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本編

11.怪獣達の死ぬ所

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 おおおおおおおお。
 おーおーおーおー。
 なるほど。なるほどね。そりゃ、異世界だからね。
 いや、異世界だからってことはないか。地球にだっているかもしれないし。

「ゴースト? あなたはゴーストなのね?」

 アビ、直で聞くかそこ。
 そうーー今俺達の前にいるのは、半透明の体で宙にフラフラ浮いている女の子だった。
 ゴースト、幽霊、お化け。呼び方は様々あるものの、示すところは一緒である。
 見た目としては、子供ではないがまだ大人とも言えない年頃で、腰くらいまである髪の色は全体的に銀色っぽく、肌は青いくらいに白い。そして涼しげな目元と形のいい唇で、とても綺麗な顔立ちだ。
 ちなみに、服は着てない感じだけど、体が全体的に霞んで細部は見えなくなっている。なるほど、そういうタイプね。

「そう、あたしが霊体になってずいぶん経つわ。こうなって何年か……何十年か……ううん、もう何百年かも」

「その間、ずっとここにいたのか?」

 こういう場所にいるのは地縛霊って感じだし、そうかなと思ってつい聞いてしまった。

「うん。ここから離れられないの、そういう風に呪われちゃったから」

「呪い? そう、可哀想に。こんな所に一人でいたなんて、寂しかったでしょう」

 アビはまるで自分が辛いかのように言った。心の底からの言葉だったんだろう。

「ううん、寂しくないよ。だって……一人じゃないもん」

 他にもいるのか? そう言いかけて、俺は驚きのあまり言葉を呑み込んでしまった。
 確かに、他にも幽霊はいた。
 が、それは人間ではなかった(そもそも幽霊は人間かってのは置いといて)。
 おそらく、最初っからそこにいたのだろう。ただ、俺達が気付かなかっただけだーーデカすぎて。
 幽霊少女のはるか上。この空間の天井ぎりぎりと思われる高さに、そいつらの頭はあった。
 怪獣である。怪獣の、幽霊なのである。

「おおおおおお。おーおーおーおー」

 何体も、色々な形の怪獣がいる。鳥みたいなやつ、獣みたいなやつ、その中間みたいなやつ、とにかく一つとして同じ姿はない。
 共通しているのは、とんでもなくデカいってことぐらいだ。

「こ、これは……! イヌイ、どうする?」

「どうするも何も……どうもできないだろ。でも見てみろ、こっちを気にしてる様子はないぜ。危険はないんじゃん?」

 幽霊怪獣の中にはこちらをチラリと見たやつもいるが、すぐに興味なさそうに目を閉じたり視線を逸らしたりした。

「大丈夫、みんないい子だから。それに、霊体は生きてる人に触れないもの。何もできないわ」

 少女は胸を張るようにそう言う。それから、くるりと向きを変えて俺達を手招きした。

「ねえ、こっちに来て。案内するわ。きっと、ここに用があったのでしょ?」

 え、そうなの? アビを見れば、にわかに表情が硬くなっていた。

「行ってみましょ。確かに、ここは私が求めていた場所かもしれない」

 そういえば、何しに来たのか詳しく聞いてなかったので、俺には分からん。てっきり、ユーエスエイを騒がす怪獣を倒すための手ががりになる、なんかの遺跡探しでもするのだとばかり思っていたが。

 幽霊怪獣達の間をすり抜けながら、幽霊少女についていった先には、でっかくて真っ黒な石碑みたいのが立っていた。あー、なんか映画で見たことある、こういうの。

「これでしょ? あなた達の探し物は」

「え、ええ。確認させてもらおうかしら。いい?」

 アビはちょっと緊張しているようで、声が少し震えていた。何か書いてあるのか? でも全体が真っ黒で、そうは見えないな。
 石碑に近づいていったアビが何をするのか見守っていると、なんと彼女は腰のダガーを抜いて、石碑の表面を削り始めた。素材が知りたいのかな?

「……ダメ、硬すぎて削れないわ。伝承通りね。なら、いよいよ本物かもしれない」

 アビはダガーを鞘に収めて息をつく。心なしか声が明るいのは、期待の表れかな。

「でも、となるとどうやって持ち帰ったものかしらね。うーん、困ったわ」

「俺の出番かな? まーかせとけって」

 パーティの仲間が困ってるなら、これを助けずおくべきか、ってね。
 俺は魔剣を抜いて、アビの隣に並ぶ。目の前には闇そのもののような石碑がそそり立っている。

「どこでもいいの?」

「ええ、でもちょっとやそっとじゃムリよ。私のこのダガーだって、皇家に伝わる……あっと」

 今、皇家って言った? アビってお姫様なの? 聞いてないけど。

「それ、後で詳しく。とりあえず、適当にやらせてもらうよ」

 魔剣の刃をを石碑に当て、軽く引いてみる。
 シュッ、と小さな音がして、続いてコトっと何かが落ちた音が響いた。

「……できたね。これでいい?」

「「!!!!????」」

 あれ、アビだけじゃなくて幽霊少女も驚いてる。幽霊少女、さっきから黙ってると思ったら、なんか腹に一物あったのかな。
 足元に転がった石碑の欠片をアビに渡すと、俺は幽霊少女に向き直る。

「ありがと、どうやら俺達の目的は達成できたみたいだ。ところで、君もなんか用があるのかな……俺達に」

 見れば、今や怪獣達の視線が俺達に集中していた。俺、これまでこんなにたくさんの視線を集めたことはない。
 しかもそれが怪獣って。一生に一度っつか、史上初でしょこんなん。

「まさか……本当にコクコンを手に入れられる人がいたなんて……試すようなことをしてごめんなさい。そう、確かに、私達はあなたにお願いしたいことがあるのです。あなたのような人が来るのを、ずっと待ってたの」

 おう、礼には礼で返さなきゃな。
 なんでもやってるぜーーできる範囲で、ですけど。
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