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田中が引越してきた

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おんぼろ木造アパートの隣の部屋に、田中が越してきたのは昨年12月のことだった。

「引っ越しの挨拶です」と持ってきたのは、豚ロースのかたまり肉。

真冬だと言うのに身に付けているのは、麻で織られた大きな1枚布のみ。布には頭を通す穴が開いており、それを腰のあたりで麻のロープで縛っていた。

田中と名乗っているが、髪の色は銀色で、瞳は赤、肌は若干だが緑がかっている。顔つきは、どうみてもアジアよりも欧米人に近い。年は20代の半ばといったところだろうか。

俺が「出身は?」と聞くと、田中はあからさまに動揺し、「あぁ・・・、北西の方の村です」とだけ答えた。

田中は、言葉になまりこそ無いものの、変なことを聞いてくる。

先日も急に「仲間が欲しいのですが、ギルドはどこでしょうか?」と聞いてきた。

答えに窮していると、「あぁ、酒場といった方が良いでしょうか?お酒を飲みながら、仲間と知り合える場所を教えてください」と、田中が言い直したので、俺は歌舞伎町のキャバクラを教えてあげた。

田中はとてもうれしそうだった。



「ドンドン」「ドンドン」

おっ、誰か来たな。

「はい」

(田中)「田中です。先日はありがとうございました。強そうな仲間には出会えませんでしたが、キレイな女性がたくさんいました」

(俺)「あ、そうですか・・・それは良かったです」

(田中)「あの・・・。もし良かったら、今夜も歌舞伎町に仲間を探しに行くので一緒に行きませんか?」

(俺)「え・・・。でも、僕は手持ちが無いので・・・」

(田中)「大丈夫ですよ。お金は私が出しますよ」

そう言って、田中は革の袋を取り出して中を見せた。1万円札や小銭が乱雑に突っ込まれていたが、ざっと500万円はありそうだ。

(俺)「えっ・・・。すごいですね」

(田中)「私、錬金術のスキルがあるんですよ」

(俺)「えっ・・・?錬金術?」

そう聞き返すと、田中は困ったような顔をして「ごめんなさい。間違えました。私、金の加工が得意で、それを売って生活しているんです」という。

(俺)「金を加工したものって、アクセサリーですか?それって、そんなに売れるものなんですか?」

(田中)「はい。大黒屋という店に持って行くと、すぐに買ってくれます」

田中があまりにも純粋な瞳で説明するので、俺は大黒屋が質屋だということを言えなかった。

(俺)「よし。それじゃあ一緒に仲間を探しに行きますか」

(田中)「ありがとうございます!」

(俺)「ちなみに仲間の候補が、飲み物を希望した時は注文してあげても良いですか?」

(田中)「もちろんですよ。たくさん話してスキルとか、ステータスとか、得意な戦い方も聞いてみましょう」

(俺)「あと・・・。仲間の候補が『もう少しここにいても良い?』って聞いてきたら、指名しても良いですか?」

(田中)「もちろんですよ!」



俺は田中の仲間に加わることを決意した。
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