上 下
29 / 568
三千世界・竜乱(2)

プロローグ 前編

しおりを挟む
※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

 

   さて、今話したのはWorldB……即ち、ヘラクレスが宙核に頼み込んで作らせた、飽く無き戦いの世界。だが今から話すのは、竜たちが治める竜世界、WorldAにて起きたことだ。

 エラン・ヴィタール
「アミシス」
 砲金色の体に赤いラインの入った体色の竜は、右手側にいる水色の竜人へ話しかける。
「どうかしましたか、アルマ。王龍ボーラスより賜りしこの世界、私たち手で育て上げるんですよ。ねえ?ヤズ、パーシュパタ、アルメール、エリファス」
 ヤズと呼ばれた白竜は、首をもたげる。
「私の未来視は、伝えた方がいいのかね、アルマ」
「適宜」
「了解した」
 それを見て、エリファスと呼ばれた内部から蒼い光が放たれる黒い骸骨竜が動く。
「死者の扱いはどうするのだ」
「狂竜王へ手渡すと事前に決めていただろう」
「そうだが、やはり自分はあやつを信用できない。あの騎士は得体が知れなすぎる。一撃でこの世界を滅ぼしかねない」
「それでもだ。ボーラス様があの騎士の友人である以上、我々に拒否権はない。案ずるな、エリファス。俺たちにはまだ手がある」
「あいわかった」
 アルマはアルメールの方を向く。
「何か意見は、兄者」
「パーシュパタと俺は何もない。お前たちが話を終えたのならそれで終わりだ」
「……」
 パーシュパタは俯いたままだった。
 アルマは翼を広げる。それを合図に、六匹の竜は各々飛び去った。

 竜神の都・創生の社
 一人の老婆が社の縁側で茶を飲んでいる。庭で走り回る少女と、それに翻弄される青年を見ながら。少女は手に持っている虫取網で蝉を捕まえると、老婆のもとへ走ってきた。
「ヤズおばあちゃん!見て見て!」
 少女は満面の笑みだ。
「ホシヒメ、そう鷲掴みにしては可哀想だろう。満足したら、離しておやり」
 ホシヒメは少し口を尖らせる。
「はーい。ねえねえゼル、次はノウンも呼ぼうよ!」
 遅れて戻ってきた青年、ゼルは首を振って断る。
「はぁ、はぁ、まだ遊ぶのか?さっきから走りっぱなしだろ、休もうぜ」
「えー!まだ動き足りないよー!」
 ヤズはホシヒメに話しかける。
「ホシヒメ、ばぁばから一つ頼みがあるんだが、引き受けてくれんか?」
 ホシヒメは蝉を逃がす。
「なになにー?」
「役所に行って、森の警備をしてきてほしいんだよ。何かと物騒でねえ」
「お安い御用だよ!ゼル、いこいこ!」
 ゼルの腕を掴んでぐいぐい進んでいく。
「お、おい!じゃあ長老、失礼しました!」
「ゴーゴー!」
 ヤズは去っていく二人を見ながら微笑んだ。
「私も潮時かね、アルメール。お前が魚《バハムート》を竜《バハムート》へと変えた……それがなければ、今のように竜王種《バハムート》と竜神種《セレスティアル》が争うことはなかったのに」
 立ち上がり、茶飲みを握り潰す。熱せられた茶が節くれだった腕を伝う。
「アミシス……あなたも虚しさしか知らずに、死ぬのかい……」
 ヤズは社の中へ戻っていった。

 ――……――……――
「んぅ……?」
 狐のような耳と尻尾を生やした巫女服の少女がオレンジ色の髪を振り、エメラルドのような瞳を見開く。
「ふむぅ……ここは……トラツグミ」
 少女は視界の無線メニューから一人呼び出す。すぐに青髪のメイドの女が現れる。
『如何なさいましたか、ゼナ様』
「わしのいる世界は今どこじゃ?」
『少々お待ちを。……現在は新生世界にいらっしゃるようですが、worldAへ転送されたはずでは?』
「わしもそのつもりじゃったんじゃが……どうも他の誰かの計画に巻き込まれたようじゃな。新生世界か……それでそれで好都合じゃな。トラツグミ、わしに一つ策がある。主と一緒にDAAへ来てくれ」
『承知致しました。では、用意が完了し次第連絡致します』
 無線は切れた。
「ふむ。わしがここに居るのはまぁよい。レイヴンとリータ、ロータの回収にシフトすればよいだけのじゃ。しかし真に問題なのは、わしが成り代わるはずじゃった水都竜神……そやつがどうなるかじゃ。考えても意味はないかのう。仕事に戻るとするのじゃ」
 ゼナは身長の数倍はある槍を肩に乗せ、歩き始めた。
 ――……――……――

 セナベル空域・暗黒の氷原
「刧火!」
 三つ首の竜がそう叫ぶと、巨大な火球が降り注ぐ。アミシスは赤い片刃を氷へ差し込み、そこから激流を生み、火球を飲む。
 水の都の上空に浮かぶ氷塊の上で、二匹の竜は争っていた。
「アカツキ、どうして攻撃するんですか!」
「それが俺のやるべきことだ。chaos社のために、殺す」
「chaos社?何を言ってるんですか?それがあなたの凶竜としての使命なんですか!?」
「そうだ。使命を果たせぬ凶竜には死しかない。それはわかってるだろ」
「仕方ない……!」
 アカツキは飛ぶ。
「爆雷!」
 雷が荒れ狂い、アミシスを狙う。アミシスは剣で雷を弾きつつアカツキに大量の水と共に剣を叩きつける。
「氷刃!」
 落ちていくアカツキは巨大な氷の刃を何個も射ち出す。それを全て壊し、アカツキに追撃を繰り出す。アミシスの渾身の一撃で空中の氷塊が砕け散る。

 水の都 レリジャス
 二匹の竜は落下し、行政区の湖に着水する。
「アミシス、貴様……」
「どうしてあなたが急いているのか、だいたいわかった。竜王種たちが竜神の都へ進むのか疑問だったけど……これでわかった。ヤズを殺そうとしているのでしょう?」
「その通りだ、アミシス」
「なぜ、あなたがそんなことを」
「使命だからだ」
 アカツキは翼を広げる。
「嵐撃!」
 そして周囲をやたらめったらに風で攻撃を始める。
「止めてください!狙いは私だけのはずです!」
 再びの激流でアカツキを吹き飛ばす。
「どうして街を壊すんですか!」
「必要なことだからだ」
「それも使命なんですか!?」
「そうだ」
「くっ……」
「終わりだ、アミシス。新人類の礎となれ」
 三つ首の全てに力を込める。
「塵界!」
 放たれた光が迸り、辺りを包んでいた夜の闇が吹き飛ぶ。アミシスの体も塵となり、剣は湖に溶けた。
 アカツキは元の姿に―――黒いパーカーと青いホットパンツ姿の少女に―――戻った。
「哀れなり水都竜神。俺は貴様の血を糧に使命を果たす。狂竜王のもとでただただ指を咥えて見ているがいい」
 アカツキは水面を歩いて、行政区の向こうに見える巨大な長方形の物体へ向かった。

 竜神の都
 ホシヒメは思いっきり役所《ギルド》の扉を開けて叫ぶ。
「やっほー!」
 そうしてグングン歩き、一つの窓口の前に陣取る。担当の人間は気にもせず仕事をしている。
「長老に警備の仕事を頼まれたんでしょう」
「そーそー、いつものやつ。よろよろー」
「はい毎度。じゃあ一通り森を見てきてください」
「うぃー!」
 ホシヒメはゼルの腕を鷲掴みにしたまま、役所を出る。そしてそのまま、都の入り口の坂を下り、森へ向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

じい様が行く 「いのちだいじに」異世界ゆるり旅

蛍石(ふろ~らいと)
ファンタジー
のんびり茶畑の世話をしながら、茶園を営む晴太郎73歳。 夜は孫と一緒にオンラインゲームをこなす若々しいじい様。 そんなじい様が間違いで異世界転生? いえ孫の身代わりで異世界行くんです。 じい様は今日も元気に異世界ライフを満喫します。 2日に1本を目安に更新したいところです。 1話2,000文字程度と短めですが。 頑張らない程度に頑張ります。 ほぼほぼシリアスはありません。 描けませんので。 感想もたくさんありがとうです。 ネタバレ設定してません。 なるべく返事を書きたいところです。 ふわっとした知識で書いてるのでツッコミ処が多いかもしれません。 申し訳ないです。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...