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29.死者の王との決戦

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 あくまでゆっくりと。悠然と、グライクは足を進める。
 その先に待つリッチもまた、ゆっくりと玉座から立ち上がる。
 グライクの天眼は、あらゆるものを見通す。それは敵の隙であり、弱点であり、また逆に敵の攻め手の防ぎ方であり、そうした戦いに勝つのに必要な全てを教えてくれる。
 が、今この場において、グライクには何も見えていなかった。
 正確に言えば、のだ。リッチは、グライクに対してあらゆる攻め手を瞬時に思考し、またあらゆる防ぎ手を瞬時に思考していたからだ。
 刻一刻と未来が変わり、かつてない強敵に対して打つべき手か定まらない。そんな死地にあって、それでも、グライクは静かに進んでいた。

「間合いだね」
「クカカカ」

 ついに、両者の間の距離は必要最小限にまで圧縮された。
 立ち上がったリッチが、はるかに背の低いグライクを見下ろす形になる。その手には、禍々しい大鎌。命を刈り取る形をした、太古からの魔の力を持つアイテムである。
 構えた、と思った時には、大鎌は振り抜かれていた。しかしグライクも瞬時にヤオヨロズでそれを受け止め、遅れて刃と刃の衝突する甲高い金属の悲鳴が部屋に満ちた。

「今のは見えたよ。それに、間に合う。さあ、次はこっちの番だ」
「カカカカカカ」

 竜人の肉体と竜剣ヤオヨロズに、天眼という人知を超えたスキルが加わったからこその、埒外の動作である。
 しかし、髑髏の空洞から響く笑い声は、あくまで喜色を隠さない。それは、久方ぶりの相手に対する喜びか、はたまた、単に命を刈り取ることへの悦びか。
 ふ、とグライクの顔に笑みが差した。そして、次の刹那に、その場から全身が消失した。

「カッ」

 再び現れたグライクの姿は、リッチの遙か後方。玉座の上にあった。彼が振り返ったタイミングで、ゆっくりと、リッチの頭が首からずり落ちていく。
 そして、その頭が地面に落ちようとしたとき。なんと、リッチの右手が動いてそれを受け止めた。
 頭は再び首の上に戻されると、僅かに煙のような何かが湧き上がり、瞬時に元通りに接着する。

「死者の王、だもんね。この程度じゃ死なないか」
「クカカカカ、クカカカカカカカ!!!!」

 髑髏の奥から哄笑を上げたリッチは大鎌を突き出し、ヒトの耳には聞き取れぬ不可解な言語で呪文を唱え始めた。

「こっちも本気で行くよ。さあ、ヤオヨロズよ。力を貸してくれっ!」
「いざ、承りまして候!」

 グライクの目にヤオヨロズの力が加わり、ついに最終決戦が幕を開けた--




「し、しぶとかった……」

 グライクとリッチの戦いは、まさに死闘を極めた。
 リッチの放つ太古の禁呪をグライクの振るうヤオヨロズが断ち続け、一方でグライクの斬撃と各種アイテムによるコンボをリッチの不死性と魔術が防ぎ切った。
 共に一撃必殺の力を持ちながらも決して有効打を許さない一進一退の攻防は百合を超え、千合にも届かんという数を積み重ねた。
 均衡を破ったのは、グライクが手に入れたパワー・ナインの最後の一つ、【最後の聖杯】であった。


【最後の聖杯】
 回数:∞
 等級:神話レジェンズ
 解説:神より下されし聖なる杯。この杯に汲まれた液体は、それがただの水であっても、あらゆる病と傷を癒し、あるいは死者に命を与える霊薬エリクサーと成る。


 とうとう魔力の尽きたリッチの大鎌をヤオヨロズで抑えたところで、グライクはこの聖杯で作り出したエリクサーを振りまいた。
 死者に命を与えれば、すなわち生者となる。死者としての特性を失ったリッチは、不死性を失った単なる怪物となった。
 そして、グライクの秘密兵器である七死刀が居合にて振り抜かれ、死の限界をオーバーロードさせることで、復活も許さぬ完全な決着を押し付けたのだった。

「お見事にございます、若様!」
「ひゃあああ、たまげたニャア」
「ゴ! ゴ!」

 他の三名は戦いについてゆけず、ひたすら自分の身を守ることにだけ専念しながらグライクを見守っていた。
 戦いが終わった今、彼らの前には、迷宮の更なる深部への道が開けている。
 ちなみに、リッチのドロップアイテムは、得物であった大鎌と、その頭を飾っていた王冠である。


【死神の大鎌】
 攻撃力:+66
 等級:伝説レア
 解説:死の神が天命を全うした生者の魂を刈り取るのに使う鎌。その刃はヒトの身とこの世のモノでは防ぐことができない。


【不死王の冠】
 等級:伝説レア
 解説:禁呪を重ねて作られた環。被った者の魂を奪い、代わりに不死性と強靭な力を与える。


 いずれもグライクの四次元袋へと仕舞うと、三人はこの先へと続く扉を見据えた。

「この階層で終わりかニャ?」
「行けば分かるさ。迷わず行こう」
「若様について参ります!」

 ボスの玉座の後ろにあった記録石の先は、上でも下でもなく、地面と真っ直ぐに続いている。これまでと違う様子に、ついにこの冒険が終わりを迎えたのかと一行の期待は高鳴っていく。
 そうして、光が差し込んでくるその先へと、グライクは足を進めていくのであった。
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