と共に魔力の剣を追随させ、エールとの剣戟の度に爆裂させてエールを押し返す。エールは一旦距離を取り、ピシャペリ・カサトを叩きつける。強烈な氷の爆発で、レイヴンは打ち上げられる。しかしすぐに空中での制御を取り戻し、エールへ瞬間移動して眼前で突きを放つ。ピシャペリ・カサトの肉厚な刀身に弾かれ、反撃の力任せの一撃を無理な姿勢で防ぎ吹き飛ばされる。
「やるじゃねえか、お前」
レイヴンはすぐに立ち上がる。
「僕と君は実質親族だしね。弱かったら許さないよ」
「へっ、生憎家族は一人しかいなくてね」
「さて、続きを始めよう―――」
二人が構え直した瞬間、両者の中間に槍が突き刺さる。
「そこまで」
その声で一瞬にして静寂が訪れ、観客席から黒い鎧の少女……シュバルツシルトが飛び降りる。
「レイヴン・クロダ、ヴァル=ヴルドル・エール。これは学校行事よ。殺し合うのではなく、勝敗を決するように。いいわね?」
両者は竜化を解き、得物をしまう。
「残念だな、これからが山場だってのに」
レイヴンが手を上げつつ首を振る。
「まあ、この程度のお遊びで決着付けるつもり無いし、いいんじゃない」
エールはすぐに反転する。
「楽しかったよ、レイヴン」
そして手を振りながら、フィールドをあとにした。
「で、理事長サマがこんなところに出てくるってことは、何かあるんだろ?」
シュバルツシルトは頷き、手で招く。レイヴンもそれに従い、フィールドをあとにする。
グランシデア王立学園・理事長室
シュバルツシルトは椅子に座り、くるくると回る。そしてレイヴンが入ってきたのを見て、ピタッと止まる。
「レイヴンくん、あなたは今、ヴルドル王家の依頼を受けて、コルンツの双子を見張っているでしょう?」
「ああ、まあ、そうだな」
「次元門の鍵、としてあなたが召集されていることも知っているわね?」
「もちろん。次元門とやらが何なのかさっぱりだけどな」
「その次元門について、あなたが詳しく知れるチャンスをあげるわ。神都近くの山脈の奥深くにある、古代の遺跡。それはChaos社の遺産であるものなのだけれど」
「Chaos社?神都の宗教はカオス教だろ?」
「ええ。神都を支配しているのはカオス教、大僧正ゼフィルス・ナーデルよ。でもそれとこれとは別。まあ行けばわかるわ。かなり長旅になるけどね」
レイヴンは頭を掻く。
「神都の近くっつっても、エレイアール山地とクラレティア山脈があるだろ」
「クラレティア山脈よ。もっと喜んでいいのよ?レーブル海を通るのだから、美少女の水着を鑑賞できるわ」
「ガキは趣味じゃねえよ。お茶くらいなら是非したいところだがな。別にその仕事をやるのは構わんが、あの双子はどうするんだ」
「リータに関しては私たちが興味があるわ。だから、ロータを、そしてリータの代わりにアーシャを連れていきなさい」
「ほう、またアーシャか」
「マイケルやミリルは同行できないけれど、エリナはアーシャの近衛兵長だから、あなたが望むなら同行させることは出来るけど?」
シュバルツシルトはニヤついている。
「なんでアンタはそんな楽しそうなんだ」
「新鮮な男女がいちゃつくのを想像するのは楽しいからよ」
「まあ、エリナはいい。戦力が増えるのはいいが、それだけ事故要素が増えるからな」
「そう。じゃあ明日の朝、またここに来なさいな」
シュバルツシルトは子供のように椅子で高速回転しながら、一切溢さずに紅茶を飲み干す。ピタッと止まってカップを置くと、それを後方に蹴り上げ、後ろに瞬時に現れたペイルライダーが受け止める。
「王よ、お戯れは程々になされよ」
ペイルライダーを見たレイヴンは、瞬時に臨戦態勢になる。
「てめえは……」
レイヴンの射殺すような視線に、ペイルライダーは動じない。
「私を呪い、憎むのなら、その身に宿した宿命を殺せ。心に致命傷を負ったのなら、両親の幻影に縋るのを止めろ」
「はっ、よく言うぜ。てめえが蒔いた種のクセに俺に説教か?」
「今のお前に求められているのは次元門を導くこと、ただそれだけだ。任務を遂行しろ」
シュバルツシルトがペイルライダーに合図をする。
「申し訳ございません、我が王よ」
そして現れたときと同じように消え去る。
「理事長さんよ、あいつの登場で一気にアンタが怪しくなってきたんだが」
「うふふ……だからと言ってどうすることも出来ないでしょう?あなたの恨みは単純な憤激だけれど、その程度の感情などどこにでも転がっている。問題はそれをどう自分で喰らい尽くし、糧にするかということ。遺跡に行けばわかるわ。あなたの存在の意味、これからの未来の道筋がね」
レイヴンは納得していない様子であるが、仕方なく部屋を出ていく。
「それでペイルライダー。リータとホシヒメはどの程度リンクしているの?」
ペイルライダーは再び現れる。
「完全に断絶されているに等しいようです。ラータの干渉で九竜が分離されてしまっている以上、この世界の終焉のタイミングで融合させるしか無いようですが」
「バロンを真核として世界を産み出す……そのための下準備ね。あの竜を満足させるのはバロンしかいない……一先ず現状はね」
「いやはや、異史もそうですが、杉原明人の詰まらん計画のお陰で、ここまで予定が早まるとは思いませんでしたな」
「空の器、ねえ。エンゲルバインやヴァナ・ファキナも狙っているようだけれど、まあ始源世界への門を開くまで誰も手出し出来ないだろうから無駄な努力よ」
「今は待ちましょう。まずはこの世界を古代世界に繋げなければ」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる