59 / 64
第三章
死に体⑦
しおりを挟む
「どうやって死んだかは分かんないっす。ただ、俺はこう、頭に血が昇りやすいで、何かダチと競ってたりした時に事故にでもあったんじゃねーかなって」
「あ、そういうこと‥」
ブランコからの転落。テツヤという名前。それだけ分かれば、見つかるかもしれないのに。
でも最後にブランコに乗ったのが小学生で、享年が一七ならブランコにのる事故死では無いか。
途方に暮れた顔をしている俺を見て、「でも、この数日で気づいた事が幾つかあるんす」と明るく言った。
「俺、どうしても自分の正体が知りたくて、色々と試したんすよ。まぁ、このナリなんで、できる事ってそんな無かったんすけど、絵を描くとか、ゲームするとか、運動するとか‥それでね、一つ惹かれたものがあって‥それが、三輪車だったんす」
「三輪車?」
補助輪が三つ付いている乗り物?
「あ、三輪車というより、自転車とか、バイクとかっすかね。他人が乗っているのを見ているだけでも何か体がざわつくんすよ。まぁ三輪車を走らせている時も楽しかったっすけど」
へへっと鼻を擦る。
「えーっと、つまりキミの乗り物好きによる事故の可能性が高いのかな?」
「ええ。自分の性格上、仲間とバイクを走らせている時に、まぁ何かしらあったと思うんす」
「うーん‥。西暦とか、季節とか、家族の事とか。そんな具体的なことは分からないよね?」
「そこまでは‥」
それが分かれば一気に解決に繋がりそうなのだが。
「家族に関しては、俺、コイツの母ちゃん見ていて思うんすけど」
テツヤくんは、恥ずかしいな、とまた鼻を擦り言った。
「俺の母ちゃんは、コイツの母ちゃんと似た性格だった気がするんすよね。お節介で、面倒くさくて、でも、あったかい、自分の事を心から愛してくれてる、そんな事が実感できるんす」
「愛‥」
そう呟いたのは、アイだった。
その言葉が、自分には馴染みのないような、初めて聞く言葉のような、分からない単語を復唱するかのような言い方だった。
「俺は一日でも自分の正体が知りたい。勿論、コイツのためにも」
胸に手を当て、決心したように目に炎が宿る。
また、俺の苦手な目だ。
自分のやりたい事がわかっている目。
何の疑いもなく、それをやる事が使命だと信じてやまない目だ。
「アニキ、姉御。すいやせんが、協力してくだせぇ」
深々と小さな身体が頭を下げる。
アイは「もちろん!」と何の考えもなしに答える。
お前も、後悔しこの世を彷徨っている魂だというのに。
「協力はするよ。でも、何から手をつけていいのか‥」
そう途方に暮れていた時だった。
ピコン、とスマホから音がする。
的射さんからだった。
【上原 哲也について】
題名が書かれており、その下に添付ファイルがある。
「かんばる、てつや?」
ファイルを開くと、一件の記事が開かれる。
それは、地方新聞の小さな一面を切り取った記事だった。
「‥これって‥」
五行ほどで纏められた小さな記事。
それを全部読み終わった俺は、テツヤくんの方を見る。
「上原、哲也くん」
そう問いかけると、その言葉を口にした哲也くんは、「カンバル、ガンバル」と言い「‥はい」と答えた。
「あ、そういうこと‥」
ブランコからの転落。テツヤという名前。それだけ分かれば、見つかるかもしれないのに。
でも最後にブランコに乗ったのが小学生で、享年が一七ならブランコにのる事故死では無いか。
途方に暮れた顔をしている俺を見て、「でも、この数日で気づいた事が幾つかあるんす」と明るく言った。
「俺、どうしても自分の正体が知りたくて、色々と試したんすよ。まぁ、このナリなんで、できる事ってそんな無かったんすけど、絵を描くとか、ゲームするとか、運動するとか‥それでね、一つ惹かれたものがあって‥それが、三輪車だったんす」
「三輪車?」
補助輪が三つ付いている乗り物?
「あ、三輪車というより、自転車とか、バイクとかっすかね。他人が乗っているのを見ているだけでも何か体がざわつくんすよ。まぁ三輪車を走らせている時も楽しかったっすけど」
へへっと鼻を擦る。
「えーっと、つまりキミの乗り物好きによる事故の可能性が高いのかな?」
「ええ。自分の性格上、仲間とバイクを走らせている時に、まぁ何かしらあったと思うんす」
「うーん‥。西暦とか、季節とか、家族の事とか。そんな具体的なことは分からないよね?」
「そこまでは‥」
それが分かれば一気に解決に繋がりそうなのだが。
「家族に関しては、俺、コイツの母ちゃん見ていて思うんすけど」
テツヤくんは、恥ずかしいな、とまた鼻を擦り言った。
「俺の母ちゃんは、コイツの母ちゃんと似た性格だった気がするんすよね。お節介で、面倒くさくて、でも、あったかい、自分の事を心から愛してくれてる、そんな事が実感できるんす」
「愛‥」
そう呟いたのは、アイだった。
その言葉が、自分には馴染みのないような、初めて聞く言葉のような、分からない単語を復唱するかのような言い方だった。
「俺は一日でも自分の正体が知りたい。勿論、コイツのためにも」
胸に手を当て、決心したように目に炎が宿る。
また、俺の苦手な目だ。
自分のやりたい事がわかっている目。
何の疑いもなく、それをやる事が使命だと信じてやまない目だ。
「アニキ、姉御。すいやせんが、協力してくだせぇ」
深々と小さな身体が頭を下げる。
アイは「もちろん!」と何の考えもなしに答える。
お前も、後悔しこの世を彷徨っている魂だというのに。
「協力はするよ。でも、何から手をつけていいのか‥」
そう途方に暮れていた時だった。
ピコン、とスマホから音がする。
的射さんからだった。
【上原 哲也について】
題名が書かれており、その下に添付ファイルがある。
「かんばる、てつや?」
ファイルを開くと、一件の記事が開かれる。
それは、地方新聞の小さな一面を切り取った記事だった。
「‥これって‥」
五行ほどで纏められた小さな記事。
それを全部読み終わった俺は、テツヤくんの方を見る。
「上原、哲也くん」
そう問いかけると、その言葉を口にした哲也くんは、「カンバル、ガンバル」と言い「‥はい」と答えた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる