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第一章

終わりと始まり①

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「ねぇ、定ちゃん。私と付き合ってよ」

「え?」

時刻は19.00。

高校生最後の夏休みがそろそろ終わりを迎えようとしている事を、幼馴染の藍良舞と悲しんでいたそんな夜の出来事。

まだまだ蝉とキリギリスが元気よく鳴いており、少し湿気が交じった空気を肌で感じるそんな季節。

突然、何の脈絡も無く、告白をされた。

辺りをキョロキョロと見渡す。

不気味な河童や鴉天狗などの銅像があるだけ。
この時間帯、通称、妖怪公園と呼ばれているここ堂守公園には俺たち二人しかいなかった。

「‥え?」

藍良の顔を見てもう一度聞いた。
ブランコに少し揺られながら、彼女は「あははっ、変な顔」と明るく笑った。

ポケットからスマホを取り出して日付を見る。今日は8月25日。
うん、間違いなくエイプリルフールではない。
ドッキリ?いや、人気も何もない。

眼を擦り、頬をつねる。
夢でもない。

つまり、これは、現実という事だ。

「マジ?」

「大マジ」

ブランコの揺れを足で止めて、藍良が俺の目を見つめハッキリとそう言った。
夏の大会に向けて切ったと言うショートボブの黒髪が揺れる。
街頭に照らされる彼女は、とても綺麗だった。

「あ、そっか、マジか」

ドクドクドクと鼓動が速くなっているのが分かった。
手は汗ばみ、夏の夜風が汗ばんだ体を冷やす。

ミーン、ミーン、ミーンと蝉の音が妙に耳に入ってくる。

どこかで花火の音もする。近くで花火大会等あっただろうか、そう言えば今年は一回も花火を見てないな、等と関係ない事が頭をよぎる。

「じょーだん!」

「え?」

暫く続いた沈黙の後、藍良が楽しそうにそう言った。

じょーだん?冗談‥。

「お、お前な、そういうの、本当駄目だぞ」

「ぷっ、変な顔~。定ちゃん、昔から揶揄いがいがあるよねぇ」

コイツ‥。
でも、冗談と言われて安堵している俺もいた。

藍良舞は高嶺の花のような存在だ。
その容姿もさることながら、陸上競技短距離走では全国区の実力を持っており、天から二物を与えられた者として全国的に有名だ。
最も、今年は県予選で敗退してしまったようだが。

とにかく、俺とは間違っても釣り合わない存在。

『お前、あの藍良舞と幼馴染なんだろ?』と、ズバ抜けて凄い幼馴染がいる、それだけが自慢できるステータスとなっているような人間だ。

しかし、いつかは藍良に見合う男になって告白をする。
その為に努力をしてきた、つもりだ。

「あー、笑った笑った。夏の終わりにこんだけ笑えてよかった。ありがとね」

目を擦りながら笑う。

あれ?何か、この感じ‥。
どこかで、見たような。

「ごめんね、こんな時間に呼び出して。力之助さん、怒るでしょ」

「あー、どうって事ない」

力之助とは俺の父の事であり、その父は高校生の俺に対しても度を超えた過保護だ。
さっきからスマホが振動しているのもきっと親父からだろう。



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