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本編

22.悪神討つべし

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 この先で待っているという、悪神。
 名前通り文字通りの神様なのか?
 それと、以前ズーニーは自らを魔神と名乗った。悪も魔も字面的にはそんな意味が変わんなそうだが、そこんとこどうなの?

「えーと、それってどういう……」

「誤解しておるようだが、我輩の二つ名に邪な意味はない。魔術と武術の両道を極めし魔王にして武神、類稀なる完成者のみに与えられし畏怖の名よ」

「あー、そういうことなのね。で、悪神は?」

 ちょっと不機嫌そうなズーニーの気を逸らそうと、矢継ぎ早に尋ねる俺。情けなくてカッコ悪い? そう言われてもしゃーないが、ここは危機回避が優先だ。

「かつてはどうだったか知らんが、少なくとも今は唾棄すべき魔物に過ぎん。だが、その力は凄まじい。神の名を冠して怖れられるほどには」

 つまりそれなら、八百万的・比喩的な意味での神、かな。創造神の片割れとかじゃないなら、まーなんとかなるかも。
 この世界に来てそんなに日も経ってないのに、いきなりそんなん相手にするのはちょっとね。

「奴と我輩との因縁はだいぶ昔のことだ。眷属がちょっかいを出してきおって、つまらんことになった。それで、いつかその責を取らせてやろうと思っておったところに、丁度いい機会が巡ってきたのだ」

「え、待って。個人的な話なんだよね。じゃあズーニーが一人で相手にするわけにはいかないの、そいつ」

 口を突いて出たこの質問はちょっとマズかった。プライドに障るような言い方だよね。

「何を言う! もちろん我輩のみで叩き潰してやるとも! ……だが、奴の眷属どもがちっと邪魔でな。そこでお主の手を借りようというわけだ。それに、奴を倒さねば栄光の腕環は手に入らんぞ」

「あーそうね。で、サポート役ね。まあ、ズーニーだって怪獣の件を手伝ってくれるわけだし、オッケー」

 俺がそう言うと、ズーニーの表情がちょっと変わった。何だかんだ不安もあったのかな?

「そこなのだがな、なぜ、他国の怪獣を退治するのにお主が付き合っておるのだ? 要となるコクコンとやらは既に手に入っておるのだろう。ならば、当事者のアビに任せてしまえばよいではないか」

 あ、そっちの話ですか。何言ってんの、俺とアビはもう切っても切れない関係で……あれ、そうでもないか? ……いやいや!

「それはやっぱり、袖触れ合うも他生の縁とやらでさ……」

「ん? マント触れ合うは前世のパーティ、のことか?」

「あーそれそれ。そんな格言もあるでしょうよ。だからさ」

 またよく分からん異世界格言が飛び出したが、言わんとするところは伝わったと思う。そう信じよう。

「なるほど……今の時代にあんな古代魔法の実現を信じようという者がおろうとは、なかなか捨てたものではないな」

 古代魔法? 格言じゃないの? マントがなんだって?
 ま、まあいいや。深く突っ込まんとこう。
 と考えたその時。

「ん……?」

「来たな、出迎えだ。さっきまでの雑魚どもとは違い、少しは骨のある奴と見た。ここで肩慣らしといこうではないか」

 変な気配が奥の方から迫ってきている。殺気がプンプンと匂うような、とにかく気分の悪くなるプレッシャーである。
 それに対して、ズーニーはいよいよ腰の剣を抜いた。半月状に曲がった刃を持つ、地球だとシミターと言われる剣に似たタイプだ。
 それを両手持ちして左肩に担ぐ構えは完全に攻撃全振りで、いかにも勝気な彼女らしい。
 対して俺はというと、魔剣を右手に握ってだらりと力を抜き、どんな状況にも即応できるようにする。

【イヌイは 秘術・無極の構え を使った】

 さあ、なんでもかかってこいや!
 そして、いよいよこっちに向かってくるモンスターの姿が目に入る。

「嵐のジンだな。気を抜くと吹き飛ばされるぞ、用心しろ」

 ズーニーの警告と同時に、強風と大量の水滴、そして雷鳴が襲ってくる。
 現れたのは、全身が青いムキムキつるっぱげな大男風の化け物だった。下半身は雲のように渦巻いていて、空中を滑るように飛んでくる。接近スピードの速さも納得だな。
 嵐の精霊の面目躍如と言わんばかりの相手の攻撃を、俺は魔剣のひと振りによる剣圧で、ズーニーは持ち前のタフネスで、それぞれ防ぎながら前進する。
 ジンもスピードを緩めず突進してきていた為、間合いは即消滅。向こうも雷鳴を帯びた右拳を振り上げていた。

「ふん!」

 一動作早く、ズーニーが曲剣を振り抜く。迫りつつあった拳ごと、腕、肩、胸の順に刃が食い込んでいって、最後には両断する。
 が、さすがはズーニーに剣を抜かせるほどのモンスターだけはある。
 なんとそれでも絶命せず、今度は口の中で雷鳴が光った。攻撃しきった体勢のズーニーには避けられそうもない。

【イヌイは 秘術・遠天打ち を放った!】

 そこで俺の魔剣が顔を縦に真っ二つにしてやる。さしものジンも、これで終わりだ。
 ドヤ顔でズーニーを振り返れば、既に剣を突き出す直前のところだった。はいはい、自分で対処できたってことね。それはそれは、出過ぎた真似をいたしました。
 思えば、右利きなのに剣を左肩に担いだのは不自然な構えだった。あれは、相手が右拳で来るってのを見抜いていて、実際にやったような形でカウンターを取る為だったのだろう。

「……やるね、ジーニー」

「そちらもな」

 相手の攻撃を封じつつ、自分の攻撃を通す。ある意味「攻撃は最大の防御なり」を地で行く超絶技巧だな。武術を極めたって話はハッタリじゃないらしい。
 俺とジーニーはお互いの剣をカチン、と軽く合わせてから鞘に収め、再び洞窟の奥へ進んでいった。
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