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第五章

催眠学校⑦

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人一人通れるかどうかくらいに開いた扉から、痩せ細った人間が身体をねじ込むようにして入ってきた。

混乱の中、ゆっくりと壇上に向かって歩いてくる。

周りの生徒達は、その人間がまるでそこにいないかのように反応しない。

服装は、全身白一色で統一され、ゆっくりと右足を引きずるようにして歩いてくる。
顎まで伸び切った髪は揺れ、時折吊り上がった目を覗かせる。
そして、近づくにつれ放つ異臭。

「お前、なんで‥」

「久しぶりだね、入人くん」

俺を見上げる形で、そいつは気味悪く笑った。

「江口‥遊人‥」

なんで、こいつがここにいる。

「い、いや‥っ」

横にいた一ノ瀬が消え入りそうな声を漏らした。
先程までの態度から一変して、江口を見てガタガタと震え始めた。

「やぁ生徒会長。初めまして、だよね」

恐怖で身を固めるように、自身の手で身体を抱きしめている。

「こんな結末になるなんて、予想外だね」

ははっ、と渇いた笑いを漏らした。

遠い記憶が蘇る。
そうだ。
最後の方で、こいつは全てを諦めたかのような、こんな笑い方をしていた。

「感動の再会なのに、後ろ、うるさいね」

ポケットからベルを取り出し、二回鳴らした。

ちりりーん、ちりりーん

とても静かで、懐かしい音が耳に届く。

「——あっ」

その音で、ここ数ヶ月間の出来事が、一瞬にしてフラッシュバックした。

俺は‥僕、は。

膝から崩れ落ち、全身が震えた。

「なんて、ことだ」

全て思い出した。
この数ヶ月、僕は暗示をかけられていた。

この、目の前の旧友によって。

「いいねぇ!!それ!!その顔だよ!!」

アハ、アハハハッ!
狂ったような笑い声。その声には憎しみすら感じる。

「なんで、こんな事を‥。なんで‥」

「大丈夫?頭、回ってないんじゃない?あと、勘違いしないでよ。まだ終わってない」

江口は、木本先生の近くに寄って「カメラを持て」と指示をした。

命令されるがまま、木本先生は三脚にあるカメラを外し手に持つ。

「さぁ、ここからが本番だ」

今度は一ノ瀬の近くに行き、小さく耳打ちをする。

ビクンっと反応させた一ノ瀬は、うっとりとした目になって俺を見た。

「せんせぇ‥」

手に持っている制服を落とし、裸体が目に飛び込んでくる。
そして、舌なめずりをして、近づく。
その目は、獲物を狙うハンターの目そのものだった。

「お、おい、一ノ瀬」

俺のズボンと下着を下す。
勃起した俺の性器を見て、「興奮しているの?」と嬉しそうに聞いてくる。

違う、違う!
こんなのは、一ノ瀬ではない!

江口の思い通りにプログラムされた機械だ。

「一ノ瀬、おい、一ノ瀬!目を覚ませ!君は、こんな事をする人間じゃ‥」

必死の呼びかけるが、一ノ瀬の耳には届かない。
彼女は勢いよく咥えた。

じゅぼ、じゅぼと音を立てる。

おかしい。絶対におかしい。

暗示に掛けられていた期間のことは全て覚えている。

催眠アプリ。
あのアプリのルールで行くと、一ノ瀬を完全に催眠下に置くことは不可能の筈だ。
なのに、なぜ‥。

「おっきぃ。私も興奮してきちゃう」

匂いを嗅ぎ、手を下まで伸ばしがら動かしている。

じゅぼ、じゅぼ、ぐちゅぐちゅ

僕の身体は全くといっていいほど動かない。これも、暗示のせいだとでも言うのか。

「今、色々と疑問に思っているだろう?答えてあげたいけど、先に仕上げてしまおうか」

江口は体育館全体に向かって、二度ほど大きく手を叩いた。

ばん、ばんという音と共に、ざわつく声が聞こえる。

ま、まずい。この状況は、いけない。

悲鳴と戸惑いの声‥ではなかった。
聞こえてくるのは、歓声。

「「いいぞー!」」
「「頑張れー!」」

そんな、僕と一ノ瀬の名前を呼ぶ生徒と教師。

全く意味がわからなかった。
そんな整理もつかない中で、一ノ瀬が衝撃の一言を発する。





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