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公民館にて(初日)
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「・・・君た・・・残された時間・・・、明日から7日間で・・・。短い人生をおも・・・つらく、悲し・・・。でも、あきらめないでく・・・人類の希望であ・・・です」
午前10時。ところどころ途切れた音声が、がらんとした公民館のホールに響いた。それは、先人たちの残したメッセージビデオだった。
俺はこの日、18歳の誕生日を迎えた。
ホールの端に掲げられた「18歳の誕生日おめでとう!!」の巨大な垂れ幕は、ひどい言葉で落書きがされ、ところどころが破れていた。
「誰も掃除してねぇな。ほこりだらけじゃねぇか」
隣に座っていた太った男が悪態をつく。
きっと、この炎天下を歩いてきたせいだろう。汗が床にこぼれ、強い体臭を放っている。
「おい、聞こえないのかよ。俺らもう少しで死ぬんだぞ」
太った男は、さきほどよりも大きな声で話しかけてきた。
「独り言かと思ったよ。あぁ汚いな。でも、少し静かにしていてくれないか。もう少し待てばビデオも終わるだろう」
と、俺もいらだちながら返事をする。
「はいはい。つまらねぇな。必死かよ」
男は、こちらに悪態をついて再びビデオに目を向けた。
メッセージビデオが終わると、今度は子ども向けの教育番組のようなイラストの画面に切り替わった。
そして、「残り7日間で、あなたたちがすること」と、アニメキャラクターの声がついた説明が始まった。
~人生最後の7日間~
①男性は声帯が発達し、大きな声が出せます。女性は声が出せなくなります
②男女ともに、生殖行為が可能となります
③交尾を終えた女性は、木に卵を産み付けます
④男性は交尾後にインターバルが1時間必要となります。女性は産卵までに5時間かかり、産卵後はすぐに交尾が可能となります
⑤男女ともに交尾に回数制限はありません
⑥余生は18歳の誕生日から起算して7日間。最終日の日が暮れると死に至ります
⑦人類を未来につなぐため、協力しあいましょう
子どもの頃から何度も学んできた内容だ。いまさら忘れるやつなんかいないだろうに。
ただ、こうやって現実として突きつけられると、自らの死が現実に迫っているのだと気づかされる。
ホールを見渡す。ここにいる人間は、男は俺と隣の太ったやつで2人。そして女が5人・・・・・・。
「おい。この中で誰に種付けしたい? 俺は、あの小さい子がいいな」
また、太った男が大きい声で語りかけてきた。
その声が聞こえたのだろう。女子が一斉にこちらをにらみつけてくる。
「これが本当の『目は口ほどに物を言う』だな」と、苦笑いで返す。
「なぁ、頼むよ。俺、このままじゃ童貞のまま死ぬわ。一緒にここの女子を捕まえようぜ」
今度は急に卑屈になった態度で、男が顔を近づけて来る。
その瞬間。「ザクッ」と、野菜を包丁で切ったような音が鳴った。
そして、太った男が足を抑えてイスから転げ落ちた。
「うわぁ!痛い!痛い!何だよこれ!」
男が叫び始める。
「痛い!痛いよ!」
男が転がった跡に赤い血が広がっていく。ふくらはぎには矢が刺さっていた。
「おい!大丈夫か!?」
女子グループの方に目をやると、その中の一人がボウガンをこちらに向けて構えている。
「頼む!落ち着いてくれ!俺は襲う気は無い!頼む!」
慌てて、制止しようとする。
だが、すでに声が出なくなった女子グループから返事はない。
「あぁ~!!痛い!痛いよ!」と、太った男が転げ回る。苦悶の表情を浮かべたまま、太った男が足を抑えて丸まっていく。
「こいつも本気で言ったわけじゃ無いはずだ!俺が襲わせない!!頼む。見逃してやってくれ!」と、懇願する。
徐々に大きくなる声に威圧感を覚えたのだろうか、ボウガンを持った女は出口の方に目を向けて、アゴで指すように首を何度も動かした。
「わかった。わかったから。ここを出て行けばいいんだな? こいつも連れて行く。不快な思いをさせて悪かった」
謝りながら、太った男の両脇に手を差し込み、ホールから引きずり出す。
「あいついきなり撃ちやがった!ふざけんなよ!殺してやる!」
ホールの出口にさしかかったあたりで、太った男が怒り始める。
「黙れ!ばかやろう!ここで死にたいなら置いていくぞ!」
その態度に、俺も腹が立って大声をあげる。声帯の変化だろうか。いつのまにか小さい声が出せなくなってきている。
「ここではもう諦めよう。わかるよな。な?」
そこまで言うと、太った男は涙を流して3度うなずいた。
公民館の事務室に行き、机に保管されていたガムテープで、男の傷口を締め付けた。
「さっきはごめん・・・・・・」と、太った男が申し訳なさそうに話しかけてきた。
「死ぬのは怖いもんな。気持ちは分かるよ。俺は樹(いつき)。名前は?」と、太った男に返す。
「大河。タイガーが好きだから」
卵から孵った俺たちは、当然だが親の顔を知らない。自分の名前も自分で決める。
「大河、まずはここを離れよう。ここでのナンパは恐らく不可能だ。俺の車が外に止めてある。それに乗って隣町まで行こう」。
俺が提案すると、大河はうなづいた。
すでに時計は午前11時をまわっていた。
午前10時。ところどころ途切れた音声が、がらんとした公民館のホールに響いた。それは、先人たちの残したメッセージビデオだった。
俺はこの日、18歳の誕生日を迎えた。
ホールの端に掲げられた「18歳の誕生日おめでとう!!」の巨大な垂れ幕は、ひどい言葉で落書きがされ、ところどころが破れていた。
「誰も掃除してねぇな。ほこりだらけじゃねぇか」
隣に座っていた太った男が悪態をつく。
きっと、この炎天下を歩いてきたせいだろう。汗が床にこぼれ、強い体臭を放っている。
「おい、聞こえないのかよ。俺らもう少しで死ぬんだぞ」
太った男は、さきほどよりも大きな声で話しかけてきた。
「独り言かと思ったよ。あぁ汚いな。でも、少し静かにしていてくれないか。もう少し待てばビデオも終わるだろう」
と、俺もいらだちながら返事をする。
「はいはい。つまらねぇな。必死かよ」
男は、こちらに悪態をついて再びビデオに目を向けた。
メッセージビデオが終わると、今度は子ども向けの教育番組のようなイラストの画面に切り替わった。
そして、「残り7日間で、あなたたちがすること」と、アニメキャラクターの声がついた説明が始まった。
~人生最後の7日間~
①男性は声帯が発達し、大きな声が出せます。女性は声が出せなくなります
②男女ともに、生殖行為が可能となります
③交尾を終えた女性は、木に卵を産み付けます
④男性は交尾後にインターバルが1時間必要となります。女性は産卵までに5時間かかり、産卵後はすぐに交尾が可能となります
⑤男女ともに交尾に回数制限はありません
⑥余生は18歳の誕生日から起算して7日間。最終日の日が暮れると死に至ります
⑦人類を未来につなぐため、協力しあいましょう
子どもの頃から何度も学んできた内容だ。いまさら忘れるやつなんかいないだろうに。
ただ、こうやって現実として突きつけられると、自らの死が現実に迫っているのだと気づかされる。
ホールを見渡す。ここにいる人間は、男は俺と隣の太ったやつで2人。そして女が5人・・・・・・。
「おい。この中で誰に種付けしたい? 俺は、あの小さい子がいいな」
また、太った男が大きい声で語りかけてきた。
その声が聞こえたのだろう。女子が一斉にこちらをにらみつけてくる。
「これが本当の『目は口ほどに物を言う』だな」と、苦笑いで返す。
「なぁ、頼むよ。俺、このままじゃ童貞のまま死ぬわ。一緒にここの女子を捕まえようぜ」
今度は急に卑屈になった態度で、男が顔を近づけて来る。
その瞬間。「ザクッ」と、野菜を包丁で切ったような音が鳴った。
そして、太った男が足を抑えてイスから転げ落ちた。
「うわぁ!痛い!痛い!何だよこれ!」
男が叫び始める。
「痛い!痛いよ!」
男が転がった跡に赤い血が広がっていく。ふくらはぎには矢が刺さっていた。
「おい!大丈夫か!?」
女子グループの方に目をやると、その中の一人がボウガンをこちらに向けて構えている。
「頼む!落ち着いてくれ!俺は襲う気は無い!頼む!」
慌てて、制止しようとする。
だが、すでに声が出なくなった女子グループから返事はない。
「あぁ~!!痛い!痛いよ!」と、太った男が転げ回る。苦悶の表情を浮かべたまま、太った男が足を抑えて丸まっていく。
「こいつも本気で言ったわけじゃ無いはずだ!俺が襲わせない!!頼む。見逃してやってくれ!」と、懇願する。
徐々に大きくなる声に威圧感を覚えたのだろうか、ボウガンを持った女は出口の方に目を向けて、アゴで指すように首を何度も動かした。
「わかった。わかったから。ここを出て行けばいいんだな? こいつも連れて行く。不快な思いをさせて悪かった」
謝りながら、太った男の両脇に手を差し込み、ホールから引きずり出す。
「あいついきなり撃ちやがった!ふざけんなよ!殺してやる!」
ホールの出口にさしかかったあたりで、太った男が怒り始める。
「黙れ!ばかやろう!ここで死にたいなら置いていくぞ!」
その態度に、俺も腹が立って大声をあげる。声帯の変化だろうか。いつのまにか小さい声が出せなくなってきている。
「ここではもう諦めよう。わかるよな。な?」
そこまで言うと、太った男は涙を流して3度うなずいた。
公民館の事務室に行き、机に保管されていたガムテープで、男の傷口を締め付けた。
「さっきはごめん・・・・・・」と、太った男が申し訳なさそうに話しかけてきた。
「死ぬのは怖いもんな。気持ちは分かるよ。俺は樹(いつき)。名前は?」と、太った男に返す。
「大河。タイガーが好きだから」
卵から孵った俺たちは、当然だが親の顔を知らない。自分の名前も自分で決める。
「大河、まずはここを離れよう。ここでのナンパは恐らく不可能だ。俺の車が外に止めてある。それに乗って隣町まで行こう」。
俺が提案すると、大河はうなづいた。
すでに時計は午前11時をまわっていた。
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