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33.決戦を終える最後のひと太刀が振り下ろされる

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 グライクの胴に生えたように突き刺さった剣。それは、万物を切り裂く光のような輝きを放つ、天使の剣である。
 実際、刃が単分子の厚みしかないこの剣は、理論上はあらゆる物を切断できる。
 ヤオヨロズが打ち合えたのは、摩訶不思議な加護によるものだった。
  壁に串刺しにされたグライクは、それでも急所は外れているのか、多少の息の乱れこそあるものの生きている。その眼には、不可思議なほどの余裕すらある。

「そんな姿で何を言おうが、もはや負け犬の遠吠えにしか思えんがね」
「ふふ、そう見える? でも、すぐに分かるよ」
「なに?」

 天使王が勝利を確信した笑みを歪めた瞬間、それは訪れた。
 手が、動かない。
 足も、動かない。
 顔の向きすら、動かせない。
 天使王の体に、明確な異変が起きていた。

「分かったかな? 自分に何が起きたか」
「…………」
「そう、喋ることもできないよね。ま、いいさ。あんたの体に起きた異変の原因は、これさ」

 固まったままの天使王に、グライクは自らの剣ーーヤオヨロズを掲げて見せた。
 
「この剣には、毒があってね。浅いとはいえ、いくらか手傷は負わせられたから、そのうち効果が出ると思って待ってたんだ。ああ、もちろん、あんたに普通の毒なんか効かないってことは分かってるさ」

 グライクは自身に刺さった剣を抜き、それを投げ捨てて、天使王の目を正面から見据えながら話を続けた。

「でも、この剣だって普通じゃないからね。こいつは竜を殺した竜剣。そして竜の血は、果てしない猛毒さ。竜を殺したときにたっぷりと吸収したんだ。さすがにあんたにも効いただろう」
「……き、きさ……ま……」
「おっと、もう喋れるようになってきた? だったら急がないとねーーファムファ! 今のうちに、その冠をこいつの頭に投げて!」

 プルプルと震えながら体を動かそうとする天使王に、グライクはニヤリと微笑む。

「さあ、天使がアンデッドになったら、どうなるのかな?」

 そして、我に返ったファムファが叫ぶ。

「グ、グライク! いくニャ!」
「ああ、お願い!」
「や、やめろ……!」

 まだ身動きのできない天使王の頭に、死者の王が残した冠が、とさり、と載った。
 
「ぐおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 瞬間、天使王の全身から放たれていた輝きが、大きく変化していく。
 それは、黒い輝き、としか表現できない、禍々しい現象だった。

「----オオオオオォォォォォォ………ォォォ……」

 黒い輝きの中心に残ったのは、これまでのいかにも善性の塊といった外見から正反対に位置するような、不死者の姿だった。
 アンデッドに堕ちたる天使、すなわち穢れた堕天使である。
 これまで天使王が持っていた特性は失われ、ある弱点が付加されている。

「許サン、許サンゾ貴様……コンナ姿トハイエ、我ガチカラハ失ワレテイナイ……全力デ、殺シテヤルゾ」
「ふーん、でも、ごめんだね。これでもどうぞ」

 いまだ動けない堕天使の体に、最後の聖杯からエリクサーを注がれると、全身からジュウジュウと煙が上がる。

「グアアアアアアア!!!!!」
「効いてるね、さあ、トドメだ」

 グライクの手の中で、七死刀がギラリと光った。





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