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第ニ章
盲目①
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「あのさ、三ツ橋って知ってる?」
学校が終わりの帰り道。
僕は小石を蹴りながら何でもないかのように藍良に聞いた。
藍良が立ち止まり「何言ってんの?」と怒ったように言う。
それは、そうなる。
赤いランドセルを背負い直した藍良は「それで?その最低野郎が何?」と溜息混じりで聞いてくる。
僕は何か話さないと、と口を開くがその先が続かない。
藍良が三ツ橋を嫌いな事は知っているのにその三ツ橋を紹介するなんて、やっぱり無理だ。
でも、「やっぱり無理だった」なんて断ったら何をされるか分からない。
三ツ橋に嫌われたら、教室の皆に嫌われる。
「三ツ橋に何言われたの?」
軽いステップをし、藍良が僕の目の前に立つ。一つにまとめた長い髪が揺れた。
「その、藍良を紹介しろって」
「っぷ」
そういうと藍良はおかしそうに吹き出した。
僕は不思議そうに見ていると「紹介?何に憧れてるんだろ。あー、おかしい」
楽しそうに笑っているが、それが作り物だと僕は分かる。
「それで、定ちゃんは何て言ったの?」
「何てって‥。それは、その」
そんなの、良いって言わないと。
藍良は溜息をついて「自分で声掛けろ、バーカ!って言った?」と無茶なことを言う。
「定ちゃんにとってさぁ、私ってなんだろ。あー、悲しいなー」
藍良はさほど悲しそうでもなく、明るくそう言う。
でも、それも嘘だと分かっている。
これも、苦く消したい過去の記憶だ。
---
--
-
この時間帯に、インターホンを押すことの無礼は知っている。
でも、居ても立っても居られなかった。
ガチャっとドアが開き、家の中から的射さんが出て来た。
「入りたまえ」
俺が口を開く前に的射さんがそう言って来た。
「何か大事な話があるんだろ?今日は定例の日じゃないが、特別に許そう」
「‥失礼します」
何も聞かずに俺を部屋の中へ招き入れてくれる的射さんに俺は少し泣きそうになった。
「相変わらず、凄いですね」
家の中には様々な専門書が置いてあった。
それら全てが人間心理に関する本だった。
勉強をしていたのか、机の上には難しそうな専門書と汚い文字で書き殴られたノートが開いてある。
「こんな本をいくら読んだ所で、人間の本質が分かるわけではないがね」
的射さんはコーヒーを飲みながらそう言った。
「社会から悪は無くならない。人間の本質は、悪。悲しいな」
渋いな。
そして格好いい。
俺は本棚の中にある一つの参考書を手に取った。
『何故犯罪は起こるのか。そのメカニズムについて』
専門書にはあらゆる付箋が貼ってある。性悪説、なんて言っているけど人間の本質が善だと信じたいのは的射さんだ。
その奥に、何か置いてあった。
これは、DVD?『深夜のナース—』
「君は、勝手に人のものを許可無く触る無礼者だったかな?」
「す、すみません」
俺は咄嗟にそれを元の位置に戻した。
「人間誰しも、知られたくない秘密はある」
「いや、その‥」
あなたがAVコレクターだということは知っていますよ。
何で父にしても本棚の後ろに隠すんだ。
気まずい沈黙が流れる。
「ま、的射さんって一流大学に通っていたんですよね。何で辞めたんです?」
そう聞くと、的射さんは鋭い眼光で俺を見た。
俺は萎縮し下を向く。
「一言で言えば、学ぶ必要が無くなったからだ」
コーヒーカップをテーブルに置き、的射さんが続ける。
「人間の本質を知れると思い、犯罪心理学科を選んだが、何一つときめくものが無かった。こんなものに学費を払うのは馬鹿らしい、そう思ったんだよ」
高い学費って、払っているのはご両親では?
学校が終わりの帰り道。
僕は小石を蹴りながら何でもないかのように藍良に聞いた。
藍良が立ち止まり「何言ってんの?」と怒ったように言う。
それは、そうなる。
赤いランドセルを背負い直した藍良は「それで?その最低野郎が何?」と溜息混じりで聞いてくる。
僕は何か話さないと、と口を開くがその先が続かない。
藍良が三ツ橋を嫌いな事は知っているのにその三ツ橋を紹介するなんて、やっぱり無理だ。
でも、「やっぱり無理だった」なんて断ったら何をされるか分からない。
三ツ橋に嫌われたら、教室の皆に嫌われる。
「三ツ橋に何言われたの?」
軽いステップをし、藍良が僕の目の前に立つ。一つにまとめた長い髪が揺れた。
「その、藍良を紹介しろって」
「っぷ」
そういうと藍良はおかしそうに吹き出した。
僕は不思議そうに見ていると「紹介?何に憧れてるんだろ。あー、おかしい」
楽しそうに笑っているが、それが作り物だと僕は分かる。
「それで、定ちゃんは何て言ったの?」
「何てって‥。それは、その」
そんなの、良いって言わないと。
藍良は溜息をついて「自分で声掛けろ、バーカ!って言った?」と無茶なことを言う。
「定ちゃんにとってさぁ、私ってなんだろ。あー、悲しいなー」
藍良はさほど悲しそうでもなく、明るくそう言う。
でも、それも嘘だと分かっている。
これも、苦く消したい過去の記憶だ。
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この時間帯に、インターホンを押すことの無礼は知っている。
でも、居ても立っても居られなかった。
ガチャっとドアが開き、家の中から的射さんが出て来た。
「入りたまえ」
俺が口を開く前に的射さんがそう言って来た。
「何か大事な話があるんだろ?今日は定例の日じゃないが、特別に許そう」
「‥失礼します」
何も聞かずに俺を部屋の中へ招き入れてくれる的射さんに俺は少し泣きそうになった。
「相変わらず、凄いですね」
家の中には様々な専門書が置いてあった。
それら全てが人間心理に関する本だった。
勉強をしていたのか、机の上には難しそうな専門書と汚い文字で書き殴られたノートが開いてある。
「こんな本をいくら読んだ所で、人間の本質が分かるわけではないがね」
的射さんはコーヒーを飲みながらそう言った。
「社会から悪は無くならない。人間の本質は、悪。悲しいな」
渋いな。
そして格好いい。
俺は本棚の中にある一つの参考書を手に取った。
『何故犯罪は起こるのか。そのメカニズムについて』
専門書にはあらゆる付箋が貼ってある。性悪説、なんて言っているけど人間の本質が善だと信じたいのは的射さんだ。
その奥に、何か置いてあった。
これは、DVD?『深夜のナース—』
「君は、勝手に人のものを許可無く触る無礼者だったかな?」
「す、すみません」
俺は咄嗟にそれを元の位置に戻した。
「人間誰しも、知られたくない秘密はある」
「いや、その‥」
あなたがAVコレクターだということは知っていますよ。
何で父にしても本棚の後ろに隠すんだ。
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「ま、的射さんって一流大学に通っていたんですよね。何で辞めたんです?」
そう聞くと、的射さんは鋭い眼光で俺を見た。
俺は萎縮し下を向く。
「一言で言えば、学ぶ必要が無くなったからだ」
コーヒーカップをテーブルに置き、的射さんが続ける。
「人間の本質を知れると思い、犯罪心理学科を選んだが、何一つときめくものが無かった。こんなものに学費を払うのは馬鹿らしい、そう思ったんだよ」
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