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本編

33.天使狩り3

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 右から左から襲ってくる剣や槍を、俺は最小限の動きで躱していく。
 このくらいなら何人いようが相手にならんな。敵とはいえ、命令に従って襲ってくるだけの兵士を殺すのも忍びない。今は徒手空拳なのも考えようによってはちょうどいい、腹なり顎なりに打撃を与えて気絶させるだけにしといてやる。
 三十人ほどいたのを、あっという間に半分まで減らす。おらおら、キメラでもなんでも出してこんかい。

「役立たずども、何をしているのです! キメラを放ちなさい!」

「し、しかし、今放っては、兵士達まで巻き添えにーー」

「役立たずがどうなろうと知ったことではありません! それより奴を早く殺すのです!」

 おー、はっきり部下を見捨てるって言っちゃったよ。ギョッとした顔になった側近は、それでもメズの言う通りにすることにしたらしい。奥の方の暗がりに走っていき、すぐにそっちから獣の咆哮が聞こえてきた。

「キ、キメラだ! 逃げろ!」

 案の定、まだ律儀に俺を囲んでいた兵士達が散り散りになっていく。
 が、そのうちの一人の身体が、いきなり暗闇の中で宙に持ち上がった。逃げる方向を誤ったらしい。
 どデカイ馬のキメラの口にくわえられたそいつは、断末魔の悲鳴を上げながら牙に食い千切られて死んでしまった。ついてない、かわいそうに。
 現れたキメラは五体。全て馬のタイプで、普通の三倍はあろうかという真っ白い体に翼、加えて草食動物らしからぬ牙と、謎のツノが生えている。
 あれだ、ペガサスとユニコーンを足して更に化け物にしたような感じ。はっきり言ってキモい。センスないな。

「ふははは、どうですか、我々が得た秘術によって生み出されたキメラは。獣の体に天使様のお力が加わったこのモノ達にかかれば、お前などすぐにバラバラです。その死体からゆっくりと、光の腕輪を探してやりますよ。ここまで手をかかずらわせた罰です、楽に死ねると思わないことですね」

 自ら鉄の檻に入って身の安全を確保したメズの遠吠えがやかましい。
 でも、なるほど確かに、前に倒した鹿と牛よりかなり強そうだ。うーん、面倒だから魔剣が欲しいところだけど。どっかにないかな……
 そもそも、見た目は古ぼけた感じだったあの剣を、まだこいつらが持ってるかは分からん。あーくそ、結構気に入ってたんだけどな、アレ。

「あーもう、魔剣よ魔剣、俺の手に帰ってこい……」

 思わず口に出して呟いてしまう。
 ……と、近くにあった馬車の中から、なにやらゴトゴト音がし始めた。
 何かと思っていると、幌を突き破って何かが飛び出してきて、俺の目の前に突き刺さる。

「……魔剣ちゃん? 魔剣ちゃんなの?」

 なんと、それはまごう事なき俺の愛剣だった。呼んだら飛んできてくれるとは……そういえばそういう魔剣の伝説もあったな。こいつにもそんな力があったとは。
 なーんだよー、もっと早く言葉にしとけばよかった。やっば願いは常々口に出さないとな。予言の自己成就って言葉もあることだしさ……これはちょっと違うか。
 ともかく、襲いかかってきたキメラを躱しがてら魔剣を掴んで飛びすさり、久々の感触を確かめて頷く俺。

「うーん、この感じ、やっぱこいつは最高だな。メズよ、後生大事に運んでくれといてありがとよ」

 これでやっと俺も本気を出せる。素手も悪くなかったけど、俺の本分はやっぱ剣士なんだろう。異世界に来たからには、こういうファンタジー感を味わいたいのだ。
 続いて間合いに飛び込んで来た一体の角を、魔剣で受け止める。ここまで徒手空拳でやってきたおかげで、より感覚が鍛えられたな。そこはよかったぜ。

「なかなか速いな、これまでで一番スピードのある攻撃だったかも。でも、まだまだそんなもんじゃ俺はやれないよ」

 鍔迫り合いしていたキメラの角を、剣を軸にくるりと回転させ、バランスを崩させたところで無防備な首筋を斬り裂く。
 さすがは我が愛剣、スパンとなんの抵抗もなくぶっとい首を刎ね飛ばすことができた。
 というか、前より切れ味がだいぶ上がってるような……? もしかして、この前マリードとかイフリートを斬った時に得た魔力でパワーアップしてるとか?
 こんな感じで強くなるんなら、いずれどんな剣になるっていうのか。

「面白い、次、来いよ!」

 と、俺が声をかけるまでもなく、二体同時にキメラが突っ込んでくる。やはり速い、が、さっきとそう変わりゃしない。二匹になった分だけ手間はかかるが、これくらいあってないようなもんだ。

「へい、せい、よ!」

 一体目の角をギリギリでしゃがんで躱してからその足を斬り飛ばし、続いて踏み潰そうとかけてくる二体目に対して直角に剣を突き出し、顎から頭に剣を貫通させる。
 それから、引き抜いた剣を後ろで転けてる一体目の心臓に突き刺して、三体上がり。
 さあ、残り二体。どうしてくれようかね。
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