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第五章

催眠学校⑪

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「さぁて、帰ろうかな」

唄うように話すその何かは壇上から飛び降りる。小さな身体はふわっと浮き上がり、まるで重量を無視するかのようにゆっくりと着地した。

「じゃあね、大門入人」

とてつもない疲労感がのしかかってくる。
手も、足も、何も動かせない。
辛うじて、首だけその話す何かに向けた。

手を大きく振っている。
僕は、力を振り絞って口を開く。

「僕を‥殺さないのか?」

「え?なんで?」

単調な声。
疑問で聞いているのに、不思議と、聞かれたような感じがしない。

よく分からない感覚。この何かが現れてから、自分の感覚がまともじゃないような気すらしてきた。

「君、死にたいの?」

そう聞かれて、僕は考える。
死にたい?
僕は、死にたいのか?

「死にたいのなら、アプリを貸してあげるよ」

「‥それは‥勘弁だな‥」

乾いた笑いが漏れる。
もうそんな物とは二度と関わりたくない。

「じゃあ、生きなきゃね。それに、君は死んでる場合じゃないよ。まだまだやるべき事が沢山あるでしょ」

僕が、やるべきこと?

「君は今、罪の意識に苛まれてるのかもね。自分の意思じゃないとはいえ、この学校を無茶苦茶にしたんだから」

いや、自分の意思でもあるのかな?と自問自答し、「ま、いいか」と話を続ける。

「君はこれからこの学校を改革しなくちゃいけない。アプリの力ではなく、自分の力でね。罪の意識を消すことも出来るけど、そんな事望んじゃいないだろうし。いや、違うな‥そんな責任逃れみたいな選択は、選べないだろ?」

見え透いたように断言する何か。

「才能が殺されない学校。素敵だね。この学校の改革こそが、亡き江口遊人への償いにもなるんじゃない?」

亡き、という言葉に心臓を掴まれた思いだった。
江口への、償い。
そうか、そう、なのかも知れない。

悲しい気持ちがあるのに、どこかで嘆いても変わらないと切り替えている自分がいる。
そう思う自分は、催眠状態で操られているのか?

「だから、頑張ってよ。陰ながら見ているよ、大門入人」

立ち去ろうとするその何かに、最後に問いかけた。

「なんで、そんなに優しくしてくれる?キミは、何モノなんだ?」

一瞬立ち止まったが、あはっ、と少し笑って、何かは答える。

「今回の原因の一端はボクにもあるからね。優しくしているつもりはないよ。可哀想な大門入人。いつか、父親の呪縛から解放されたらいいね」

何モノなのかは答えてくれず、「アフターケアはやっておくから安心してねー」と、最後は少年のような調子で体育館を出て行った。

ピィィィィィィィィィィ!!!

どこからか、また、ホイッスルの、音が聞こえる。

意識が、遠のく。

消え行く意識の中で、次に目覚めた時には、全て夢であることを願った。
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