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還ってきた勇作

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「斎藤さん!」

ガラス戸が割れるぐらいの勢いで理容店のドアを開けたのは、近所で中学教師をしている地元の後輩だった。

あまりの声の大きさに驚いて、あやうくハサミを客の頭に突き刺しそうになる。

「た、たた、大変ですよ!!!」

よほど慌てて来たのだろう。息が切れて、言葉が続いていない。

「ちょ、ちょっと、落ち着けよ。何があったんだよ」

「ゆ、ゆう、勇作さんが!校庭に出たんですよ!!ニョキッて感じで!」

「はは。何だよそれ。高校の時に消えた勇作が幽霊になって出てきたってことか?」

「違いますよ!リアルに出てきたんですよ!それも鎧を着てですよ!」



・・・・・・。

俺は10分ほどで客の髪を整えると、店を閉めて、後輩と一緒に中学校に向かった。

鎧を着た勇作は、グラウンドの角にある花壇に腰掛けていた。

身長は2メートルをゆうに超え、全身の筋肉が張り裂けそうなほどに発達していた。口元にはたっぷりの無精ヒゲ。そのどれもが、俺の知っている勇作とはかけ離れていた。

ただ目元には、確かに勇作の面影があった。

「おい。お前・・・。本当に勇作なのか??」

恐る恐る声をかけると、勇作がこちらに気づいた。

「おぉ。真吾。久しぶりだな」。返ってきた声は10年前と全く変わっていなかった。

・・・・・・

俺は自宅に勇作を連れ帰り、まずは行方不明になってからの10年間で起きたことを知っている範囲で教えてあげた。

勇作を育てた祖父母が3年前に相次いで他界したことを伝えたときは、声を出して泣いていた。俺もつらかった。

勇作は説明をひととおり聞き終えると、今度はぽつり、ぽつりと10年分の出来事を語り始めた。

野球部の練習の帰り道で光に包まれて異世界に行ったこと。経験値150倍のチートスキルで勇者になったこと。戦いにあけくれてステータスをカンストさせたこと。ほぼ一撃で魔王を倒したこと。そして強くなりすぎたことで異世界から追放されたこと・・・・・・。

その日から勇作は、うちに居候することになった。

俺も最初のうちは、きっとすぐに仕事を見つけてきてくれると思っていた。

だが結論を言うと、勇作のステータスは、この世界にまったく適していなかった。

最初は、ボクシングやプロレスなどの格闘技を薦めてみた。

すると勇作は「おいおい。ちょっと想像してくれよ。レベル99の状態でHP3ぐらいのスライムを殺さないように攻撃できるか?無理だろう?」と、少し寂しそうに話した。

次は存分に力を生かせる仕事をと思い、工事現場を薦めてみた。

すると勇作は「それも無理だな。だって考えてもみろよ。人間の力でちょうど良く作れるものしか世の中には無いんだよ。アスファルトの舗装だって、家の組み立てだって、適度な負荷だから成り立つんだよ。舗装した道路を固めるために隕石を降らせるようなもんだぞ?これ以上地球にクレーターを増やしたいのか」と、あきれたようにいった。

仕方がないので、かつて勇者だった時のように、世界中の戦争を止める活動をしてみては良いのではないか?と、提案してみた。

すると勇作は「ははは。俺がなんで異世界を追放されたのかをもう忘れちゃったのか?強すぎる武力は、ただの脅威なんだよ。アメリカだろうがロシアだろうが、こんな人間がいるとわかったら全力で殺しにくるだろうよ」と、目に一杯の涙をためて笑った。

それから半年後。

勇作はいま、俺の家に引きこもり、YouTube動画を鑑賞して1日を終えている。
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