ある未来人のつぶやき

夏野菜

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時間の概念

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とある街の喫茶店で、ぶつぶつと独り言を繰り返すスーツ姿の男がいた。聞き耳を立ててみると、気持ち悪いことを言っていた。

東京都内の繁華街のカラオケ店に併設した喫茶店。電子タバコが喫煙可能な席に座ると、スーツ姿の男がブツブツと独り言を繰り返していた。

座席は10席程度でいずれも1人用席。最初は電話でもしているのかと思ったが、トイレに立った時にふと顔を確認したが、イヤホンも何もつけていない。

正直、最初はちょっとヤバイやつだと思った。

でも、こっちも次の仕事までの時間が空いていたから面白半分で、その独り言に聞き耳を立ててみた。

男は時計を見ながら「慣れない。気持ち悪い」と言っていた。

話しぶりは誰かに語りかけているようだった。

その時の話しぶりを、記憶の限り再現してみようと思う。


「ダメだな。やっぱり、気持ち悪いわ。時間が重要な価値観って意味が分からないわ」

「あんまり気にしないようにしてるけど、全部が時間の概念で動いているから、会話の節々に出てくるんだよね」

「こっちは意味が無いなと思いつつ、この時代には必要な概念だから諦めるけど、俺まで原始人化しそうでヤバイ笑」

この時は、横で聴いていると相手の返答を聞きながら話しているようだった。そんで、身なりもかなりキレイだったから余計に気持ちが悪かった。

「あ~ここで大声で、『無意味』って叫びたいわ。なんでもかんでも時間、時間、時間。何時に集合、何時に会議、何時間で終わらせてとか、もはや意味が分からない。こいつらに問いかけたいわ。『お前、時間の意味分かってるの?』って」

「誰も答えられないんだろ?この時代の人間って。時間の概念自体が噓だって言ったら、誰も信じないだろうな」

「この前、面白いマンガを見つけたよ。天動説をテーマにした話なんだけどさ。この時代の人間は『天動説が信じられていた時代があるんだよ』とか言いながら、優越感に浸っているわけ笑」

「『いや、お前も時間を信じてるやん笑』って、突っ込みたいのめっちゃ我慢したわ」

「そもそも、誰も疑問に感じない雰囲気が気持ち悪いよな。赤ん坊でも気づきそうだろ?普通。赤ん坊の時から洗脳されているから、気づけないのかな?」

「普通に考えたら、時間の概念が存在したら、この世界そのものの成り立ちに矛盾があることぐらい分かるだろう」

「神話がその点で役に立っているのかな?『神は最初から存在していた』ってやつ?そりゃそうだよな。というか、この世の中のものは一度だって失われてないわ笑」

「時計を腕につけてるんだぜ?笑えるよな。俺も違和感もたれたくないから、おもちゃみたいな時計もどきをつけてるよ。画面が消えるから気にしないでいられるし。っていうか、そもそも充電しないから電源も買ってからずっと真っ暗だけどな笑」

「今の時計の仕組み知ってるか?クォーツ時計っていうのが主流だったんだけど、石に電気流して揺れた回数数えているんだぞ笑。『原始人か』って話だよな笑」

「あ~気持ち悪い。なんで『最初から全てがあった。始まりも終わりもこの世界には無い』って誰も気づかないんだよ。なんか全部が噓の上に成り立っている世界の中で、孤独感が半端無いわ。早く帰りたいな~。って、これも時間の感覚に侵されている会話だな笑。俺も原始人になっちゃいそうだわ笑。また連絡するから、『時間空けとけよ笑』。あ~本当にやばいな笑」

ただのヤバイやつの独り言だと思う。でも、話しぶりがまともそうで、気になったから、一応ここで記録しておく。
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