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三千世界・竜乱(2)
プロローグ 前編
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※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
さて、今話したのはWorldB……即ち、ヘラクレスが宙核に頼み込んで作らせた、飽く無き戦いの世界。だが今から話すのは、竜たちが治める竜世界、WorldAにて起きたことだ。
エラン・ヴィタール
「アミシス」
砲金色の体に赤いラインの入った体色の竜は、右手側にいる水色の竜人へ話しかける。
「どうかしましたか、アルマ。王龍ボーラスより賜りしこの世界、私たち手で育て上げるんですよ。ねえ?ヤズ、パーシュパタ、アルメール、エリファス」
ヤズと呼ばれた白竜は、首をもたげる。
「私の未来視は、伝えた方がいいのかね、アルマ」
「適宜」
「了解した」
それを見て、エリファスと呼ばれた内部から蒼い光が放たれる黒い骸骨竜が動く。
「死者の扱いはどうするのだ」
「狂竜王へ手渡すと事前に決めていただろう」
「そうだが、やはり自分はあやつを信用できない。あの騎士は得体が知れなすぎる。一撃でこの世界を滅ぼしかねない」
「それでもだ。ボーラス様があの騎士の友人である以上、我々に拒否権はない。案ずるな、エリファス。俺たちにはまだ手がある」
「あいわかった」
アルマはアルメールの方を向く。
「何か意見は、兄者」
「パーシュパタと俺は何もない。お前たちが話を終えたのならそれで終わりだ」
「……」
パーシュパタは俯いたままだった。
アルマは翼を広げる。それを合図に、六匹の竜は各々飛び去った。
竜神の都・創生の社
一人の老婆が社の縁側で茶を飲んでいる。庭で走り回る少女と、それに翻弄される青年を見ながら。少女は手に持っている虫取網で蝉を捕まえると、老婆のもとへ走ってきた。
「ヤズおばあちゃん!見て見て!」
少女は満面の笑みだ。
「ホシヒメ、そう鷲掴みにしては可哀想だろう。満足したら、離しておやり」
ホシヒメは少し口を尖らせる。
「はーい。ねえねえゼル、次はノウンも呼ぼうよ!」
遅れて戻ってきた青年、ゼルは首を振って断る。
「はぁ、はぁ、まだ遊ぶのか?さっきから走りっぱなしだろ、休もうぜ」
「えー!まだ動き足りないよー!」
ヤズはホシヒメに話しかける。
「ホシヒメ、ばぁばから一つ頼みがあるんだが、引き受けてくれんか?」
ホシヒメは蝉を逃がす。
「なになにー?」
「役所に行って、森の警備をしてきてほしいんだよ。何かと物騒でねえ」
「お安い御用だよ!ゼル、いこいこ!」
ゼルの腕を掴んでぐいぐい進んでいく。
「お、おい!じゃあ長老、失礼しました!」
「ゴーゴー!」
ヤズは去っていく二人を見ながら微笑んだ。
「私も潮時かね、アルメール。お前が魚《バハムート》を竜《バハムート》へと変えた……それがなければ、今のように竜王種《バハムート》と竜神種《セレスティアル》が争うことはなかったのに」
立ち上がり、茶飲みを握り潰す。熱せられた茶が節くれだった腕を伝う。
「アミシス……あなたも虚しさしか知らずに、死ぬのかい……」
ヤズは社の中へ戻っていった。
――……――……――
「んぅ……?」
狐のような耳と尻尾を生やした巫女服の少女がオレンジ色の髪を振り、エメラルドのような瞳を見開く。
「ふむぅ……ここは……トラツグミ」
少女は視界の無線メニューから一人呼び出す。すぐに青髪のメイドの女が現れる。
『如何なさいましたか、ゼナ様』
「わしのいる世界は今どこじゃ?」
『少々お待ちを。……現在は新生世界にいらっしゃるようですが、worldAへ転送されたはずでは?』
「わしもそのつもりじゃったんじゃが……どうも他の誰かの計画に巻き込まれたようじゃな。新生世界か……それでそれで好都合じゃな。トラツグミ、わしに一つ策がある。主と一緒にDAAへ来てくれ」
『承知致しました。では、用意が完了し次第連絡致します』
無線は切れた。
「ふむ。わしがここに居るのはまぁよい。レイヴンとリータ、ロータの回収にシフトすればよいだけのじゃ。しかし真に問題なのは、わしが成り代わるはずじゃった水都竜神……そやつがどうなるかじゃ。考えても意味はないかのう。仕事に戻るとするのじゃ」
ゼナは身長の数倍はある槍を肩に乗せ、歩き始めた。
――……――……――
セナベル空域・暗黒の氷原
「刧火!」
三つ首の竜がそう叫ぶと、巨大な火球が降り注ぐ。アミシスは赤い片刃を氷へ差し込み、そこから激流を生み、火球を飲む。
水の都の上空に浮かぶ氷塊の上で、二匹の竜は争っていた。
「アカツキ、どうして攻撃するんですか!」
「それが俺のやるべきことだ。chaos社のために、殺す」
「chaos社?何を言ってるんですか?それがあなたの凶竜としての使命なんですか!?」
「そうだ。使命を果たせぬ凶竜には死しかない。それはわかってるだろ」
「仕方ない……!」
アカツキは飛ぶ。
「爆雷!」
雷が荒れ狂い、アミシスを狙う。アミシスは剣で雷を弾きつつアカツキに大量の水と共に剣を叩きつける。
「氷刃!」
落ちていくアカツキは巨大な氷の刃を何個も射ち出す。それを全て壊し、アカツキに追撃を繰り出す。アミシスの渾身の一撃で空中の氷塊が砕け散る。
水の都 レリジャス
二匹の竜は落下し、行政区の湖に着水する。
「アミシス、貴様……」
「どうしてあなたが急いているのか、だいたいわかった。竜王種たちが竜神の都へ進むのか疑問だったけど……これでわかった。ヤズを殺そうとしているのでしょう?」
「その通りだ、アミシス」
「なぜ、あなたがそんなことを」
「使命だからだ」
アカツキは翼を広げる。
「嵐撃!」
そして周囲をやたらめったらに風で攻撃を始める。
「止めてください!狙いは私だけのはずです!」
再びの激流でアカツキを吹き飛ばす。
「どうして街を壊すんですか!」
「必要なことだからだ」
「それも使命なんですか!?」
「そうだ」
「くっ……」
「終わりだ、アミシス。新人類の礎となれ」
三つ首の全てに力を込める。
「塵界!」
放たれた光が迸り、辺りを包んでいた夜の闇が吹き飛ぶ。アミシスの体も塵となり、剣は湖に溶けた。
アカツキは元の姿に―――黒いパーカーと青いホットパンツ姿の少女に―――戻った。
「哀れなり水都竜神。俺は貴様の血を糧に使命を果たす。狂竜王のもとでただただ指を咥えて見ているがいい」
アカツキは水面を歩いて、行政区の向こうに見える巨大な長方形の物体へ向かった。
竜神の都
ホシヒメは思いっきり役所《ギルド》の扉を開けて叫ぶ。
「やっほー!」
そうしてグングン歩き、一つの窓口の前に陣取る。担当の人間は気にもせず仕事をしている。
「長老に警備の仕事を頼まれたんでしょう」
「そーそー、いつものやつ。よろよろー」
「はい毎度。じゃあ一通り森を見てきてください」
「うぃー!」
ホシヒメはゼルの腕を鷲掴みにしたまま、役所を出る。そしてそのまま、都の入り口の坂を下り、森へ向かった。
さて、今話したのはWorldB……即ち、ヘラクレスが宙核に頼み込んで作らせた、飽く無き戦いの世界。だが今から話すのは、竜たちが治める竜世界、WorldAにて起きたことだ。
エラン・ヴィタール
「アミシス」
砲金色の体に赤いラインの入った体色の竜は、右手側にいる水色の竜人へ話しかける。
「どうかしましたか、アルマ。王龍ボーラスより賜りしこの世界、私たち手で育て上げるんですよ。ねえ?ヤズ、パーシュパタ、アルメール、エリファス」
ヤズと呼ばれた白竜は、首をもたげる。
「私の未来視は、伝えた方がいいのかね、アルマ」
「適宜」
「了解した」
それを見て、エリファスと呼ばれた内部から蒼い光が放たれる黒い骸骨竜が動く。
「死者の扱いはどうするのだ」
「狂竜王へ手渡すと事前に決めていただろう」
「そうだが、やはり自分はあやつを信用できない。あの騎士は得体が知れなすぎる。一撃でこの世界を滅ぼしかねない」
「それでもだ。ボーラス様があの騎士の友人である以上、我々に拒否権はない。案ずるな、エリファス。俺たちにはまだ手がある」
「あいわかった」
アルマはアルメールの方を向く。
「何か意見は、兄者」
「パーシュパタと俺は何もない。お前たちが話を終えたのならそれで終わりだ」
「……」
パーシュパタは俯いたままだった。
アルマは翼を広げる。それを合図に、六匹の竜は各々飛び去った。
竜神の都・創生の社
一人の老婆が社の縁側で茶を飲んでいる。庭で走り回る少女と、それに翻弄される青年を見ながら。少女は手に持っている虫取網で蝉を捕まえると、老婆のもとへ走ってきた。
「ヤズおばあちゃん!見て見て!」
少女は満面の笑みだ。
「ホシヒメ、そう鷲掴みにしては可哀想だろう。満足したら、離しておやり」
ホシヒメは少し口を尖らせる。
「はーい。ねえねえゼル、次はノウンも呼ぼうよ!」
遅れて戻ってきた青年、ゼルは首を振って断る。
「はぁ、はぁ、まだ遊ぶのか?さっきから走りっぱなしだろ、休もうぜ」
「えー!まだ動き足りないよー!」
ヤズはホシヒメに話しかける。
「ホシヒメ、ばぁばから一つ頼みがあるんだが、引き受けてくれんか?」
ホシヒメは蝉を逃がす。
「なになにー?」
「役所に行って、森の警備をしてきてほしいんだよ。何かと物騒でねえ」
「お安い御用だよ!ゼル、いこいこ!」
ゼルの腕を掴んでぐいぐい進んでいく。
「お、おい!じゃあ長老、失礼しました!」
「ゴーゴー!」
ヤズは去っていく二人を見ながら微笑んだ。
「私も潮時かね、アルメール。お前が魚《バハムート》を竜《バハムート》へと変えた……それがなければ、今のように竜王種《バハムート》と竜神種《セレスティアル》が争うことはなかったのに」
立ち上がり、茶飲みを握り潰す。熱せられた茶が節くれだった腕を伝う。
「アミシス……あなたも虚しさしか知らずに、死ぬのかい……」
ヤズは社の中へ戻っていった。
――……――……――
「んぅ……?」
狐のような耳と尻尾を生やした巫女服の少女がオレンジ色の髪を振り、エメラルドのような瞳を見開く。
「ふむぅ……ここは……トラツグミ」
少女は視界の無線メニューから一人呼び出す。すぐに青髪のメイドの女が現れる。
『如何なさいましたか、ゼナ様』
「わしのいる世界は今どこじゃ?」
『少々お待ちを。……現在は新生世界にいらっしゃるようですが、worldAへ転送されたはずでは?』
「わしもそのつもりじゃったんじゃが……どうも他の誰かの計画に巻き込まれたようじゃな。新生世界か……それでそれで好都合じゃな。トラツグミ、わしに一つ策がある。主と一緒にDAAへ来てくれ」
『承知致しました。では、用意が完了し次第連絡致します』
無線は切れた。
「ふむ。わしがここに居るのはまぁよい。レイヴンとリータ、ロータの回収にシフトすればよいだけのじゃ。しかし真に問題なのは、わしが成り代わるはずじゃった水都竜神……そやつがどうなるかじゃ。考えても意味はないかのう。仕事に戻るとするのじゃ」
ゼナは身長の数倍はある槍を肩に乗せ、歩き始めた。
――……――……――
セナベル空域・暗黒の氷原
「刧火!」
三つ首の竜がそう叫ぶと、巨大な火球が降り注ぐ。アミシスは赤い片刃を氷へ差し込み、そこから激流を生み、火球を飲む。
水の都の上空に浮かぶ氷塊の上で、二匹の竜は争っていた。
「アカツキ、どうして攻撃するんですか!」
「それが俺のやるべきことだ。chaos社のために、殺す」
「chaos社?何を言ってるんですか?それがあなたの凶竜としての使命なんですか!?」
「そうだ。使命を果たせぬ凶竜には死しかない。それはわかってるだろ」
「仕方ない……!」
アカツキは飛ぶ。
「爆雷!」
雷が荒れ狂い、アミシスを狙う。アミシスは剣で雷を弾きつつアカツキに大量の水と共に剣を叩きつける。
「氷刃!」
落ちていくアカツキは巨大な氷の刃を何個も射ち出す。それを全て壊し、アカツキに追撃を繰り出す。アミシスの渾身の一撃で空中の氷塊が砕け散る。
水の都 レリジャス
二匹の竜は落下し、行政区の湖に着水する。
「アミシス、貴様……」
「どうしてあなたが急いているのか、だいたいわかった。竜王種たちが竜神の都へ進むのか疑問だったけど……これでわかった。ヤズを殺そうとしているのでしょう?」
「その通りだ、アミシス」
「なぜ、あなたがそんなことを」
「使命だからだ」
アカツキは翼を広げる。
「嵐撃!」
そして周囲をやたらめったらに風で攻撃を始める。
「止めてください!狙いは私だけのはずです!」
再びの激流でアカツキを吹き飛ばす。
「どうして街を壊すんですか!」
「必要なことだからだ」
「それも使命なんですか!?」
「そうだ」
「くっ……」
「終わりだ、アミシス。新人類の礎となれ」
三つ首の全てに力を込める。
「塵界!」
放たれた光が迸り、辺りを包んでいた夜の闇が吹き飛ぶ。アミシスの体も塵となり、剣は湖に溶けた。
アカツキは元の姿に―――黒いパーカーと青いホットパンツ姿の少女に―――戻った。
「哀れなり水都竜神。俺は貴様の血を糧に使命を果たす。狂竜王のもとでただただ指を咥えて見ているがいい」
アカツキは水面を歩いて、行政区の向こうに見える巨大な長方形の物体へ向かった。
竜神の都
ホシヒメは思いっきり役所《ギルド》の扉を開けて叫ぶ。
「やっほー!」
そうしてグングン歩き、一つの窓口の前に陣取る。担当の人間は気にもせず仕事をしている。
「長老に警備の仕事を頼まれたんでしょう」
「そーそー、いつものやつ。よろよろー」
「はい毎度。じゃあ一通り森を見てきてください」
「うぃー!」
ホシヒメはゼルの腕を鷲掴みにしたまま、役所を出る。そしてそのまま、都の入り口の坂を下り、森へ向かった。
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