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第ニ章
波乱⑪
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遊園地を出た二人は、そのまま狭い路地裏に入っていく。
何だ。一体、どこへ。
嫌な緊張感が漂う。それを更に強めるかのように、ポツポツと雨が降り出してきた。
その雨を気にする様子もなく、哲也くんは二人から視線を外さない。
「兄貴、何だかとてもヤな感じがしやす」
「ぁあ」
路地を抜けた先の光景を見て、嫌な予感は加速する。そこは、ラブホテル街だった。
そこで山岸が立ち止まり、何かを説明している。
そして、手で「待ってて」とジェスチャーをしてその場を去った。
「‥どうしやす?」
アイに電話をしても繋がらない。
どうする、駆け寄るか?
いや、今駆け寄ったら今まで我慢してきたのが水の泡に‥。
「あ?」
高く、しかし威圧がある声が横から聞こえる。
目の前を見ると、二人の男性がアイに近づいていった。
一人はフードを被っていてこちらに背を向けており顔は分からない。
もう一人はサングラスをしており、アイの肩に軽く触れている。
「‥兄貴、奴らは知り合いですかい」
「いや、どう見ても違うだろ」
遠目から見ても、高校生には見えない。
俺よりも二、三歳上の感じがする。
「行きやしょう」
哲也くんが勢いよく駆け出すのを俺は「まって!」と止めた。
振り向く哲也くんの驚きの顔。
小雨は段々と強さを増す。
「ま、まってよ」
「‥なにを、まつんで?」
雨は、哲也くんのジェルで固めた髪を溶かしていく。
驚きの表情も相まって、懇願しているようにも見えた。
「あいつらが、どんなやつか、俺たちは知らない」
「そうです。得体もしれない奴らが、今姉御をホテルに連れ込もうとしてやす」
アイは抵抗するわけでもなく、二人の男肩を抱かれ歩いていく。
何してるんだ。
早く逃げろよ。
意味わかんねーよ。
このまま、俺が行ったとして、何が。
山岸が来たら?
学校で噂に。
「ちょっと、まってよ。警察とか、その、何か他の人に—‐」
どんっと勢いよく腹に衝撃が走る。
俺は尻餅をついた。
べちゃっとした不快な音と、俺を見下ろす、小さな男の子。
「ふざけんじゃねーよ!」
甲高い声が、その場に響いた。
「ごちゃごちゃ、何に対して言い訳してんすか!自分の保身ばっか考えんじゃねーよ!」
そう言った哲也くんは、そのまま走り出した。
見ると、二人の男性とアイは俺たちの方を見ている。
自分の、保身?
「勝手な事ばっか言いやがって」
俺の気持ちも何も考えないで。
哲也くんは小さいその体で、フードを被っている男に体当たりをした。
ガタイがいいその男にはびくともしない。
男は片腕で哲也くんを持ち上げる。
アイが「やめてください!」と叫ぶ。
ふざけんな。
ふざけんなよ。
近くのラブホテルから、二人の男女が出てきてアイ達を見ている。
男二人は顔を見合わし、哲也くんを下ろしてその場を去った。
アイは哲也くんを抱きしめている。
そして、そのまま俺の方へ駆け寄って来て「ご主人様!」と満面の笑みで話しかけてくるのだった。
何事もなかったかのように笑うアイと、俺に失望した目で俺を睨む哲也くん。
なんだ、この状況。
俺が何したって言うんだよ。
冷たい雨は勢いを増す。
ヒリヒリと転んだ所が痛む。
体にべっとり服が張り付く。
気持ち悪い‥。悪夢だ。
何だ。一体、どこへ。
嫌な緊張感が漂う。それを更に強めるかのように、ポツポツと雨が降り出してきた。
その雨を気にする様子もなく、哲也くんは二人から視線を外さない。
「兄貴、何だかとてもヤな感じがしやす」
「ぁあ」
路地を抜けた先の光景を見て、嫌な予感は加速する。そこは、ラブホテル街だった。
そこで山岸が立ち止まり、何かを説明している。
そして、手で「待ってて」とジェスチャーをしてその場を去った。
「‥どうしやす?」
アイに電話をしても繋がらない。
どうする、駆け寄るか?
いや、今駆け寄ったら今まで我慢してきたのが水の泡に‥。
「あ?」
高く、しかし威圧がある声が横から聞こえる。
目の前を見ると、二人の男性がアイに近づいていった。
一人はフードを被っていてこちらに背を向けており顔は分からない。
もう一人はサングラスをしており、アイの肩に軽く触れている。
「‥兄貴、奴らは知り合いですかい」
「いや、どう見ても違うだろ」
遠目から見ても、高校生には見えない。
俺よりも二、三歳上の感じがする。
「行きやしょう」
哲也くんが勢いよく駆け出すのを俺は「まって!」と止めた。
振り向く哲也くんの驚きの顔。
小雨は段々と強さを増す。
「ま、まってよ」
「‥なにを、まつんで?」
雨は、哲也くんのジェルで固めた髪を溶かしていく。
驚きの表情も相まって、懇願しているようにも見えた。
「あいつらが、どんなやつか、俺たちは知らない」
「そうです。得体もしれない奴らが、今姉御をホテルに連れ込もうとしてやす」
アイは抵抗するわけでもなく、二人の男肩を抱かれ歩いていく。
何してるんだ。
早く逃げろよ。
意味わかんねーよ。
このまま、俺が行ったとして、何が。
山岸が来たら?
学校で噂に。
「ちょっと、まってよ。警察とか、その、何か他の人に—‐」
どんっと勢いよく腹に衝撃が走る。
俺は尻餅をついた。
べちゃっとした不快な音と、俺を見下ろす、小さな男の子。
「ふざけんじゃねーよ!」
甲高い声が、その場に響いた。
「ごちゃごちゃ、何に対して言い訳してんすか!自分の保身ばっか考えんじゃねーよ!」
そう言った哲也くんは、そのまま走り出した。
見ると、二人の男性とアイは俺たちの方を見ている。
自分の、保身?
「勝手な事ばっか言いやがって」
俺の気持ちも何も考えないで。
哲也くんは小さいその体で、フードを被っている男に体当たりをした。
ガタイがいいその男にはびくともしない。
男は片腕で哲也くんを持ち上げる。
アイが「やめてください!」と叫ぶ。
ふざけんな。
ふざけんなよ。
近くのラブホテルから、二人の男女が出てきてアイ達を見ている。
男二人は顔を見合わし、哲也くんを下ろしてその場を去った。
アイは哲也くんを抱きしめている。
そして、そのまま俺の方へ駆け寄って来て「ご主人様!」と満面の笑みで話しかけてくるのだった。
何事もなかったかのように笑うアイと、俺に失望した目で俺を睨む哲也くん。
なんだ、この状況。
俺が何したって言うんだよ。
冷たい雨は勢いを増す。
ヒリヒリと転んだ所が痛む。
体にべっとり服が張り付く。
気持ち悪い‥。悪夢だ。
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