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本編
28.裏切りの歌
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ハッと目が醒めると、そこは周りを岩壁に囲まれた部屋だった。鉄格子もあるし……ははーん、こりゃ牢屋ですね。名推理。
横を見ると、アビが手を縛られて転がされてる。もちろん俺も同じ状態だ。
いやー、やられた。休憩した時に飲んだお茶、おそらくあれに毒かなんかを盛られたんだな。あの違和感はそういうことだったのだ。
ただ、俺には相当な勘の良さというか、ピンチになると突然舞い降りる閃きがある。これもテクネなんじゃないかと思ってるんだが、あそこでピーンと来なかったのは、なんでだろか。
そんなことを考えていると、コツコツという足音が響いてきた。誰かやってくる。
暗い通路の奥から現れたのは、メズだった。ちょっとイメチェした? 髪型とか雰囲気とか変わってる。なんつーか、嫌な感じに。
予想通りだけど、こいつのせいで今俺達はこんな状況に陥っている。ここから出たらどうしてくれようか!
「気分はいかがです? 小型のベヒモスでも昏倒するほどの毒をかなりの量入れたのですが、これほど早く目醒めてしまうとは、多めにして正解でした」
「せっかくの茶にとんでもないもん入れてくれやがって。まさかアビにもおんなじことしてないだろうな?」
「もちろん、そちらのお嬢さんの毒はもっと少なめです。もっとも、そう簡単に起き上がれるとは思えませんがね」
俺だけ特別警戒してくれてるわけね。こっちの世界に来てから毒なんてほとんど効かない体になってるのに、それでもこんだけ眠らされるなんて、とんでもない毒だったんだ。俺じゃなきゃ死んでるね。
「目的はなんだ? そもそも、お前誰なんだ?」
「目的……ふふ、分かるでしょう? 私がギルドマスターだというのは本当です。しかし、それは表の顔。裏の顔、というより本当の顔は、栄えある白天教会の司教なのですよ」
「白天……なに? 協会? 組合でもやってんのか? 目的もさっぱり分からん」
「教会、です。侮辱は許しませんよ。そして、おとぼけになるのもこれ以上は無駄です」
冷たい雰囲気ながらもそれなりににこやかだったメズの表情が、一気に暗く重々しいものなった。よっぽど教会とやらが大事らしい。
こりゃ、そこを突かない手はないな。
「そう言われても、本当に知らないんだし。後学の為に、おたくらの教義とか教えてよ。そしたら目的もピンとくるかも」
俺がそう言うと、メズはこっちの無知を蔑むような目で見ながら語り出す。それ、もう完全に悪役のあれだぞ。
「我々は太古より、白の魔力とその御業を体現する"天使"にお仕えしてきた使徒です。そしてここイハワ島には、恐れ多くも白の魔力に満ちた腕環が隠されていると伝えられており、長い年月をかけてその在りかを探ってきました。そして最近になってそれが北の洞窟に封印されていると分かり、攻略の準備を進めていたところだったのです。しかし、その間に貴方達が横入りして、しかもあろうことか攻略を果たしてしまいました」
あー、惜しかったね。でも財宝ゲットは早いもん勝ちでしょうが。それが冒険者ってもんなだんだから。
「冒険者ギルドの職員のくせに、横入りとか言ってんじゃないよ。そういうもんだろがい」
「普通の財宝ならばそれでよいでしょう。しかし、こと白の魔力の魔宝に限ってはそんな理屈は通じません。すべからく我々のような敬虔な信者の手にあるべきなのですよ。そのためには、こうした少々荒っぽい手段も許されるというものです」
勝手な理屈をこねるね。時々いるんだよ、こういう奴って。でもな、お前の大事は俺の大事と違うんだよ。そして、俺の大事はお前の大事とも違う。
アビに手を出したこと、許さねえよ?
俺のさっきに気付いたのか、メズが浮ついていた目つきを引き締めてこっちを見る。
「……そんな所から睨みつけても、意味はありませんよ? さあ、栄光の腕輪を出しなさい。貴方が持っているのでしょう? どこに隠しているのですか」
「確かに俺が持ってる。それに、場合によっちゃ譲ってやっても良かったのによ。もうこうなったらおしまいだ。全部、おしまいだ。ぶっ飛ばしてやるから、そこ動くなよ」
立ち上がった俺は、両手を縛っている縄をブチブチっと引きちぎる。
「ひっ⁉︎ 刃物を隠し持っていたのですか? ゴズ、来なさい! ゴズ!」
刃物なんか必要ないっての。この俺をこんなヤワい縄くらいで抑えておけると思ってんのが間違いだ。ちょいと力を込めて引っ張ればこの通りよ。
「メズ様、どうされました……ほほう、もう起き上がってきたとは。どうやら手も自由になっている様子。ここは私にお任せください」
呼びかけに応えて出てきたゴズは、槍を持っている。鉄格子の隙間から突いてくるつもりか?
「オラ、大人しくしろ! 生意気な!」
突きをヒョイっと躱して槍をつかんだ俺は、グッと軽く引っ張って奪い取る。
「むおお⁉︎ ゆ、油断したか。だが、そんな所で槍を持とうが無駄だぞ……? なんだ、なにをする気だ?」
俺は奪ったら槍をぽいっと捨て、素手のまま鉄格子に近づいていく。そして手をかけ、グググっと捻じ曲げて俺が通れるだけの隙間を作る。
「な、なに? 【堅牢】の魔術をかけた鉄をこんな簡単な歪められるわけが……」
あるんだな、これが。
さあ、お前らーー覚悟は出来てんだろな?
横を見ると、アビが手を縛られて転がされてる。もちろん俺も同じ状態だ。
いやー、やられた。休憩した時に飲んだお茶、おそらくあれに毒かなんかを盛られたんだな。あの違和感はそういうことだったのだ。
ただ、俺には相当な勘の良さというか、ピンチになると突然舞い降りる閃きがある。これもテクネなんじゃないかと思ってるんだが、あそこでピーンと来なかったのは、なんでだろか。
そんなことを考えていると、コツコツという足音が響いてきた。誰かやってくる。
暗い通路の奥から現れたのは、メズだった。ちょっとイメチェした? 髪型とか雰囲気とか変わってる。なんつーか、嫌な感じに。
予想通りだけど、こいつのせいで今俺達はこんな状況に陥っている。ここから出たらどうしてくれようか!
「気分はいかがです? 小型のベヒモスでも昏倒するほどの毒をかなりの量入れたのですが、これほど早く目醒めてしまうとは、多めにして正解でした」
「せっかくの茶にとんでもないもん入れてくれやがって。まさかアビにもおんなじことしてないだろうな?」
「もちろん、そちらのお嬢さんの毒はもっと少なめです。もっとも、そう簡単に起き上がれるとは思えませんがね」
俺だけ特別警戒してくれてるわけね。こっちの世界に来てから毒なんてほとんど効かない体になってるのに、それでもこんだけ眠らされるなんて、とんでもない毒だったんだ。俺じゃなきゃ死んでるね。
「目的はなんだ? そもそも、お前誰なんだ?」
「目的……ふふ、分かるでしょう? 私がギルドマスターだというのは本当です。しかし、それは表の顔。裏の顔、というより本当の顔は、栄えある白天教会の司教なのですよ」
「白天……なに? 協会? 組合でもやってんのか? 目的もさっぱり分からん」
「教会、です。侮辱は許しませんよ。そして、おとぼけになるのもこれ以上は無駄です」
冷たい雰囲気ながらもそれなりににこやかだったメズの表情が、一気に暗く重々しいものなった。よっぽど教会とやらが大事らしい。
こりゃ、そこを突かない手はないな。
「そう言われても、本当に知らないんだし。後学の為に、おたくらの教義とか教えてよ。そしたら目的もピンとくるかも」
俺がそう言うと、メズはこっちの無知を蔑むような目で見ながら語り出す。それ、もう完全に悪役のあれだぞ。
「我々は太古より、白の魔力とその御業を体現する"天使"にお仕えしてきた使徒です。そしてここイハワ島には、恐れ多くも白の魔力に満ちた腕環が隠されていると伝えられており、長い年月をかけてその在りかを探ってきました。そして最近になってそれが北の洞窟に封印されていると分かり、攻略の準備を進めていたところだったのです。しかし、その間に貴方達が横入りして、しかもあろうことか攻略を果たしてしまいました」
あー、惜しかったね。でも財宝ゲットは早いもん勝ちでしょうが。それが冒険者ってもんなだんだから。
「冒険者ギルドの職員のくせに、横入りとか言ってんじゃないよ。そういうもんだろがい」
「普通の財宝ならばそれでよいでしょう。しかし、こと白の魔力の魔宝に限ってはそんな理屈は通じません。すべからく我々のような敬虔な信者の手にあるべきなのですよ。そのためには、こうした少々荒っぽい手段も許されるというものです」
勝手な理屈をこねるね。時々いるんだよ、こういう奴って。でもな、お前の大事は俺の大事と違うんだよ。そして、俺の大事はお前の大事とも違う。
アビに手を出したこと、許さねえよ?
俺のさっきに気付いたのか、メズが浮ついていた目つきを引き締めてこっちを見る。
「……そんな所から睨みつけても、意味はありませんよ? さあ、栄光の腕輪を出しなさい。貴方が持っているのでしょう? どこに隠しているのですか」
「確かに俺が持ってる。それに、場合によっちゃ譲ってやっても良かったのによ。もうこうなったらおしまいだ。全部、おしまいだ。ぶっ飛ばしてやるから、そこ動くなよ」
立ち上がった俺は、両手を縛っている縄をブチブチっと引きちぎる。
「ひっ⁉︎ 刃物を隠し持っていたのですか? ゴズ、来なさい! ゴズ!」
刃物なんか必要ないっての。この俺をこんなヤワい縄くらいで抑えておけると思ってんのが間違いだ。ちょいと力を込めて引っ張ればこの通りよ。
「メズ様、どうされました……ほほう、もう起き上がってきたとは。どうやら手も自由になっている様子。ここは私にお任せください」
呼びかけに応えて出てきたゴズは、槍を持っている。鉄格子の隙間から突いてくるつもりか?
「オラ、大人しくしろ! 生意気な!」
突きをヒョイっと躱して槍をつかんだ俺は、グッと軽く引っ張って奪い取る。
「むおお⁉︎ ゆ、油断したか。だが、そんな所で槍を持とうが無駄だぞ……? なんだ、なにをする気だ?」
俺は奪ったら槍をぽいっと捨て、素手のまま鉄格子に近づいていく。そして手をかけ、グググっと捻じ曲げて俺が通れるだけの隙間を作る。
「な、なに? 【堅牢】の魔術をかけた鉄をこんな簡単な歪められるわけが……」
あるんだな、これが。
さあ、お前らーー覚悟は出来てんだろな?
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